隊長会議
夜禅の隊長たちが集まる室内で。
「今回集まっていただいたのは、牡丹派の管理する理想郷で起こった田園の被害報告についてですが、隊長たちは皆ご存じの通り、田園は昨夜イノシシ共に荒らされてしまいました」
田園の防衛部隊も狩猟部隊も壊滅的だと聞いている。
「獣臭い米なんて誰も食べたがらないでしょうし、全て刈り取って処分か」
「新しい稲が生えて収穫までは百日……現世界に米の蓄えはあるとしても、また荒らされたら今度こそ供給が間に合わなくなりますね」
米の生産は牡丹派の生命の大樹あってこそだ。一番広い田園があるのは生命の大樹の理想郷、それがあったからこそ蓄えられていたが、この一件の問題で逆転してしまう。
「イノシシ共の司令塔を潰さないとまた米がダメになる、その司令塔は狩猟部隊での討伐は不可能ってことか」
「その通りです。ということで、夜禅の仕事は一旦引き上げて夜禅部隊は
現代では、<夜禅>は<野禅>とも書く、つまり夜だけでなくいつでも仕事だ。
イノシシの親玉を討伐したら理想郷の環境は変わってしまいませんか? などと言う質問をしてはいられない。
「彼の英雄ヤマトタケルを殺した白大イノシシの討伐か」
「ただのイノシシだったらよかったのに……その正体は神狩り
柱の獣を狩ったら呪われてしまいそうだ。しかし現世界のいのちを守るためには、呪われてでも狩らねばならぬ柱の獣、神狩り獣狩りとヒトは罪を犯す生き物。夜禅に生きる者として、罪を被ってでも諸人を笑顔にしなくてはならない。
「十二支はけものとは違い朝を迎えても消えませんので、けものよりも厄介です」
「討伐に何日かかるんだか……ま、倒せるとは限らないけれど」
その通り、十二支はけものよりも厄介だったりする。相手が一匹狼であればいいのだが、残念ながら白大イノシシはこちらの戦力以上の子分たちを従えているだろう。
「夜禅を生きる強き者と言えど、今のままでは確実に誰か欠けてしまいます。なので隊員の強化を考えております」
「鍛える時間あるの? 次の稲刈りまで百日しかないうえに、いつまた攻めてくるか分からないでしょ。だったらさ、他の派閥の隊長と協力して狩った方が手っ取り早くない? 短期決戦ならわたしたちの勝率高くない?」
「相手の力量を測れない今、そう簡単に五王の承諾を得られません……何より、フォルスを収穫する派閥が減ってしまっては現世界の破綻に繋がります。全派閥の優先順位はフォルス、その次に面倒事なの」
西國の王は『米が無ければ小麦を食えばいい』と言ってくるくらいだ。派閥同士の協力は不可欠だが、非協力的な王もいる。五王の許可なくして夜禅部隊は動かせない。
「そういうところ派閥ってめんどいんだよね。そのうち麦もやられそう」
「牡丹派の理想郷は牡丹派のものだから、牡丹派でなんとかするしかない」
「隊員の強化か……」
「わたしたちクラスになれる逸材って言ったら巫の御家出身者と士師の御家出身者だけでしょ。他の子たちはステータスの限界を迎えている」
「十番隊以外は全盛期だよ」
「そこで、総隊長様はどんなお考えなんですか?」
と、ぼく含め隊長たちも総隊長に目を向ける。
「――疲れ知らずの舞を使える方がおります。ね、十番隊長さん」
そしてぼくへと視線が集中した。
おやおや、ぼくですか。確かに疲れない舞は使えますけど、まだまだ見世物にすらならないヘッポコ舞ですよ。
「期待されるほどの出来栄えではありません、それに使えるのは舞と技だけです」
「けものとの戦いで呼吸一つ乱さない舞を扱えるのはあなただけです」
「五属舞であれば継続して舞えます……しかしその他の舞は息切れしてしまいます」
「それをできれば十分でしょ」「立派な男子です」「そうです、自信を持ってください」
「どうかあなたの舞を伝授してあげてください」
女子たちに頼まれては断るわけにもいきますまい。
「承知しました。十番隊の隊員には基礎の呼吸法を教えようと思っていたところなので、そのついでに舞も教えます」
がんばりましょうよそうしましょうよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます