第29話 出発です
ミラは俺の推論に反論することが出来ず、ずっと『嘘よ!』と繰り返し呟いている。
「ちょっと、どうするの? アレ!」
アンナがミラを指差して言うが、俺にどうしろと?
「なあ、兄ちゃん。出るなら早くしないと暗くなっちゃうよ」
「ああ、それもそうだな。じゃ、アンナは他の連中をお願いな。ユキ、フク、行くか」
「うん!」
『やっと、ここから離れるのだな』
「そうだな。切っ掛けは些細なことだったけど、気付けば長いこといたな」
「僕が気付いたんだよね」
「そうだ。フクがユキの気配に気付いたのが始まりだったな」
『そうだったのか?』
ユキがフクの顔を見つめる。
「そういや、なんであんな連中に捕まっていたんだ?」
『言わない……』
「じゃ、いいや」
「え~僕は聞きたい!」
『しょうが「フク、いいか。自分から言い出すまで待つのも優しさだぞ」な……』
「でも、兄ちゃん。さっき、ユキはなにか言いかけてたけど?」
「そんなことはない。なあ、ユキ」
『あ、ああ。そうだぞフク』
「それにな、こんだけ引っ張ったんだ。ただ寝ていたところを油断して捕まったとか、そんなしょうもない恥ずかしい理由じゃないはずだ。だから、ユキが自分から話すまで待ってやろうじゃないか。なあ、ユキ」
『あ、ああ。そうだな。しかし、いつまでも……』
「いいから、いいから。まだ先は長いんだから、そう慌てることはないさ」
『……』
「大丈夫? ユキ」
『ああ、心配ない。ありがとうな』
ユキを揶揄いながら、アンナ達を待っているが、一向に洞窟から出てくる気配がない。
「あ~クソッ。フク、来ないなら置いていくだけだと伝えてくれ」
「え~僕が言うの?」
「悪いな。俺じゃ、話が長くなりそうなんでな。すまんが頼む」
「もう、分かったよ」
フクが洞窟の中に入っていくのを見てから、改めて森の外に出るために一番近い街道を目指す。
「アリス、直近の街道まで案内よろしく!」
『え~そのくらい、シンでも出来るでしょ!』
「最近、サボっていたんだから、そのくらい働け! この、脳内ニート!」
『残念でした! 私はニートじゃありません! ちゃんとシンの映像を編集してパッケージ化して売り出して小銭を稼いでいるんだからね。ふん!』
「俺の……映像を……パッケージ化?」
『そうよ。結構、評判よくてね。再販も計画中なの!』
「評判だと? お前は、俺の脳内にいるんじゃないのか?」
『まあ、ハズレではないけど当たりでもないかな。ちゃんと、外のナニかと連絡取り合っているし』
「だから、それは何処で誰なんだよ! 教えろよ!」
『え~イヤです~』
「この……」
「兄ちゃん、来たよ」
アリスと言い合っているところにフクが追い付いて来た。
フクの後ろにはまだ、ぶつくさと呟いているミラとアンナ、それとメイド達の計六人が並んでいる。
「来たな。じゃあ、ユキとフクは殿をお願いな」
「いいけど、どこに行くの?」
「まずは近くの街道を目指す」
「分かった」
フクは短くそう言うと、ユキと一緒に列の後ろへと向かう。
すると、アンナが俺の横に並ぶと話しかけてくる。
「ねえ、シンの最終的な目的地はどこなの?」
「聖アスティア教国だ」
「え? 本気?」
「本気だぞ。なんでだ?」
「なんでって、遠いじゃない」
「ああ、そうみたいだな」
アンナが俺の顔をジッと見る。
「嘘や、でまかせとかじゃないみたいね」
「俺が嘘を言ってどうする」
「それもそうね。なら、本当なんだ……」
「なあ、遠いのがなにか問題なのか?」
「そうね。遠いのもそうだけどさ。他の国ってのがね……」
「他の国に行くのは難しいのか?」
「ここから、教国まで大小いろんな国を通ることになるわ。その為には身分証が必要になるのよ。でも、私達はずっとお屋敷にいたから、そんな物は持ってないわ。それはあなた達も同じでしょ?」
「だけど、魔の森を抜ければ、もう隣国だぞ」
「そうなの?」
「ああ、だから隣国での身分証が必要になるな」
「そうか~」
アンナが俺の言葉に納得はしたみたいだが、それならそれでどうやって身分証を作ればいいかと考え込む。
『な~にしてんの。こういう時にはギルドでしょ! なに、知らないの?』
「スマンが、なに言ってるんだ?」
『え~まさか、ラノベとか読んでない人?』
「なんだ? そのラノベってのは?」
『アチャ~まさかの異世界初心者だったか……』
「あのな、異世界初心者もなにも、そう何回も来られるものじゃないだろ」
『そうなんだけど、シンが魔法とか結構熟すから……まさか、初心者だったとはね』
「そういうのはもういいから、どうすればいいのかだけ教えてくれ」
『分かったわよ。取り敢えず、国境を越える前に、村じゃなくて街に入って。そして、ギルドで登録をするのよ。いい? 村じゃダメよ。街に行くのよ』
「街か……」
アリスとのじゃれあいが終わるとアンナが不思議そうに俺を見ている。
「シン……大丈夫?」
「なにがだ?」
「なにがって、ず~っと独り言を言っていたじゃない。もう、大丈夫なの?」
「ああ。少し目的地をずらすぞ。近くの村に行こう。ここから一番近い、『カイナ村』だ」
「カイナ村ね~聞いたことないわね」
「そりゃそうだろ。お隣の国なんだしな」
「ふ~ん。なら、シンはなんで知っているの?」
アンナの言葉にドキッとするが、ここは魔法とスキルが珍しくもない異世界だ。なら、答えは決まっている。
「俺のスキルだな」
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