第4話 疲れたし腹減ったし

 色々と魔法は覚えたが、この森を出るにはまだまだ弱いらしい。

 しかし、目覚めてからここまで何も口にしていないことに気付くと異様に腹が減ってきた。

 何か食うものはないのか、水は魔法で出せるけど食い物はどうなんだ?


「なあアリス! 食い物を出してくれ」

『何言ってんの。そんなのある訳ないじゃん。自分でなんとかしなよ』

「え? ないの? 俺何も口にしていないんだけど」

『だから?』

「『だから』ってお前!」

『『鑑定』覚えたでしょ? その辺で片っ端から鑑定かけてみなよ。何か食べられる物が見つかるといいね。じゃあね』

「くそっ、何だよ。こんな所に放り込んでおいて何も救済策はないのかよ。はぁ愚痴ってもしょうがないか、鑑定掛けまくれば木の実くらいは見つかるかもな」


 少し森の中を散策しつつ鑑定を掛けまくると、幾つか食べられそうな物が見つかる。

「見つかったはいいが、調子にのって取り過ぎた。保管効くかな」

『『無限倉庫インベントリスキル』を取得しなよ。便利だから』

「『無限倉庫インベントリスキル』取得っと。こんな簡単に覚えられるのか?」

『うんバッチリだよ。使ってみなよ』

「どうすんだ?」

『対象物に向かって『入れ』って唱えるだけだから、出す時は『出ろ』で出来るから。さあやってみて』

「そんな簡単に……まあやってみるか。対象物に向けて『入れ!』。おお! 消えた」

『出来たみたいね、ちゃんとリストにも載っているよ。ほら!』

「ほらってどこを見ればって、これか」

 視界の片隅にリスト状にインベントリの中身が表示されている。

「ほう、こりゃ便利だな。なあ、これって種類別とかに分けられるか?」

『もちろん、お安い御用さ。ホイッと、どう?』

「おお確かに分類されてスッキリしたな。うんいいぞ。ありがとうな。じゃ、早速食べてみるか。じゃこのリンゴっぽいのを『出ろ』っと」

 上に向けた右手の上にリンゴっぽい物が出て来た。

「まあ食べてみるか」

 簡単に水魔法で洗ってから、そのまま齧り付く。

「見た目はリンゴなのに梨の味がする。これもアイツの趣味なのか?」

『う~ん、難しいけど、違うとは言えないね。あの神様らしいし』

「ホント迷惑な神様だな、本当に邪神じゃないのか?」

『まあ、それはこれからの旅で確かめなよ。私には分からないし』

「そうか、生まれたばかりだったな」


 釈然としない果実で腹を満たすと眠くなってくる。

「なあ、寝る場所もないのか?」

『そうだよ、何当たり前のこと言ってんの?』

「当たり前なのか? 俺がおかしいのか?」

『とりあえず魔法でチャチャっと作っちゃいなよ。岩で作れるでしょ』

「まあ作れるのかな? やってみるしかないか」

 岩の壁を魔法で出して、空気穴を作り形を整える。

「後はこれに窓が欲しいな。ガラスって確か砂からだったよな。じゃあ土魔法でもできるかもな。『ガラス作成』と。……出来たな」

 作ったガラスを窓っぽく切り取った穴に埋め込む。

「これで何とか家っぽく? なってはないな。コンテナハウスだな、これは」

『まあ、いいじゃない。家っぽい物ってことで』

「そうだけど、何となく納得がいかないな」

『なら、魔法の習熟度を上げれば、それっぽい形になっていくんじゃないの? 知らんけど』

「まあ、今はやるしかないか。よし、さあ寝るか。でもその前にひとっ風呂といきたいが、風呂は当然ないよな。いやいい分かってる、もう分かってるから、作ればいいんだろ。作るさ、ああ作ってやるさ」

 部屋を追加して、水はけを考えて少しだけ洗い場の床に勾配をつけて傾斜させる。

「浴槽は岩だな。岩を用意してくり抜いて、排水溝の弁も岩を加工して、これでいいか」

 浴槽が完成したので、お湯を張るが温度は大体四十度くらいに調整する。

「よしよし溜まってきたな。では、失礼して。ふ~あ~~~」

 風呂に入ると思わず声が出るのはしょうがない。

 もうこれは日本人としての習性と言ってもいいだろう。


 風呂から上がりさっぱりとしたが、そうドライヤーがない、鏡もない。

「そうだよな、魔法で何とかしろってことなんだろ。まあ鏡は無理だが、ドライヤー代わりの熱風くらいは出せるだろ」

 何とか風魔法と火魔法を駆使して、ドライヤー擬きとして髪を乾かす。

「まあ布団もないよな、少しだけ地面を高くする形で固いけどベッド代わりにはなるか」

 固い岩に寝転がり、眠気に身を任せて目を閉じる。


 朝になり、窓から差し込む陽光で目を覚ます。

「固い割には意外と寝れたな。よっぽど疲れていたんだろうな。さて……と」

『おはよう、さて今日も魔法を覚えて頑張ろうか』

「……みしい」

『え? 何?』

「淋しい、何でず~っと脳内で会話しなけりゃダメなの。もっと自然に会話したい!」

『ボッチだった割には贅沢な悩みだね。でもまだ森を抜けられないから、当分はこのままだね』

「よし、ならホムンクルスだ!」

『それは無理だね。作るスキルが検討つかない』

「なら、精霊を探す。お前みたいな脳内飼育じゃなく、外の世界に生きている精霊を探す」

『無理! そんな自我を持つ精霊はこんな危険な森の中にはいないから』

「なら、従魔を探す。探してテイムして一緒にモフりながら暮らす」

『無理無理! 今のままじゃテイムする前に餌になるから』

「なら、分身を出す。分身なら、俺の代わりに働いてもくれるだろうし、寂しさも紛れると思う」

『それは可能。『分身ドッペルゲンガースキル』を取得して』

「『分身ドッペルゲンガースキル』だな。よし、『分身ドッペルゲンガースキル』取得!」

『出来たね、じゃ『分身ドッペルゲンガー』って唱えてみてよ』

「『分身ドッペルゲンガー』! ん? 何かまっ黒い俺が出てきた。目とか鼻とかないけど生きているのか?」

『その辺はイメージ次第だよ。一度消してから、その辺をちゃんとイメージしながら唱えてみなよ』

「分かった。じゃ『消えろ』」

 分身ドッペルゲンガーが消えたのを確認してから、目鼻立ちがちゃんと出るようにイメージして、もう一度『分身ドッペルゲンガー』と唱えると、浅黒い自分がそこに立っていた。

「なあ、素っ裸なんだけど。どうにかならない?」

『だから、イメージ次第だって言ったでしょ! もう、何てモノ見せるのさ』

「悪いな、じゃ消えてくれ。もう一度、ちゃんと服を着たイメージで『分身ドッペルゲンガー』と呟く。

 今度はちゃんと服を着た浅黒い自分がそこにいた。

「よろしく!」と声をかけるが無反応。

「なあ……『イメージ!』言う前に言われたよ、じゃ消えてくれ。ええと目鼻立ちと服を着せて、自分じゃだめだよな。どうすっかな、弟くらいの言うことを聞くイメージで、『分身ドッペルゲンガー』と、どうだ?」

「誰? おじさん」

「ぐっおじさんって、年を幼く設定しすぎたか。まあいい、俺のことは兄ちゃん、兄貴、兄様、どれか好きに呼んでくれ」

「じゃ兄ちゃん。これでいい?」

「ああ、よろしくな」

「腹へった」

「いきなりかよ。これって手間が増えただけじゃないだろうな。……って応えないんかい!」

「ねえ、さっきから何言ってんの? ねえ、聞いてる? お腹減ったんだけど」

「ああ、飯にするか」


 インベントリから果実を取り出し、テーブルに出す。

「これ食べられるの?」

「ああ、食えるから」

「ふ~ん、まあいいや。いただきます」

「じゃ俺もいただきます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る