第15話 失踪したカレン ※姉ミシェル視点
「おい! どうなっているんだ! あいつはどこ行った!?」
「ご飯の支度も忘れてどこに行ってるんだか……本当にあの子は出来損ないね」
お父様とお母様がイライラしている。
もう夜の九時なのに、カレンが夕飯の支度をしていないから。
「カレンはまだ買い物から帰らないのですか? 私、もうお腹がすきました……」
意識すると、余計にぐうぐうとお腹が鳴ってしまう。なんでこんなに辛い目に遭わなきゃいけないの?
「おい、あいつが入ってこれないように玄関を塞ぐぞ! こんな不良娘を育てた覚えはない!」
お父様が怒鳴りながら、玄関の扉を内側から固定してしまった。これでカレンは家に入れないでしょうね。
「夕食の支度もろくに出来ないのですから、不出来な娘が家に入れなくても当然ですわ!」
お父様とお母様の怒鳴り声を聞いていると笑いそうになる。本当にいい気味だわ!
後でいっぱい叱られるんでしょうね。
……だけど夕飯だけは食べたい!
耐え切れなくなってキッチンに向かうと、お母様が棚をごそごそと漁っていた。
「お母様、何か食べるものはありますか?」
「棚にパンはあったけれど、あとはよく分からないわ。探すのも面倒だし、これを食べておきなさい」
「えぇー……分かりました」
「まったく、明日あの子を100回叩いてやらないと気が済まないわ!」
「本当です! 思いっきりぶちたいわ」
カレンのせいで、今日の夕食が人生で一番惨めだった。
カチカチのパンと水だけなんて、最悪よ! いつも質素だけれど、味だけはマシだったから許してやっていたのにー!
(今日は早めに寝ましょう……起きていてもお腹がすくだけね。本当にカレンったら何してるのかしら? 明日、思いっきり虐めてやるわ!)
だけど、カレンは翌日になっても、その次の日になっても帰ってこなかった。
「あいつ! 帰ってきたらただじゃおかないからな!」
私たちは今日もろくなご飯が食べられなくて、イライラしていた。
お父様は怒鳴り散らかしているし、お母様はカレンの服をビリビリと破いていた。
私だって汚い部屋と空腹で、頭がおかしくなりそう。
「お父様、お母様。カレンのことは放っておいて、パーティーの支度をしませんか? 今日はガーデンパーティーがありますから、食事はそちらで多めにいただきましょう」
この提案でお父様とお母様は少し落ち着いたみたい。私って天才ね!
「そうだな、あいつのことを考えるのは時間の無駄だ」
「ミシェルは良い子ね。早速支度をしましょうか」
だけど、私たちはそのガーデンパーティーで奇妙な噂を聞いた。
「聞きました? クラウス・モルザン侯爵の話」
「とうとうご結婚なさるとか。悪魔の侯爵に嫁ぐなんて、どこの娘かしら?」
「俺は単なる恋人が出来ただけって聞いたぞ。どちらにせよ、相手が気になるな」
「素性を隠しているようですね。どこかのご令嬢らしいが……」
「お名前だけは聞きましたよ。確か……カレン、だったかな」
「カレン」という単語にお父様とお母様が顔を見合わせた。
「まさか……」
「そんなこと……」
悪魔の侯爵と私の妹、どう考えても関わるはずなかった。
(聞き間違い? カレンなんてよくある名前だし、別人よね?)
私たちが耳を澄ませていると、誰かがこう言った。
「明日の王家主催のパーティーには、クラウス様とそのお相手が参加されるらしいぞ」
「まぁ! 行きたかったわー」
「招待されているのは上級貴族ばかりだものね」
これを聞いたお父様は、そさくさとどこかへ走っていってしまった。
(もし、クラウス・モルザンの相手がカレンだったら……。あり得ないわ! あの子が私よりいい男と結婚なんて、出来る訳ない!)
ようやく私の相手が見つかったところなのに、カレンがもっといい男を捕まえてたら……考えるだけで最低な気分よ!
必死に捕まえた婚約者が、途端に残念に思えてくるじゃない。
(あーあ、あの婚約者が侯爵くらい顔が綺麗で、お金ももっとあれば最高なのに……)
冴えない婚約者のことを思い出して、余計に気分が落ちた。お金持ちの男爵家じゃなかったら、相手になんかしないのに……。
侯爵のことは大嫌いだけど、スペックの高さだけは喉から手が出るほど欲しかった。
どこかへ行っていたお父様は、戻ってくるなり興奮した顔でこう言った。
「明日のパーティーに出席させてもらえるように頼んできた! クラウス・モルザンの相手とやらを確認してやろうじゃないか! まさかとは思うがな! はははははっ」
「まあ、王家主催のパーティーなんて久しぶりね! 万が一カレンがお相手だっていうなら、どういうつもりか問い詰めないと!」
お父様もお母様も、カレンがお相手かもって本気で信じてるみたい。笑っているけれど、目が泳いでいる。まさか……本当なの?
「あの」カレンが侯爵の目に留まる訳ないじゃない!
(クラウス・モルザン侯爵……私が挨拶した時、無視した男よ!? カレンなんかが相手にされる訳ないわ!)
いくら顔が良くてお金があるからって、この私を無視するなんて最低な男よ!
あの人とカレンがくっつくの!? 絶対に嫌! 最悪の組み合わせよ!
……明日、確かめてやるわ!
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