第13話 ドレスの用意
「パーティーまで三日しかないのですね。ドレスの準備が間に合わないと思うのですが……」
今からデザインを決めて、採寸して……どんなに早くたって二週間はかかるだろう。
このままでは三日後のパーティーに、ボロボロの服で行くことになる。
(雇われて早々に、ご迷惑をかけてしまう……!)
私は焦っているのに、クラウスもティルものんびりと構えていた。
「心配しなくて良い。ティル、後でカレンにカタログを渡しておけ」
「はーい! 大丈夫だよ、カレン。今日中に選んでくれたら間に合っちゃうから!」
ティルが私にウインクをしながら微笑む。
(また魔力でどうにか用意してくれるの?)
この二人のことだ。私には予想もつかない方法で用意してくれるのかもしれない。
とにかく二人が大丈夫と言うのなら、それを信じるしかない。
「分かりました。よろしくお願いします」
ドレスに関しては安心したものの、他の心配事も浮かんできた。
(あの人達は出席するのかしら?)
通常、子爵家という立場では王家主催のパーティーには出られない。だけど我が家は違う。
父は上位貴族に取り入って、よく参加していた。日頃、貢ぎ物にお金をかけているだけのことはある。
今回もいつものごとく潜り込んでいるかもしれない。
(婚姻を公表するという大切な場を荒らされたらどうしよう……それも王族の前で)
考えただけでも背筋が凍りそうだ。
黙り込んだ私をティルが心配そうに覗き込む。
「あれ? もしかして今から緊張してるの? 大丈夫だよ! カレンはただクラウス様の隣にいるだけでいいんだよ」
「そうなんですけど……家族が出席するかもしれないと思うと、胃が痛いというか」
何を言われるか想像するだけでもうんざりするが、それ以上に周りの人達に迷惑をかけそうで恐ろしかった。
「心配しなくとも、出席させるよう仕向けてある」
出席させるように、クラウスは確かにそう言った。
「え? 何故ですか?!」
思わず声が大きくなる。
「好きにして良いんだろ? 妻となった者の家族だ。ご挨拶しなくてはな」
クラウスの含みのある言い方に、冷や汗が流れる。
「それはそうですけど……一体何をするつもりなのですか?」
「何もしないさ。ああいう奴らは、勝手に地獄へ進んで行ってくれるからな。見ているだけでいい」
クラウスにわざとらしくニコリと微笑まれて、何も言えなくなった。
どうやら、あの人達を絶望へと落とす作戦が始まるのだろう。
(これは……もう関わらない方が身のためね)
当日、何があっても無視しよう。
そう固く決心していると、服の裾をクイクイと引っ張られた。
「当日はね、僕もこっそりカレンの傍についてるから心配しないで」
「ありがとうございます」
内緒話のようにヒソヒソと話すティルに、こちらもヒソヒソと返す。
(子どもの姿では無理よね? 猫の姿になるってこと? でもそれじゃあ会場には入れないし……)
「ティルはどうやって参加するのですか?」
「んー……当日のお楽しみ! あぁ、早くカレンの元家族に会いたいなぁ」
ティルはいたずらっぽく微笑んだ。天使のような微笑みだが、悪魔のようなことを考えているのがよく分かった。
昼食を終えて部屋に戻ろうとすると、廊下でティルにカタログとペンを渡された。
「はい、これがドレスのカタログだよ。選んだらこれで丸をつけて部屋に置いておいて」
「ありがとうございます。素敵なドレスがたくさんありますね」
分厚いカタログをパラパラめくると、様々なタイプの美しいドレス達が並んでいた。
これだけあると選ぶのも一苦労だ。なにか選択材料が欲しかった。
「カレンならどれも似合うよ!」
「うーん……でも、クラウスと少しデザインをあわせた方が良いかもしれませんね」
「確かにー。良いアイディアだね!」
「ちょっと聞いてきます」
今日中に決めなければならないのだから、今聞きに行った方が良いだろう。
クラウスの部屋を訪れると、クラウスが忙しそうに書類仕事をしていた。
「クラウス、ドレスの件で伺いたいことがあるのですが、今よろしいですか?」
「なんだ?」
クラウスは顔を上げず、書類の山に目を通しながら返事をした。
「ドレスのデザインをある程度合わせた方が良いと思いまして。クラウスの服装や装飾品を見せていただけますか?」
「あぁ、構わない。…これだ」
「わぁっ!」
クラウスが指をふると、クローゼットから服が飛んできた。
タキシードにカフスリング、タイやハンカチがセットされて宙にふわふわ浮かんでいる。
(何が飛んできたのかと思ったわ。はぁ、ビックリした……)
一瞬驚いたものの、思ったよりも早く平静を取り戻せた。だんだんと魔界に慣れてきているのかもしれない。
「ちょっと失礼しますね……ありがとうございます。参考になりました」
「あぁ」
デザインを頭に叩き込んで、特徴を覚える。あとは、この服に合いそうなドレスを探せば良い。
お礼を言って自室に帰ろうと思ったが、とあることを言い忘れていたのを思い出し、足を止めた。
「あの……」
「なんだ?」
「雇ってくださって、結婚相手に選んでくださって、ありがとうございます。昨日、ちゃんとお礼を言えていなかったので……」
私がそう言うと、クラウスが顔を上げた。少し目を丸くしている。
「別に構わない。俺自身のためでもあるからな」
「それでも本当に感謝しているんです。だから、ありがとうございます。……お仕事中お邪魔しました。失礼します」
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