第4話 【守護宣言】傭兵の姉

 ――見ない顔だな、女連れ? 恋人か?

 ――恋人同伴だなんて、小洒落た野郎だぜ!

 ――羨むな、勝ち取れ戦場はいくらでもあるぞ?

 ――? 似たにおいがするナ家族かナ?


 一気にこちらを見て話しだす戦士たちに気圧されて一歩目が踏み出せない……。


 すると、おねえちゃんが前に出て微笑んで手を引いてくれた。

「こっちだよ〜! 受付で登録して傭兵ギルド証を発行してもらわないと!」


 勇気を出して前に踏み出す!受付の人に傭兵になりに来たことを伝える。

「傭兵になりたいんですけど、受け付けてもらえますか?」


 受付の人が俺の横を見て問うてくる。

「そちらの方とはどういったご関係ですか? ご紹介でしたら追加手続きがあります」


 その問いに、おねえちゃんがドヤ顔で大きな胸を張って答えた。

「この子のおねえちゃんです! 心配で守りに来ました! 傭兵になります!」


 受付の人が固まり、自分の顔が真っ赤に染まるのを感じる!

 

 周囲の傭兵たちは……?


 ――恋人じゃなくて姉かよ! 親近感沸くな! おい!

 ――守るためか。良い指針だ。

 ――身近なものこそ守るのが戦士よ!

 ――家族愛なんだナ! 懐かしいんだナ!


 以外と好意的だ!?


 こんな昼の時間に酒を飲んでるので変な人たちだと思ったら、上澄みの方たちだったのかもしれない。


 現金すぎる俺は傭兵ギルドの酔っぱらいさん達に怖さだけじゃなく、親近感を感じていると、気を取り直した受付の人に声をかけられる。


「親族の方のご紹介は受け付けていないので、通常の手続きをいたします」


 「はい」と答えれば、調べた通りの説明が続く。


「魔道具の事はご存じですか?当ギルドには魔道具レベルチェッカーがあります」

 受付の机の上に手のひらの表示がある板が置かれる。


「ギルドの指針として、このレベルチェッカーによる階級制を敷いています」

 勧められて手のひらの表示に手を置くと画面に初士と出る。


 それを見た受付の人に「初士用の冊子です」と渡される。


 渡された冊子を読むと……。


 ・レベルとは強さの段階のことで、強敵に勝つこと、たくさんの敵に勝つこと、これらを繰り返すことで高まります。

 ・初士は最初のレベル、レベル1の事です。

 ・初士だけは最初の成長適性が不明で危険なので魔力の制御含む訓練で成ります。

 ・数字以外に呼び方があるのは魔道具の原本となったものの表示です。

 ・この階級によっては受けられない仕事もあるので頻繁に更新することをお勧めします。

 

 冊子を読み終わると受付の人が銅板を出す。


 ハンマーと文字の飛び出た木の板と引っ込んだ木の板で銅板に初士と打ち付けて渡してくれる。


 おねえちゃんも横から手を置くと初士と出る。

「戦士の一歩目ですが……戦士……?」


 村娘の恰好でどや顔のおねえさんが胸を張る。


 腰には家に置いてあった鉈がさしてある!?


 門から驚きっぱなしでおねえさんの恰好を見てなかった。


 村の外でそんな軽装だったの……。


 ちなみに俺はひたすら訓練用の木刀を作って、村に売り。


 その金で皮装備で全身を包み背には色々入った背嚢、ナイフを腰に挿している。


 背が低いが、見た目だけは立派な黒髪黒目の傭兵だ。


 ……背は低いが。


 ふと、鉈を持つおねえちゃんを見て村に魔物が出た時のことを思い出した。




 あれは一年前……俺が14歳、おねえちゃんが16歳の時の事。

 案外最近だ。 だから鮮明に焼き付いている。

 俺が装備をガッチリ整えた理由でもある。




 カンカンカンカンと警戒の鐘が鳴らされている。


 4回だからモンスターだ! 村の中心の倉庫に逃げないと!


 家に居た俺は、薪を細かく割っていて手に鉈を持ったままのおねえちゃんと一緒に逃げる為、開けっ放しの勝手口を見る。


 近づいて来る小さな影が見える。


 緊張に汗を流し、じっと勝手口を見つめると姿が見えてきた。


 モンスターだ!


 モンスターの方もこちらを見つけたのか、手に持つ棍棒を振り回し家の中へ突っ込んでくる。


 突っ込んできたのは小鬼と呼ばれるモンスターで、大きさは俺よりも小さいが凶器を振り回すその姿は恐ろしい、たかが棍棒と言ってバカには出来ない。


 当たりどころが悪ければ……と、自らの想像に体が震えて言うことを聞かない!


 気がつけばすぐ傍に、その姿があって……。

「アアアア!」


「ほほいっと」「アッ!?」

 俺が恐怖してる間に、ゆらりと前に出てきたおねえちゃんが鉈で棍棒を絡め取り、子鬼の指の一部ごと叩き落とす。


「それ~」「ッ!!」

 返す刃で叩き落とした棍棒に追随し、下へ伸び切った腕に沿うように首まで一閃、スポンと魔物の首は撥ねられた。


「わわ!」

「ええ!?」

 俺は血の噴水を浴びて体中真っ赤だ。


 ……噂のレベルアップでおねえちゃんと俺の体が輝く。



 こちらも返り血を浴びていた、おねえちゃんが鉈についた血を小鬼の死体で拭いながら感想を言う。

「汚いけど、これか〜んたん! 薪よりやわらかいよ?」


 俺を安心させようと微笑むおねえちゃんに見惚れてしまう。

「おねえちゃん、すごいや……」


 小鬼の死体、血と落ちた指すら匂いと共に消えて、ドロップの綺麗な布だけが残された。


 今のおねえちゃんの服の材料だ。



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