第32話 食事にします

 仲間外れにされたと憤慨するフクをなんとか宥めて、次は呼ぶからと言い聞かせてフクにも風呂に入るように言う。


「約束だからね! 絶対だからね!」

「はいはい」

 フクを軽くあしらい風呂場へと向かわせる。

「ねえ、なんでこうなったの?」

「ん? ああ、ミラか。一瞬、誰か分からなかったよ」

「そうね、仮面とか着けてるしね……って、アンタが着けたんでしょうが!」

「あ、そうだった。で、何?」

「だから、なんでこうなったのかって話よ」

 ミラがまだ小さい子供の奴隷を指して言う。

「ああ、あの子達ね。後で説明させるから、今はアンナを手伝ってやってよ。アンナも当事者だし、そっちから聞いて」

「もう、分かったわよ」


 ミラが風呂に行くのを確認してから、隊商がいなくなった野営地を見渡す。

「アイツら、馬車の一台くらい置いてけよな。どうすんだよ。まだ小さい子もいたのに」

 一人ぶつくさと言いながら、竈を組み夕食の準備を進めているとカレン達が近付いてくる。

「何かお手伝いすることありますか?」

「ああ、これを裁いてくれるかな」

「はい。ですが随分多いですね」

「そりゃ、十六人分だからね。少なくとも俺達の倍だな。今日はアイツらも保護したばかりだしお客さんだけど、明日からは手伝わせるからさ」

「別にそれは構いませんが、大丈夫なんですか?」

「何が?」

「いえ、こんな大人数になってしまって、色々と大変じゃないですか」

「そうかな」

「ええ、そうですよ」

「まあ、大変なのはアンナとかだからね。俺は言うだけだしさ」

「そうですか。あなたは大変だとは言わないんですね」

「どういう意味? 俺が大変であって欲しいの?」

 カレンは俺を見たまま、少しだけ黙り込むと意を決した様に話し出す。


「あなたは私達を保護してくれました」

「そうだね」

「ですが、あなたは一言も疲れたとか大変とか、そういうことを一言も言いません」

「そうかな」

「もし、あなたが少しでも負担に感じているのであれば、どうにかしてあなたに対し感謝の意を表すことも出来るのでしょうが、肝心のあなたがそんな状態なので、どうしたらいいのかと皆で考えています」

「そんな考えること? 別に俺が気にしていないんだし、それにアンナやカレン達には、こうやって食事の準備とかしてもらっているんだしお互い様じゃないかな」

「……」

 カレンは納得したようなしたくないような難しい顔になっている。


「カレンはそれじゃ感謝が足りないと思っているの?」

「はい! それです! もっと私達になんでも言い付けて下さい! なんなら、この体でも「はい。ダメ」……え?」

「気持ちは嬉しいけど、それはダメ」

「ですが、今の私達にはこれくらいしか感謝を示すことが出来ないので……」

「感謝って……さっきも言ったじゃない。お互い様だって」

「……」

『変われば変わるもんだな。記憶がないと言っても、こうも性格が変わるかね』

『ちょっと、怪しいかもね』

『アリスもそう思うか』

『ええ。どっかでボロを出しそうね。ちょっと注意しててね』

『分かった』

 カレンとは無言のまま、夕食の準備をしていると風呂から上がった子供達が体からほかほかと湯気を出しながら、口から涎を垂らしながら、興味を抑えられずに竈へと集まってくる。


「おい、アンディ! 危ないから近付けさせるな!」

「はっ! す、すみません。おい、ほら竈から離れて!」

 アンディも涎を垂らしながら竈に近付いて来た一人だったので、慌てて涎を拭き子供達を竈から引き離す。


「フク! テーブルと椅子を用意してくれ」

「分かった!」

 フクにお願いすると、少し離れた位置に大きめのテーブルを三つと、それぞれに椅子を用意すると、アンディや子供達から「凄い」と声が漏れる。


「アンディ、アンナ、子供達を座らせて。フク、皿を出してくれ」

「「分かりました」」

「分かった~」

 テーブルの上に皿が載せられると、子供達はその皿をジッと見つめている。

「皿はちゃんと全員の前にあるな。じゃあ、アンディ」

「はい?」

 アンディも一緒になって椅子に座って、食事が出されるのを待っていたところを呼ばれたものだから、何? と思いながらも俺の元へと走ってくる。

「なんですか?」

「ほい」

「え?」

 アンディに鍋を掻き混ぜていたお玉を渡す。

「呆けてないで、そのお玉でお前が子供達によそうんだよ」

「あ、そういうことでしたか。分かりました。じゃあ……近いよ! 危ないよ! まずは一列に並んで!」

 アンディがそう言って俺の言うことを理解し、子供達に並ぶように言う前にアンディの周りに子供達が群がり皿を差し出していたが、アンディの言葉にササッと一列に並び直す。


「並んだな。じゃあ、皿を前に出して」

「はい! アンディ兄ちゃん」


 アンディの仕切りで次々と子供達の皿に料理が盛られると子供達はそれを零さないように大事に持ち、テーブルまで戻ると、そっとテーブルの上に置き、椅子に座ると皆が揃うのを待つ。

 テーブルの上の皿を黙って見ていると、アンディも自分で装った皿を持ちテーブルに座ると俺を見てくる。

 勝手に食べればいいのにと思いながらもアンディに黙って頷くと、アンディの号令で一斉に皿にかぶりつく。


「ねえ、兄ちゃん。俺達のは?」

「ああ、俺達はこっちだ」

 子供達から少し離れた位置で、バーベキュー用の網の上で肉と野菜を焼くだけのシンプルな食事を用意する。


「え~これ? 僕もあっちがよかった」

「フク。あれは子供達用の食事だ。多分、あの子達の栄養状態はよくはない筈だから、消化のいい野菜中心のスープにしたんだ」

「そっか。なら、しょうがないね」

「分かったのなら、さっさと焼いていくぞ」

「は~い!」

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