第14話 どうして、こうなった

 知らない内に森の奥に行くことになり、知らない内にパレードが催されることになり、知らない内に……

「何で? どうして? 私が何かしたの?」

 森の奥へと進む馬車の中でオリヴィアは考える。


「何で、私が屋敷から追い出されるの。あんなに目立たないように大人しくしていたのに」

 何がダメだったのかを必死になって考えるが、考えられることは一つしかない。


 それは、寝付けなくて水でも飲もうと部屋を出て炊事場に行こうと両親の部屋の前を通った時のことだった。

 部屋の中から灯りが漏れ両親が起きているであろうことが予測出来た。

「見つかったら、怒られる」

 そう、思ったからゆっくりと音が出ない様に部屋の前を通ろうとした時だった。


「なあ、何であの娘をこの屋敷から追い出すんだ。別に追い出さなくともどこかに閉じ込めるなりすればいいだろう」

「いいえ。ダメです。例えどこかに閉じ込めたとしても、この屋敷に置いている限りは安心出来ません」

「何でそこまで反対するのかが分からん。実の娘と言う訳じゃないんだから、私が何しようと構わないだろ」

「それはそうですが、このことが他の貴族連中にバレれば、足元を掬われることになります。それだけは避けねばなりません」

「なら、追い出す前にちょっとだけ、試してもいいんじゃないか」

「いいえ、絶対にダメです。例え、この屋敷のメイドの口が固いとしてもどこから漏れるか分からないんですから。なので、あの娘は森の奥で始末させます」

「お前は誰かの口から漏れることを警戒しているが、その始末を任せた連中が戻って来たらと心配にならんのか?」

「あら、そんなミスを私がすると思って?」

「何だ、何かもう手は打ってあるのか?」

「いえ、そうじゃありませんが、始末を頼んだ連中には前金をたっぷりと渡して、死体が見つかることがないようになるべく森の中心で始末するように頼んでいます」

「それだけじゃ不安だな」

「ふふふ、いいですか。森の中心には入り口付近で彷徨いている魔物とは桁違いの魔物が存在することはご存知ですよね」

「あ、ああ、それくらいは常識だぞ」

「そうですわね。なので頼んだ連中もそれほど馬鹿じゃないので、森の中心に行けと言ってもまず近付かないでしょう」

「なら、依頼は失敗するんじゃないのか?」

「ですから、十分に策は練っています。まず、森の入り口から一週間は奥へと進行する様に言いつけています。そして……」

「あ~勿体付けるな! 続きは!」

「ふふふ、いいですか? 一週間を過ぎた後は、一緒に連れている侍女は好きにしていいと伝えてあります。なので、一週間は我慢するでしょう」

「なら、あの娘も傷物にされると言うのか。なら、私にくれても……」

「ですが、娘だけには手を出さない様に厳命しています。綺麗な身体のまま、逝かせてあげるのが親としての最後の優しさでしょうか」

「何が『親』だ。結局は自分は手を汚さずに他人を使って始末するだけの話じゃないか。ああ~勿体無い」

「まあ、あなたは子種がないことをいいことに屋敷内の娘はほぼお手付きじゃないですか。中には子供に恵まれたら私を追い落として後釜に座ろうとしている子もいるってのに」

「だから、後腐れはないだろう」

「そんな無節操な行いを改めないから、侍女の中でも正義心から中央に報告しようとする連中が現れるのです」

「ああ、だからか。あの女が同行することになったんだな」

「そうですよ。全てはこの家のためですから。少しは行動を改めてもらわないと」

「まあ、それはおいおいだな。それで話の続きだが一週間経過して、やりたい放題したら戻ってくるんだろ?」

「いいえ、それはありません」

「何故、そう言い切れる?」

「あなた、山奥には『山賊』と言う輩がいることはご存知で」

「バカにするな! それくらいは知っている」

「なら、森の奥で女に乱暴しやりたい放題の連中は、その山賊にとってはどう映るでしょうね?」

「ああ、そう言う訳か。怖い女だなお前は」

「私だって、こんなことやりたくはありませんよ。元はと言えば、あなたがあの娘に手を出そうとするからでしょう!」

「まあ……それは悪かった。だが、同行させる侍女の家族とか何か言って来ないか?」

「ですから、そこは何らかの理由をこじ付けて捕縛する準備は進めています。あの娘達が出発したら、屋敷内で良からぬことをしたとか罪をでっち上げて家族全員を捕縛するようにね」

「ふ~ん、ならその家族の中に好みの娘がいたら、いいよね」

「ですから、そういう所を改めて下さいとお願いしています。いいですか、今回は我慢して下さい」

「チェッお前だって、あの娘の父親とよろしくやっているんじゃないか。違うのか?」

「ハァ~そんなのとっくに捨てています」

「そうだったのか?」

「ええ、息子が生まれたので、もう必要なかったのですが。産後もしつこくてバラすとか言い寄って来たので、お情けの意味も込めてしてあげましたけどね。そのまま逝ってしまいました。その時に出来てしまったのが、あの娘です。ですから、私にとってはどうでもいい娘なんですが」

「なら、いいじゃないか」

「ですから、『私の娘』ではありますが、あなたの『実の娘ではない』と言う事実を知るものがいないことが問題だと言っているじゃないですか。もし、あなたがあの娘にイタズラしたことがバレれば、あなたは実の娘を乱暴した男になってしまいます」

「まあ、それもそうか」

「仮に実の娘じゃないことがバレれば、今度は私が不義理で罰せられます。もし、息子まで調べられたら、貴族位を剥奪されるかもしれません。実際、あなたには後継者を作ることが出来ないのですから」

「それは困るな」

「なので、あの娘のことは諦めて下さいね」

「あ~分かった。しかし勿体無いな~」


 ただ、喉が渇いて水を飲みたかっただけなのに、聞いてはいけないことを聞いてしまった。

 急いでベッドに潜り込み上から布団を覆い被せる。

「私、死ぬんだ。殺されるんだ。何となくいらない子と扱われているのは知っていたけど、まさか本当にいらない子だったなんて」


 そのまま布団にくるまり朝が来るのを待つだけだった。

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