第−2話

 やってしまった。

「んっ!んーっ!」

「大丈夫だよ。口を大きく開けて。そしたら、勝手に糸が切れて喋れるようになる。唇が切れるのかもしれないけど。あ、目を縫ってなかったね。スマイルの質は目で決まるんだって。」

 僕に後悔は微塵もない。大丈夫だ。きっと。

「ふーーっ!んぐっ!んーっ!」

 そして1人ずつ、目を縫っていった。下の瞼から、しっかりと眼球を通し、上の瞼へと糸が通るように。

「はい、おしまい。これでみーんなスマイルできたね!」

 目の中から血を流しながら首を横に振るこいつらの顔は、どこか喜んでいるようにも見える。


 僕は、血だらけの目でニュースを見ていた。力を入れて強引に切り裂いた赤い糸が痛みを増幅させている。

「昨夜、〇〇中学校で傷害事件が発生しました。事件発生時はお昼休みで、教師が校舎裏で目と口を縫われた状態の被害者を発見し警察に通報。被害者はこの中学校の3年生の男子2名で、加害者は2年生の少年という事です。また、事件発生と同時刻に、この中学校から最寄りのコンビニエンスストアで『目と口を縫っている制服の少年がひょっとこのお面を被って店に入ってきた』と通報があり、警察は、この傷害事件と関係があるとみて調べています。」

 このニュースの「加害者」が自分だと言うことは分かっていた。ただ、どんな言い回しで報道されているのかが気掛かりだった。案の定、「すべての責任は加害者にある」と言わんばかりの書き方で、自分も一瞬だけそう思ってしまいそうなほどだ。

 僕は昨日買ったポテトチップスを口に入れる。口を開けて引き裂いた両唇がまだ痛い上に、コンソメ味のスパイスがヒリヒリする。


 あれから半年が経ち、さらに半年が経った今、僕は人間たちにたくさんのスマイルを届けている。やり方はどうあれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る