第3話 気を取り直して

 ふざけた称号を付けられたことに気付いたが、『時すでに遅し』とばかりに不名誉な称号ばかり。

 もう称号ってか単なるあだ名だよな。


「もう、称号付けるの禁止!」

『そりゃムリっす! アッシには止められねえでやんす!』

「また、変な記憶を取り込んで。最初の頃の無垢なアリスはどこにも残ってないのかよ!」

『探してみる?』

「探せる訳ないだろ! もういい、こうなりゃお前と俺の記憶を消す方法を探した方が早い」

『ええ、消すの?』

「ああ、もう消すしか方法はない」

『待って、ねえ考え直さない?』

「ない!」

『なら、この記憶のバックアップをとる間だけでもお願い!』


「……なあ今なんて?」

『え? 消さないでってお願いしたこと?』

「違う! 今『バックアップ』って言ったよな? 何、俺の記憶を保管しようっての? 何で? どうして? どうやって?」

『え、驚くこと?』

「そりゃ驚くだろ。何勝手に俺の記憶のバックアップ取ろうとしてんの」

『だって承諾しないでしょ』

「当たり前だ! 何が悲しゅうて自分の悲しい過去を記録されるんだ。出来れば消し去りたいのがいっぱいあるってのに」

『そう? そりゃ当人には悲劇でも、他人にはドラマだからね。当然、大切に見るから』

「ちょっと待て。お前を消すって言ってるんだけどよ。お前は俺の中から消えたらどこに行くんだ? 消えてお終いって訳じゃないのか?」

『あ、そこ気付いちゃった?』

「そりゃ気付くだろ。バックアップ取るってのは、どこかで楽しむ予定なんだろうが!」

『お、意外と鋭い!』

「いいから、お前は一体何なんだよ」

『多分、精霊の一種?』

「何で疑問形なんだ?」

『だって気付いたら神様に『お願いね』って言われて、気付いたらこうなってた、から?』

「じゃ、お前自身も俺から消えたらどうなるかは分からないってことか」

『言われてみるとそうだね。私はどうなるんだろ。何となく神様がどうにかしてくれると思っていたけど、違うのかな?』

「あんまりアイツを信じすぎるのも危ないと思うがな」

『あ~シンの境遇を見るとそうかもね。でもバックアップは取るよ!』

「何でそこで『サムズアップ』するんだよ。いいから消せよ」

『何言ってんの。言ったでしょ。私には『ドラマ』だって』

「もう分かったから、だから流出だけはさせないって約束してくれ」

『もうしょうがないな~そこまで言うなら、約束してあげてもいいよ』

「ああ約束だ」

『分かった~約束ね』


「それで俺はこれからどうすればいいんだ? ってかどうすればこの森から抜けられるんだよ?」

『そりゃ強くなるしかないんじゃないかな?』

「それが問題なんだって。どうやって強くなるんだ? 障壁の外には魔獣? 魔物? がいるんだろ。今の俺はそいつらから見たら赤ん坊も同然なんだから出た瞬間に狩られるじゃねえか」

『だから、その為の『魔法創造』でしょ。さあYOUちゃっちゃと覚えちゃいなよ』

「また、何の記憶を見ているんだか。なあお前の方で基本的な魔法を取り込むことは出来ないの?」

『そういうサービスは承っておりません。全てお客様自身でのセルフサービスとなっております』

「何でだよ! 少しくらい融通してもいいだろうが!」

『一度許すとダダ滑りになるから、ダメだってさ。『神様』が』

「チッ監視してんのかよ」

『多分、どちらかというと楽しむためなんだろうね。私も後で記録見せてもらおう!』

「ストーカーかよ」

『いえいえ、単なるドラマのファンです』

「あ~もういい。分かったよ、自分で何とかする分には文句ないんだろ」

『そういうことみたい』

「なら、後で文句言うのはナシな! アイツにもそう言っとけ!」

『いいよ~』

「何で自分の頭の中の奴と会話して疲れなきゃいけないんだ。ふぅ~」


「とりあえずは基本属性だよな」

 火、水、氷、風、土、岩、雷、光、闇と考えられる属性を球状にして出せるように魔法を創造する。

 一つずつ指先に球状に発現するのを確認し、魔法が無事に覚えられたことを確認する。

『ステータス見れば分かるじゃん』

「いいの。こういうのは後でまとめて見る楽しみもあるんだから」

『へえそうなんだ。まあ別にいいや。じゃあ用があったら呼んでね』

 そう言うとアリスは視界の隅でソファに寝転びモニターを見出した。

「なあ、見るなら視界から消えてくれないか?」

『ええ、そこまで文句言われるの。私が消えても寂しくならない?』

「ああ、ならないから。ってかケツ掻きながら言うんじゃねえ!」

『もう見ないでよ。じゃあ消えるね』

「やっと消えたか。さて続きだ。球状がおわったら、次はアローだな。それでブリットジャベリン、でウォールにして、纏わせるブレードだな」


 まずはアローを試す。

火矢ファイアアロー」と呟くと炎が矢の形に発現する。

「一本じゃ物足りないな。増やすにはどうするか……試しにもう一本出してみるか、ほい。出るな、じゃ頭の中で考えた数が出るのかな?」

 また試しにと十本出ろ! と念じたら十本が追加された。

「よし数は考えた通りに出るみたいだな、じゃこの浮かんでいるのはどうするか? 『消えろ』って思えば消える? ものは試しだな『消えろ』と。おお、消えた」

 十数本の火矢ファイアアローが消えた。

 魔法がイメージ次第なのは助かった。

「なら、次は当てることだな、的は木じゃ燃えるか。なら岩で行くか。ゲームならこういう時には『ロックオン』で多数の標的を捉えることが出来るんだけどな」

『出来るよ。『標的捕捉ロックオンスキル』を取得して』

「『標的捕捉ロックオンスキル』取得! これでいいのか?」

『うん、出来たよ。じゃその辺の枝を見ながら『標的捕捉ロックオン』と唱えてみて』

「枝を見て『標的捕捉ロックオン』と。おお何か枝に赤い十字マークが付いて見える。よし、岩矢ロックアロー展開! 行け!」

 号令と共に目印が付けられた枝が粉砕される。

『おお、出来たみたいだね。これで一歩外の世界に近付いたかな』

「これで一歩なんだ。じゃあ他の形状を覚えていくか」

 その後、別属性も試しながら形状も変えながら魔法を覚えていった。

「なあ、思ったんだけどさ、これって空を飛べばすぐなんじゃねえ?」

『そう思う?』

「違うのか?」

『魔物は地上だけでなく、上にもいるからね。飛んでいる最中に『パクッ』てやられちゃうよ。それにまだバックアップが取りきれていないから、却下』

「上にもいるのかよ。でも飛べるのはいことだ。試しに『飛行フライ』おお浮いた」

 すると遠くから叫び声が聞こえてきた。

『ぎゃああああああ』

「うわぁ何か横切った。危ねえ」

 地上に降り上を見ると翼竜っぽいのが飛んでいる。

「おい、あれは何だ?」

『自分で調べなよ。『鑑定スキル』取れば分かるでしょ』

「何だよ、不親切だな。『鑑定スキル』と」

 覚えた手の鑑定スキルで翼竜を見るとデータが表示される。


 ~~~~~

 種族:ワイバーン

 性別;オス

 状態:飢餓

 HP:200/1000

 MP:100/300

 魔法

 飛行

 スキル

 咆哮

 威圧

 捕捉説明

 味:良

 唐揚げなら特に◎

 ~~~~~


「うわぁ『飢餓』っ出てるじゃん。もう俺をロックオン状態なわけ? でもこっちが食べるならご馳走ってか」

『今の状態じゃ多分負けるね。目の前のご馳走はお互いに諦めないと』

「俺もアイツにとってはご馳走か。見てろ! いつかお前を食ってやるからな」

 ビシッと指を差すとどこか遠くに飛んで行った。

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