第13話 ちょっと覗いてみたけど……

 アリスに編集作業を頼んでいる間に問題のお嬢様の記憶も読んでみるかと囚われている牢に近付くと早速の歓迎だった。

「やっと、来たわね。お前はここの連中とは違うんでしょ!なら、さっさと私を出しなさいよ。何でいつまでもこんな所に入れているのよ。ねえ、聞こえているんでしょ?それとも話せないの?いえ、それはないわ。最初に会った時に何か話していたし…じゃあ何で私を出さないの。もしかして私が貴族と思ってないのかしら。困ったわ、この格好じゃ報酬なんて出せないし…まさかこの体が目的なの?そんな、ここまで純潔を守って来たのに…って、ねえ何とか言いなさいよぉ!」

「ハァ~一人芝居は終わりか?」

「何よ!ちゃんと話せるじゃないの。何でいつまでもこんな所にいれているのよ!さっさと出しなさいよ!」

「……だよ」

「はぁ何!何言ってんの? 聞こえないわよ!」

「だから、お前の声がうるさいからだよ!」


「あっ悪かったわよ。これならいいの?」

「ああ、最初っから大人しくしてればいいものを」

「ほら、大人しくしたんだから、出しなさいよ!」

「それは断る」

「何でよ!あっ……何でよ、何もしないわよ。お前だって男なんだし私よりは強いでしょ」

「そうじゃない、お前を怖がる人達がいるからだよ」

「誰が私を怖がるですって!」

「だから、そのヒステリックな叫び声を止めろって。そのまんまだと、ず~っとそこだぞ」

「なっ!……分かったわよ。もう叫ばないから出してよ。お腹も減ったし辛いのよ。ねえ……」

「だから、お前を怖がる人達がいるからダメだって言ってるだろ」

「もういいわよ。それなら暇潰しの相手になってよ。少しくらいは時間あるんでしょ?」

「ああ、いいぞ。じゃあ、そこに横になってみろ」

「何よ、こんな所で横になれって言うの」

「何を今更言ってるんだ?どうせ、その辺で横になって寝てるんだろ?いいから、早く横になれ」

「わ、分かったから。乱暴に言わないでよ。ほら、これでいい?」

 牢の檻近くで横になるお嬢様に『睡眠』を掛け記憶を覗く。

「アリス、これも編集頼むな」

『いいよ、もうすぐさっきの編集も終わるしね。今は新しいハードも用意したしいくらでも編集できるよ~』

「待て!何だ、その新しいハードってのは! 何を人の頭の中に作っているんだ?」

『別に頭の中って訳じゃないわ。まあ、シンの中ってのは合っているけどね。じゃあ編集作業に入るから切るね。じゃあね~』

「おい、おいアリス!切りやがった。くそっ」

 ついでだとお嬢様の擦り傷も治しておくか。

 すぐに始末されるだろうが、それまでは綺麗になっとくのも冥土の土産だな。

「ついでに鑑定しとくか」


 ~~~~~

 名前:オリヴィア・ラネーヨ

 年齢:十三歳

 性別:女(処女)

 種族:人族

 HP:七〇

 MP:一〇

 スキル

 なし

 称号

 不義の子

 不遇の令嬢

 ~~~~~


「うわぁ、見なきゃよかったな~」


 そんな、折角の殺る決心したのに何だか同情してしまうな。

 俺はこんな優柔不断じゃなかったハズなのに。


『な~に~同情しちゃった?』

「アリス、もう編集は終わったのか?」

『その子の記憶なんだけど、すっごく少ないというか薄いの。あまり大事にされていないどころか、ほとんど無視されていたみたいね。だから嬉しい記憶も悲しい記憶もほとんどないのよ。物凄くうっすいの。その点、シンの記憶は特濃よね~』

「お前は何の評論家なんだよ。薄いとか特濃とか、こっちには全然分からんよ」

『まあ、記憶は出揃ったから鑑賞会といきましょうか。フクも一緒に見ないとね』

「じゃあ、あっちで見せてもらおうか。フクも呼んどいてくれ」

『分かったわ』


 フクと合流しアンナさん達から離れて二人でユキにもたれ掛かって横になる。

「フクは別バージョンな」

「ええ、ずるい!僕も一緒のがいい!」

「我慢すると約束出来るか?」

「うん、する!するから見せてよ!」

「だとよ、アリス頼むな」

『もう、折角編集したのに~』

「いいから、見せてくれ」

『(じゃあ最初はライトバージョンね)』

「(ああ、それでいい。気が効く子でよかったよ)」

『じゃあ行くわよ!ようこそ『夢の世界トリップ・ワールド』へ!』


 ~~~~~

「ここは?」

『まずはあのお嬢様の記憶からよ』

「ああ、そういうことか。続きを頼むな」

『頼まれました。じゃ、行くわよ』


 その日は珍しく父と母から「最近噂になっている歌劇でも見てくるがいい」と言われ、部屋から連れ出された。

 今まで無視されていたのに「どういう風の吹き回しだろう?」と不思議に思ったが、暫くぶりに外に出られることの嬉しさが勝ってしまい何も考えずに言われるままに過激鑑賞へと出掛けた。


 歌劇の内容は女性が主人公のよくある冒険譚だったが退屈な自分の人生には十分に刺激的な内容だった。

 家に着いてもまだ興奮は醒めやらず、久しぶりに甘えさせてくれた両親に話して聞かせると「うんうん」と今までとは違う優しい二人に、いつもと違う様子でいることに気付かなかった。


 すると両親が「そんなに楽しいのならお前も経験してみるか?」と問われ「うん」と応えてしまう。

 今、考えればこれが今の状況を作ってしまったのだろう。

 次の日にはガイド兼護衛の女性冒険者と世話役として、数人のメイドが用意され出立することが決まっていた。


 更に次の日には、なぜかパレードで領民に祝われて送り出されてしまった。

「どうして、こうなったの?」

 そう思いながらも馬車は森の奥へと進んで行く。

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