十番隊男性隊員ジュノの場合
<log>男性隊員ジュノの場合
「おう兄ちゃん、ここは三光一絃流の流派を学ぶ道場だよ。もしかしてこの流派に興味があるのかい?」
どデカい男がぼくに話してきた。熊のような男だ、見るからに強そうな。
「いえ、その、ジュノ君いますか?」とぼく。
「あ、ジュノお坊ちゃんの友達でしたか。すぐに呼びに行ってきます!」
「おい! ぼけ筋肉だるま!」と、そのジュノお坊ちゃんが道場から出てきた。
と思ったら、
「この筋肉だるま! テメェ何買ってこいって言ったか聞いてなかったのか! 絆創膏だ絆創膏! ちっせーガキどもが絃張りで指にマメ作ってきて集中できねぇから買いに行けって言ったの忘れたのか? ん?」筋肉だるまと言われる男を蹴り飛ばした。
「いえ買ってきました。それで、ジュノ坊ちゃんの友達が来ているので、呼びに行こうと」
「友達? 筋肉だるま、お前にはおれが友達いるように見えるのか?」
「お友達じゃないんですか?」
と、筋肉だるまなる男性はぼくに訊ねてきた。
「あー、お友達です」
「あり得ねぇよ! 隊長と隊員だわ!」
どうやらジュノは漫才のツッコミ役によさそうだ。
「てか何の用だ? ここは剣の道でも柔らかい道でもねぇ、極道って道だぞ」
少年少女らが笑って絃を振り回しているここは極道なのだろうか? ぼくにはどうみても普通の道場にしか見えないのだが。
どたどたとこどもが走り回る音、喧嘩して泣いているこども、ここが極道なのだろうか?
「筋肉だるま、お前のせいで三光一絃流が古臭いって言われるんだ」
すみません坊ちゃん、と謝る筋肉だるまは凄く良いヒトなのだと分かった。
「あの、十番隊長としてあなたを知りたいと思って」
「――分かってるよ! どうせ夜禅でのやる気のなさを聞きに来たんだろ?」
そう、その通りです、失礼ですがあなたが一番やる気ないように感じました。
「めんどくせーんだよ夜禅だか何だか知らねぇけど、めんどくせぇんだ」
「大丈夫、めんどくさくありません。ぼくが付いていれば楽ができます。じゃんじゃんぼくを頼ってください」
「はぁ? おれは三光一絃流の宗家出身者だぞ。おれが死んだらじいちゃんばあちゃん泣くだろ、親父も御袋も泣いて自殺しちまうだろ」
「いえ、ぼくが死なせません」
はぁ、とため息を吐くジュノはぼくに向かってちょっと道場に上がっていけと言った。
もしかしてぼく、三光一絃流の流派に入らなくてはならないのか? もしそうだったら嫌だなぁ、めんどくさいなぁ。かつて剣の道を歩んだことはあるけれど、ぼくには向かなかったからなぁ。嫌だなぁ、めんどくさいなぁ。
「お前、名前は?」
「オルフェオです」偽名を使うこと二十年、未だにぼくの本名を知る者は数人しかいない。というのも、ぼくの本名を知る者は夜禅で亡くなってしまっている。
そういう訳でぼくの本名は呪われているのだろう。
「オルフェオか、どこかで聞いたような名前だな……」
「まぁ、ぼくの他にもオルフェオという名前はありますからねぇ」
「だよな。てか隊長殿、あんた三光一絃流に入らないか? あれだけ舞えるカラダを持っているなら三光も四光も制覇できるぜ」
やはり勧誘されたか。
「極道と聞いては入りたくありませんよ」
「あれは冗談だ、真面目に受け取るなよ」
それでもぼくは入りたくない。なぜならもう他の道に入っているからだ。ノウという花道に入ってしまっているから入りたくとも入れない。ノウは流派ではないけれど……。
「ぼくの話よりも君の話を聞きたい」
「おれの話? おれは有名人だから知っているだろ」
ジュノ・フレスヴェルグ、確かに彼を知っている。三相劃の一族にして機械との調和を果たした一族――
「フレスヴェルグ家、絃と
「そこまで知っていておれをまだ知りたいのか?」
「そうそう、ぼくはニケ・ウィクトーリアとお友達なんですよ」
「ニケと友達?」
「ニケお嬢様は『ジュノ、夜禅頑張って』と言ってましたよ」
「マジ? ニケが? おれに頑張ってって? おれ夜禅がんばるわ!」
「まぁ、今の話は嘘ですけど」
とぼくが言えば、ジュノは「テメェ、腹切れや!」と怒鳴ってきた。
いやいや、男女の仲に嘘を吐くなんてダメですね。鬼の形相あっぱれあっぱれです。
これで十番隊隊員のみんなと話ができた。絆が生まれたかは別として……いや、絆は生まれたと思います。
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