第30話 カイナ村に向けて
日も陰り、このまま森の中で夜を越すのかろ思っていたところで開けた場所にでる。どうやら街道に出たようだ。まあ、地図スキルのおかげで分かってはいたが、地図での位置確認と自分の実感するのでは一味違う。だが、ここからカイナ村まではまだまだ遠い。
とりあえずは野営場所を確保しないとな。
『アリス、この辺でどこかないかな?』
『そうね。もう少し歩いた所に開けた場所があるわ。多分、この街道を利用する人達向けの野営地ね』
『分かった。ありがとう』
『ふふふ。いいのよ。なにか面白いことが起こりそうだしね。じゃあね』
「面白いこと?」
「どうしたの? シン」
「ああ、もう少し歩いたら野営が出来る場所があるだろうから、そこまで頑張ってくれな」
「それはいいけど……その野営地って、他の人もいるのよね?」
「まあ、そうだろうな」
「大丈夫?」
「なにがだ?」
「だって、私達六人にシンとフクにユキでしょ。どうにか出来ると思えば……」
「襲われやすいってか。それにユキも討伐するなり、従魔にするなり使い途はいっぱいあるし、綺麗どころを俺みたいなガキが一人で侍らしているとなれば、面白くはないだろうな」
「そこまで分かっているなら、他の所にした方がいいんじゃないの?」
「他の所か……それをアンナが教えてくれるのか?」
「私には無理だけど……探せばどこかあるかもしれないじゃない」
「だが、他の子はそうでもないみたいだぞ。ただでさえ慣れない森の中を歩いて疲れているんだし、早く休ませないとな」
「そうなのよね~はぁ」
「あんまり、心配しすぎると老けるぞ」
「失礼ね! まだそんな歳じゃないわよ!」
アンナを少しだけ怒らせてしまったようだが、そういうことを気にする暇もなく野営地らしき焚き火の明かりが見えてくる。
「フク!」
「なに? 兄ちゃん」
殿にいたフクを呼び、勝手に暴走しないように注意する。
「え~兄ちゃんが僕に言うの? 逆じゃない?」
「だが、ユキに手を出されたらどうする?」
「その手を切るだけだよ」
それのなにがダメなのとでも言うように俺の顔を見る。
「分かった。なら、お前は少しの間ここでミラ達と待っててくれ。俺がアンナと先に様子見してくる。大丈夫そうなら、念話で伝えるから」
「うん、分かった。待ってればいいんだね」
「ああ、頼む。じゃ、アンナ。行こうか」
「ええ、いいわよ」
「私も……」
「ミラ、お前はダメだ」
「なんでよ!」
「お前、仮面を着けているのを忘れてないか?」
「あ!」
「そういうことだ。こんな暗い街道をそんな怪しげな仮面を着けた女が来たら、正直チビるわ」
「シンが作った物じゃない!」
「まあ、そういうな。そんな訳で留守番な」
「分かったわよ!」
ミラが少し下がったのを確認するとフクに十分に注意するように伝え、アリスにもマーキングを頼んでおく。
『放っておいた方が面白くなるのに……』
焚き火に当たっている集団に近付く。
思った通り、少し柄の悪い集団に守られている商人風の中年男性と、その
近付いた俺達に気付いていた隊長らしき男が声を掛けてくる。
「止まれ!」
言われた通りに焚き火の手前で止まった俺達に聞いてくる。
「なんの用だ?」
「なんの用って、俺達も野営したいと思ってここへ来たんだけど」
「ここは一杯だ。他を当たるんだな」
そう言って、追い返されるが横にいるアンナに気付くと少しだけ下卑た笑いを見せる。
「待て!」
「なんでしょう?」
「その女は置いていけ!」
「はぁ?」
「聞こえなかったのか? 女は置いていけと言ってるんだ!」
「……」
「シン……」
アンナが不安気に俺の腕を握ってくるが俺の心配ではなく、俺がやり過ぎることを心配しているんだろうな。
「大丈夫だから」
「大丈夫じゃないでしょ! ここで、護衛の人達を動けなくしたら、残った人達はどうするのよ!」
少し興奮したせいか、かなり声が大きかったらしく目の前の男だけではなく談笑しながらも、こちらを注意していた男達が立ち上がる。
「え?」
「え? じゃないでしょ。もう、アンナのせいで余計悪化したよ」
「でも……」
「ほれ、お前がさっさとその女を寄越さないから、こうなったただろ? 出来ればなにもしないで帰してやったのに。すまんが、俺にはあいつら全員を抑えることは出来ない。すまんな」
「はぁ~なにを勘違いしているか分かりませんが……そこの太ったおじさん」
俺の言葉に面白そうに様子を伺っていた商人風の中年のおじさんに声を掛ける。が、おじさんは誰のことか分からずに周囲を軽く見回した後に「私のことですか?」と自分の顔を指差す。
「そう、あんただよ」
「ふぅ~分かりました。では、ご用件はなんでしょうか? その女性の買取ならご相談に乗りましょう」
「シン……」
「大丈夫だから。おっさんはなにを勘違いしているのか知らんが、俺が言いたいのはそうじゃない。俺にアンナを寄越せと言っている護衛の連中を止めなくてもいいのかと」
「止める? 私が? なぜ?」
「なぜって、お前ら隊商は護衛がいなくなっても、この先困ることはないのか?」
「はぁ? 護衛がいなくなるですって? なぜ、そう思われるのですか?」
太ったおっさんは俺が言いたいことに気付いているのか少しだけ含み笑いを我慢しながら聞き返す。
「分かった。なら、俺がすることにも文句はないんだな。あくまで、俺と護衛の連中との問題だと言うんだな?」
「ええ、そうですよ。ですが、もしそこの女性をお売りしていただけるのなら、ある程度の金子をお渡ししてもいいとは考えていますがね」
そう言って、この商人もアンナの体を舐め回すように見た後に下卑た笑いを見せる。
「な、こうなるだろ。だからアンナが心配することじゃない」
「うん、分かったわ。もう、遠慮しないでやっちゃって!」
そうアンナが言った瞬間にドッと笑いが起きる。護衛の連中だけではなく、隊商の商人もこちらを指差し笑っていた。
「くっくっくっ、いいですね。久し振りに笑わせてもらいました。これはお代です」
そう言って、商人が金貨の入った革袋を俺に向かって放り投げる。
「ほう? 随分、気前がいいな」
「ええ。どうせ、後で回収する予定なので」
商人と護衛の男が互いに顔を見合わせてニヤリと笑う。
「な、なんなんですか! あなた達は!」
「おや? なにを怒っているんでしょうか。もういいです。さっさと片付けて下さい。早くしないとあなた達のお楽しみの時間も無くなりますよ」
「はいはい、分かりましたよ」
護衛の男が腰の剣を抜くと周りにいた護衛もそれぞれ剣を抜く。
「面倒だな~アリス!」
『はい、おまかせ。ここは手堅く『
「ああ、ありがとう」
「ねえ、シン。誰と話してるの? どうして、こうなったの?」
アンナの言う「どうして」とは、目の前で倒れて『アババ』と体をビクビクと震わせながらこちらを見ている護衛の男と商人のことだろう。それと同じように周りにも体を痺れさせ震わせながら寝転ぶ男達。
「さてね。どうしようかな」
目の前の商人を鑑定すると『職業:奴隷商人』となっていた。
「あちゃ~」
『ほら、面白くなってきた!』
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