第31話 やっぱり面白い!
『ほら、やっぱりこうなった。だから、シンって大好きよ!』
アリスの言葉にイラッとしながらも確認しないわけにはいかず、奴隷商の男に「奴隷はいるのか?」と聞くと頷くので、その馬車へ案内をさせる。
まだ体が痺れているのか、うまく歩けないようで歩くのが遅い。
「どの馬車か言え」
「はい、あの馬車です」
男が指を差す馬車に向かうと悪臭が鼻をつく。
「非道い臭いね」
アンナはそう言うが、奴隷の扱いなんてこんなもんだろ。
袰月の馬車の中には檻があり、その中にはまだ小さな子供が数人詰め込まれていた。
「……」
こちらを伺うような鋭い目つきをした少年が目に付く。
「おい、話せるか?」
「……」
「話せるかと聞いてる。分かるなら縦に首を振れ」
少年は縦に首を振る。
「なら、俺が言うことは分かるか?」
また、縦に振る。
「お前は話せるのか?」
頷く少年に聞く。
「自由になりたいか?」
少年の顔が一瞬パァッと明るくなるが、すぐに俯く。
「自由になりたいなら、手を貸すぞ。だが、お前がこのままでいいと思うなら、俺は何もしない。どうする?」
少年は他の子供達を見回すとキッという風に俺を見る。
「こいつらはどうなるんだ?」
「知らん」
「……」
「どうかしたいなら、お前が面倒をみればいい。俺はお前の手助けだけで精一杯だ。分かるか?」
少年は一瞬考えた後、俺を見る。
「なら、俺がこいつらの面倒を見る! だから、俺を自由にしてくれ!」
「そうか、分かった。なら、言葉遣いを改めるんだな」
「?」
「分からないか? 俺はお前を助ける。なら、言葉遣いから改めるのが筋だろ? イヤならこれまでだ」
「……」
少年が何も言わないので檻から離れ、馬車から出ようとすると少年が言う。
「待て! いや、待って下さい」
少年の言葉遣いが改まったので、檻の前に戻ると少年が頭を下げる。
「俺を……俺達を助けて下さい! お願いします!」
「「「お願いします!」」」
少年と一緒に檻に入れられていた子供達も一緒に俺にお願いしてくる。
「分かった。だが、一つだけ言っておく。お前達を檻から出すが、俺が助けるのはコイツだけだ」
俺の言葉に少年はグッと言葉を詰まらせ、他の子供達は、そんな少年を黙って見ている。
「いいか? 俺はお前を助けてやる。だが、俺は他にも世話しているのがいるから、ここにいる全員を世話することは出来ない。だから、こいつらはお前が面倒を見るんだ。いいか? 出来るか?」
少年は他の子供達を見る。子供達は少年を見て頷き、そして少年もそれを見て頷く。
「分かりました。こいつらのことで面倒をかけることはありません。だから、俺を助けて下さい」
「分かった。すこし離れていろ」
子供達が檻の前から少しだけ離れたのを確認し、錠前を触り『
「アンナ?」
「この馬車の外に女がいる。そいつがアンナだ。外に立っているのはアンナしかいないからすぐに分かるはずだ」
「へ?」
「外に出れば分かる。いいから、早く下りろ!」
「は、はい!」
奴隷の子供達が出て行ったのを確認してから、檻を収納する。
『なんでそんな物を?』
「あとで使うかもしれないだろ」
『ああ、なるほどね』
馬車から降りるとアンナの周りには奴隷の子供達が固まっていた。アンナは子供達への同情と悪臭でどうしていいか戸惑っている。
「あ、シン……」
「悪いが、もう少しそのままでな」
「ええ~」
奴隷商の男の前に立ち、他にいるのかと聞くといないと答える。
『はい、ダウト!』
「もう一度、聞くぞ? いるのか?」
「いません……」
『やっぱり、ダウト!』
「そうか、分かった。じゃ、『俺ことシンには嘘はつけなくなる』」
「な、なにを……」
「また、聞くぞ? 他に奴隷は?」
「はい、あの馬車です。え? 私はなにを?」
「あの馬車か。他は?」
「他には……あの馬車です。え? なんで?」
「そうか。じゃあ、錠前の鍵は?」
「はい、コレです。って、ええ?」
奴隷商の男から鍵を受け取ると少年に渡し、開けてこいと言うと、鍵を受け取った少年は馬車へと走る。
俺は奴隷商の足下にさっき男から投げつけられた革の袋を投げる。
「これがアイツらの代金だ。文句はないよな?」
「いえ、これじゃ大損です。ハッまた……」
「そうか。不足か。それは困ったな。お前達の命の値段も込みなんだが、安いとなるとな~なら、少し間引いておくかな。そうすりゃ、お前の命の値段も上がるかもな? どうする?」
そう言って、奴隷商の男を見ると何やら股間の辺りから湯気が立ち、足下には水溜まりが段々と大きくなる。
「納得してもらえたかな?」
「はい。十分です!」
「そりゃ、よかった。だが、このままじゃ貰いすぎだな。少し待て」
「いえ、もう十分ですから!」
「そう言うなよ。な?」
『まだ、捕捉してるから、いつでもいいわよ』
「分かった。じゃ、そうだな
一.俺達のことを他者に教えない。
一.俺達の前に現れない。
一.俺達のことを口にしない。
一.俺達のことを記録に残さない。
一.これらのことに反した場合には頭痛、腹痛が発生する。
これで頼む」
『分かったわ。少し多い気もするけどなんとかなるでしょ! 『
アリスがいう様に奴隷商の男や、護衛の男達に黒いモヤのような何かが体の中にス~っと入っていくと、慌てて立ち上がり、頭を抱えながらそれぞれの馬車に乗り込むと野営地を後にする。
そんな様子をアンナと奴隷の子供達で見送る。
「シン、何をしたか聞いても?」
「聞きたい?」
アンナに少し笑いながら答えると「やっぱいいわ」と遠慮された。
「おい、少年! お前達は何人いるんだ?」
「は、はい。え~と……」
「十六人よ」
少年が答える前にアンナが答える。
「じゃ、少年……あ~面倒くさい。お前の名前は?」
「は、はい。アンディと言います」
「そうか。で、女の子はいるのか?」
「……」
「アンディ、いるのかいないのか、答えるんだ」
「い、います。ですが、まだ幼いので非道いことは……」
「はぁ?」
「ですから、まだ幼い子もいるので、どうかひどいことは止めて頂ければと」
「はぁ? お前は何を言ってるんだ?」
「へ?」
「今から、風呂を用意するから、女の子までお前が入れるのはキツイだろうと思ったから聞いたまでだ」
「え? あの、お相手をさせるのでは?」
「はぁ?」
「ぷっ」
俺とアンディのやり取りを聞いていたアンナが溜まらず吹き出す。
「ふふふ。心配するのも分かるけど、その辺りのことは大丈夫よ。なぜなら、私にも手を出してこないくらいのへたれだから」
「アンナ!」
「ね?」
「はぁ」
アンディとアンナのやり取りは無視して、フクに連絡を取り、野営地まで来るようにと念話で伝えると、野営地の少し奧に穴を掘り、土を固め、間と回りを囲むように屏を立てると、洗い場も用意し泥で足が汚れないように少しだけ傾斜を付けて土を固める。
「なら、後はお湯を溜めて……」
「兄ちゃん、ずるい!」
お湯を流し入れているところで野営地に着いたフクに怒鳴られる。
「何がだ?」
「アリスに聞いた! 一人で面白いことをしたって!」
「アリス……あの野郎……」
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