死した土地で

 こうして迷いながらもぼくが行き着いたのは小さな花壇だった。


 麦藁帽を被った女子がひとり、移植ベラ片手に花壇に何かの苗を植えていた。


 人工の植物ではなく、生きている植物を植える女子。死した土地現世界では五本の大樹以外枯れてしまうのに、どうして植物を植えるのだろう。


 不思議に思ったぼくは、女子を観察していた。正直言うと、ぼくはかなり気持ち悪いヒトだ。植物を観察すればいいのに、不思議な女子を観察するなんてキモいとしか言えない。


「こんにちはカボチャさん、あなたたちは今から死した土地へ植えられるのです。『よい、十分に生きた』ふむふむ、わたしはあなたにもっと生きてもらいたいのですけど、どうしたら枯れないでくれるのですかなカボチャさん? 『それはお答えできかねます』なんと意地悪なカボチャさんでしょう、わたしはプンスカ怒りましたよ。それでは植えてしまいましょう」と女子は、一本そしてまた一本と、ポットから苗を取って植えていった。


 彼女は独り芝居が上手なようで、独りでも苗の数だけ役者がいるように見えた。


 ほんと、このセカイで植物が生きていられたらもっと楽が出来るのにね。


『〝咲けば散るのが花なのだが、再び咲くのも花なのだ〟』と、ぼくと女子は声を揃えていた。


 声に出してしまったからには、女子がぼくの方を向くのも無理はない。


 気付かれないように去ろうとしたのに、なぜそんなことを口走ったのか……頭のおかしいぼくだから声に出してしまったのだろう。ということは、女子も頭のおかしい部類になってしまう。うむ、どうしたものか。


 視線がお互いの瞳をとらえた時だった。ぼくは思わず、『咲きましたか?』と、ぼくと彼女は思っていたことが同じだったのか、『咲こうとはしているのですが、まだまだ種のままです』こうして同じことを訊いて同じことを答えた。


 ぼくは本当にそんなことを訊きたかったのか疑問だ。しかしそれを訊かないと物語が始まらない気がした、そう言える根拠はないけれど、ぼくは彼女を知っている気がした。何度も何度も出会っては離れ離れにされてきたような、切ない感じがしたんだ。


「あ、すいません。今日が牡丹派への花入りだったのですけど、変わった花の匂いを嗅いでしまったもので……ぼくは決して怪しい者ではございません」


 いやいや、怪しすぎてどう反応してよいのやら、という感じですよね。その気持ちは分かりますよ、なぜならぼくは牡丹派の紋章を身に付けていない、言わば部外者や不審者のような存在ですからね。我が身怪しまれることけものの如し、難儀な難儀だ。

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