芽生え人
今日も今日とて修行日和。夜空には光り輝く星々、水面は鏡のようにそれらを反射している。まるで星の一つ一つが日種のようだ。
日種か……日種とはなんだ? 思い出せない。
「だぁークソ! 炎之舞から水之舞って間に合わねぇよ! 嫌でも息切れするわ!」「炎之舞熱すぎて無理! 耐えられない! 隊長! 水! 水持ってきて!」「五属の呼吸法は完璧なんだけど、どうして舞になると肺が思うように大きくならないんだろ……」「ちょっとジュノ! わたしの舞を邪魔しないでよ! ちゃんと合わせてよね!」「うるせぇ! お前が合わせろや! つか武器とのシンクロ率低いんじゃねぇの?」「はいはい、ベルにジュノそこまでにして、ふたりは舞に音を乗せてないだけだよ、ちゃんと譜面通りにやれば舞えるんだから」「はぁ、疲れない舞を練習しているのに疲れた」「隊長、わたしには血をちょうだい、隊長の」
と、十番隊のみなは五属の呼吸法と天種降臨を自分のものにした、しかしみな己に足りないところがあるようで悩んでいる。
「隊長!」「隊長!」『隊長!』
そんな風に頼られるぼくは少々疲れている。日々の夜禅に加え修行でぼくのカラダは悲鳴を上げているのだ。いや大丈夫、ぼくはレンカだ。夜禅ではひとりけものと戦い、修行ではみなぼくを頼ってきてくれる。頼られるのはなんとも心地良い気持ちになる。
ああ、ほんと、みんなに頼られて嬉しいなぁ。もう少しぼくを頼らないようにならないかなぁ。ああ、ほんと疲れたなぁ。というかルーナにいたってはぼくをパシリみたいに使ってくるんだけど……いや、頼られているんだ、そういうことにしておこう。
「隊長、血ちょうだい」
ヘレーラは無視しておこう。
『隊長?』
みなはぼくの顔を伺ってきた。
ここで疲れたような顔をしていては一族の恥だ。頑張れレンカ、いつも頑張って来たじゃないか。
「うむ、今日の修行はここまでにしましょう」
『ええ?』「おれはまだやれるぜ」「わたしも」
「いや、ちょっとぼくはこのあと用事があるので……じゃあ自主練ということにします。みんな他の人の癖などを見れるようになってきたのでアドバイスなどしてあげてください」
テキトーな理由を付けたぼくは足早に去った。
久しぶりにアイリスに会いたいな。会いたい? いいや、会わなくてはならないんだ。疲れていても会わなければ物語が進まないんだ。
とそこに、
「――あ、有名人だ、お疲れー」
「お疲れ様です十番隊長」
三番隊長殿と一番隊長殿はぼくの方へ近寄ってきた。
「あ、お疲れ様です」
「修行の方はどうですか?」と一番隊長。
「みな成長が早いです」
「そうですか、やはり早いですか……」
「やはり?」
「ええ、成長が早いのはあなたのおかげだと思いますよ」
ぼくのおかげ? なんの冗談だ、ぼくは教えているだけで頑張っているのは隊員たちだ。成長が早いのは彼ら彼女らの努力だ。ぼくなんていなくてもみんな今のような成長は簡単にやってのけたはずだ。
「――まあまあそんな事務的な挨拶はいいとして、写真撮ろうよ! 有名人君」
「有名? ぼくがですか?」
「君以外有名人なんて牡丹派に――ひとりふたり、三人四人五人六人七人八人……」
と、どんどん有名人が増えているのですけど、ぼくってそんなに有名ではないのですね。
「まぁ細かいことはいいんだよ! 写真撮ろ! 写真!」
三番隊長殿は強引だ、対して一番隊長殿は控えめであろう。
と、三人して牡丹派本部の前で写真を撮った。夜ということもあり暗がりでの撮影、しかしその暗さも両手に花となれば明るきことだ。
「うわぁーい! やったやった! 十番隊長との写真だよ! 印刷終わったら一番隊と十番隊に届けに行くからね! そんじゃねー!」
三番隊長殿は嵐のように去っていった。残されたのはぼくと一番隊長殿だ。
うむ、気まずいことこの上ない。いったい何を話せばよいのやら。
「牡丹派には慣れましたか……」
一番隊長殿の問いかけにぼくは「まあまあです」としか言えなかった。
「そうですか…………」
またも沈黙だ。せっかく一番隊長殿と話す機会があるのに何を話せばよいのか分からない。
「ここ実ノ國は、
「芽生人……」
「そう、ひとつの時代を終わらせる者のことを差した言の葉です」
時代を終わらせる者。それは善人なのか、それとも悪人なのか。今の進まない再生時代が終わるとなると善人悪人どちらが英雄なのか分からないな。
「その芽生人が聖戦を終わらせたのでしょうか?」
「ある意味終わったのでしょう、セカイは一度滅んでおりますから。現世界を見て分かる通り、土地は死に、ヒトと大樹だけが生きている。その異常なセカイは聖戦の比ではないのでしょう」
一つの時代が終わった、そして現在に繋がっている。
「夜禅の開祖、戌渡八房殿は穢れた日人を斬った。そこから先は――<八>という数字と、<言の葉>という文字だけ、空白はどこの派閥でも同じです」
「これはわたしの一族に伝わる話ですが、戌渡八房は背中に牡丹の花の痣があったそうです」一番隊長殿は続けて、「牡丹派には牡丹の痣を持つ八人の剣士がいると、小耳に挟んだことはございますか……」そうぼくに訊いてきた。
「いえ、初耳です」
「そうでしたか。戌渡八房の子孫である呪われた痣を持つ者たちだそうですが、実際子孫なのかも、その痣がどのような意味を持っているのかも分かっておりません」
と、一番隊長殿はぼくの方を見た。
「あの、その八人の剣士とは誰でしょうか……牡丹派に今現在も在籍している誰かですよね?」
「気になりますか?」
気にはなる、しかしこれ以上踏み込んでいいのか分からない。
ぼくは黙った。それを聞いてしまったらいけない気がしたからだ。今はその時ではないと
「いま沈黙が答えならば、あなたは語り部に向いておられる」
ちょっとよく分らないですねぇ、って、そんなこと思っても一番隊長殿には言えない。
「役者となるか、語り部となるか……演目の開示は近いのでしょう」
ふむふむ、言ってることの意味が分からない。もしかしてぼくは隊長としての器を試されているのか?
「復興の時代ですから、日種は芽吹かなくてはならないのかと」
「ふふふっ、日種が何なのか、あなたなら見つけられるでしょう」
と笑った一番隊長殿は、ぼくに背を向けて暗闇に消えていった。
日種……ぼくも昔から使っている言葉だけど、日種とはいったい何だろう。
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