第11話 お屋敷さん
光の方へ近づいてよく見ると、光の玉がふわふわと浮いていた。それはまるで私を呼んでいるかのようだった。
「何かしら?」
光の玉は少し近づくとまた離れてしまう。追いかけていくと、廊下の突き当りまで来た。
そこには扉があり、光の玉がくるくると回って扉を指し示していた。
「開けていいのかな……あ、掃除道具だ」
扉を開けると小さな収納部屋になっており、掃除道具がずらっと並べられていた。
(この光の玉が案内してくれたってこと? もしかして屋敷の力なの?)
ティルの言葉を思い出す。色んな事が出来ると言っていた。
もしそうだとしたら、魔力を吸った屋敷はまるで生きてるみたいだ。
「お屋敷さん、案内してくれてありがとう」
試しにそう言ってみると、光の玉がキラキラと光った。返事をしてくれているみたいだ。
「可愛らしいなあ……よしっ、案内してくれたお礼に、ピカピカに掃除しますよー!」
箒を掲げて宣言すると、光の玉はものすごい速さで飛び回った後、消えていった。
廊下の掃除は思ったよりも早く終わった。元々そんなに汚れていなかったのもあるが、時々光の玉が現れてはサポートをしてくれたからだ。
数えきれない程たくさんある大きな窓も、光の玉が脚立を動かしてくれるおかげでスイスイ拭くことが出来た。
「よし、こんなものかな。お屋敷さんのおかげで助かっちゃった。本当にありがとう」
光の玉にお礼を言うと、嬉しそうに私の周りをまわってから頬に触れて、すっと消えていった。
時計を見るとそろそろお昼だった。
もうすぐ二人が起きてくるかもしれない。
昼食の準備をしようとしてキッチンに戻ると、ふと疑問が浮かんだ。
「あの二人ってご飯を食べるのかしら?」
負の感情から栄養を得ているとは言っていたけれど、これだけの食材が揃っているのだ。使っていない訳がない。
(一応二人の分も用意しておこうかな? お昼には多分起きるって言ってたし、もし食べないって言われたら私が夜に食べれば良いわよね)
とりあえず、寝起きでも食べやすそうなスープとサンドウィッチでも作ろう。
準備をしていると、後ろから声が聞こえてきた。
「カレンおはよー。よく眠れた?」
「ティル! おはようございます。ぐっすり眠れました。素敵なお部屋をありがとうございます」
良かったーと言いながらキッチンに入ってきたティルは、スープとサンドウィッチを見つけて目を輝かせた。
「サンドウィッチだ! スープもある! お昼ごはん作ってるの? 僕たちの分もある?」
「用意してありますよ。お二人とも普通の食事をするのですね」
「やったぁ、ありがとー! 僕たちも普段は人間のご飯を食べてるんだよ。趣味みたいなものだけどね。負の感情でエネルギーを得られるのは時々だけなの」
やはりそうだったのだ。準備しておいて正解だったと胸をなでおろした。
「そうなんですね。もう出来ますのでリビングへ運びましょう」
「あっ、その前にクラウス様を起こしてきてくれない? こっちはやっておくから」
お皿を運ぼうとすると、ティルにひょいと取り上げられてしまった。
確かにクラウス様はまだ見かけていない。ご飯を食べるならば、そろそろ起こした方が良いだろう。
「分かりました。起こしてきますね」
「助かるー! 僕、クラウス様のこと大好きだけど、寝起きのクラウス様は苦手だもん」
「え?」
どういうことだろうと首をかしげている間に、ティルはキッチンから出て行ってしまった。
(よく分からないけれど、起こしに行くしかないわ。えっと、クラウス様のお部屋は……)
廊下を出てきょろきょろしていると、また光の玉が現れた。どうやらクラウスの部屋を案内してくれるらしい。
連れて行かれるままに廊下を進み、階段を上り、また廊下を進む。
光の玉が止まったのは、たっぷり歩いた後だった。
「ここね。お屋敷さん、ありがとう」
お礼を言って、扉をノックする。
コンコンコン。
……返事がない。
「おはようございます。クラウス、起きていますか?」
声をかけても何の反応もなかった。
仕方なく扉に手をかける。
「失礼します」
小さな声でそう言って、部屋に入る。
部屋の中は私の部屋とは雰囲気が全く違っていた。
黒を基調とした華麗で重厚感のある部屋だ。
そういえば、客間もこんな雰囲気だった。どの部屋も元々はこういう内装なのかもしれない。
だとしたらお屋敷さんは、私の部屋の模様替えを相当頑張ってくれたに違いない。
そんなことを考えながらそっとベッドに近づくと、クラウスが眠っているのが見えた。
「わっ……綺麗な顔」
思わず声が漏れてしまうほど、クラウスの寝顔は美しかった。
まるで彫刻のような顔をしている。この顔をもってすれば、老若男女問わず誰もが魅了されるだろう。
じっと見つめていると、あまりの顔の良さに頭がおかしくなりそうだった。
(いけない! クラウスを起こしに来たんだった。見惚れている場合じゃないわ)
小さく首を振って、クラウスに声をかけた。
「おはようございます、クラウス。起きられますか? もうお昼ですよ」
割と声を張ったにも関わらず、クラウスはピクリとも動かなかった。
仕方がないので肩を揺すろうと手を伸ばした。
その瞬間―――
「っ……!」
急に手首に痛みが走った。
一瞬何が起きたのか分からなかった。
クラウスが起き上がり、私の手首をつかんでいたのだ。
その目は今まで見たことがないほど鋭く、初めて殺気を感じた。
(殺される……)
私の本能がそう告げていた。
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