十番隊男性隊員ヴィザルの場合

<log>男性隊員ヴィザルの場合


「この前の舞と技! あれには驚きました! 心と体の調和による果てしない舞、呼吸一つ乱さない五属舞はまさに彼の英雄ヤマトタケルを凌駕していると思います! ぼくもあれくらいの勢いと心構えを持っていればけものと対峙できるのですが、残念なことにぼくはまだまだ心構えですらまだまだで、何もかも無理だ無理だと理由を付けてはできない理由ばかり、隊長はぼくとは違ってできないを理由にしないで真っすぐ前を向いていますよね。ぼくはあなたのその姿勢に感服いたしました。それでいて――」


 修行の休憩の時間にヴィザル・ノモスと話をしようと話しかけたらこの勢いだ。ぼくは獅子奮迅の勢いで話す彼に圧倒されてしまった。


「あははは……まあまあ、そのへんで褒めるのをやめておいてくれないか。照れてしまう」


「あ、ごめんなさい。ぼくは憧れている存在に話しかけられるとどうしても緊張してしまって、自分と比較して話をしてしまって、ごめんなさい」


 ほうほう、ぼくに憧れを抱いているのか。どの部分が憧れているのか分からないけれど、たぶん普段のぼくを見たら幻滅してしまうと思う。ぼくって家にいる時かなりぐうたらしているからなぁ。


「いやいや、話しかけたぼくの方が緊張していたよ。なんといっても君は三相劃の一族がひとつ――剪繋の一族らしいじゃないか。理想郷生物の研究をして理想石イデアルの利用方法を考えた一族だ。誇り高いよ」


「あ、はい。気持ちだけは誇り高くあります」


「ぼくは倭人族ヤマトと話すのが初めてだ、よろしくヴィザル」


「あの、隊長の名前は……」


「ぼくはアララギだ」


 よろしくアララギ、と、ヴィザルは両手でぼくの手を痛いくらい力強く握ってきた。


「ところでヴィザルはどうなの? 夜禅についてさ」


「夜禅……」ヴィザルは一度考えるような仕草をしてから「ぼくは弱いから、迷惑をかけるくらいなら前に出るんじゃなくて、後ろで支援をしていたいかなって思って、それで夜禅には弓矢を持って行ったのですけど、他の隊の動きや隊長の動きについていけないなって……立ち尽くしてしまいました」


「そっか」


 やっぱりヴィザルも自分と戦っているんだ。己の弱さを恨んでいて、他の誰かの強さばかりに目がいってしまっている。


「ヴィザル、君は強いよ。自信を持って動けばいい」


「あはは……もっと強くならないといけないのに、修行の最初の段階――呼吸法で苦戦していますけど」

「ヒトはそんな簡単に成長しないさ」


 ゆっくり時間をかけて育つのが成長だとぼくは思っている。ただし怠けるのはいけない。


「けれど、夜禅部隊に入った者は甘くないんですよね」


 そう、夜禅は甘くない。ゆっくりとした時間は無いし、成長する時間も無い。だから実戦で鍛えるしかない。たとえフォルスが傷物になろうとも生きていれば何とかなる。


「完璧にやる必要はないんだよ。肩の力を抜いて、自分の思うままに動くんだ。そりゃあチームワークも大切だろうけど、一番は生きていられる立ち回りだよ」


 生きていれば何とかなる。生きていればいつかぼくの願いも叶うかもしれない。


「みんな日の出を見れるように頑張っている、致命傷を避ける立ち回りをすれば何とかなる」


 と、ぼくはヴィザルの肩に手を置いた。


「頑張ってみます……」


 ヴィザルはぎゅっとこぶしを握った。


 彼なら大和舞を完璧に舞えると、ぼくは思った。


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