第3話

 びっくりした。心臓が止まるような感覚になった。

 キッチンの下の棚から母親が両目と口を縫われた状態で滑ってきた。やはり、母はスマイルしている。

 合わせるように僕も、またスマイルになった。止まった心臓がすぐにまた動き出したような感覚になった。

 この感覚にはまだ慣れてほしくはない。今、僕は、楽しい気持ちでいっぱいだ。


 <1時間半前>

「実は、◻︎◻︎◻︎なんだけど…」

 キッチンに寄りかかりながら。話を聞いてるのかよく分からないスマイルに対して話し続ける。

「そいつには、スマイルしててほしい?」

 相変わらずこのフレーズだけトーンが低い。それだけ重要な質問なのだ。今度はスマイルの意味がなんとなく分かった気がする。

「うん!しててほしい!」

 恐ろしい話だ。スマイルは昨日、僕と△△△をスマイルにさせた。

 今日も、そうするつもりのようだ。


 …ふと、腹が鳴ってしまった。そう言えば今日、まだ何も食べてないな。

「なんか食べる?」

 そう聞こうとした瞬間、スマイルの方から食い気味に聞かれた。

「食べる。スマイルは?」

「…僕はいいや。」

 意外な答えだった。少食なのか?まぁ、無理に「食え」なんて言っても仕方ないし、自分だけ食べることにした。

「僕はここで待ってるから、食べてきなよ。」

「そう?分かった。じゃぁ、お言葉に甘えて。」

 僕は歩きで行きつけの喫茶店へと出かけた。

「ここのオーナーさん優しいんだよね、たまに。じゃぁ、行ってきまーす。」

 …着いた。だが僕が想像していた賑わいのある喫茶店とは裏腹に、シャッターとそこに張り付いてるクリーム色の紙が無気力そうに下まで垂れ下がっているだけだった。

「3月4日〜臨時休業」

 …仕方ない。コンビニでも行くか。


 がちゃっ。

 強めの音を出して玄関の扉が開いた。

「…きゃぁぁぁぁぁぁっ!」

「…君、スマイルしてる?」

 玄関とダイニングを挟むように付けられていた扉の前に、スマイルが待っていたのだった。

「どれどれ?スマイルしてないじゃないか。それなら、僕がスマイルにしてあげる!」

 額を押さえつけている手は見た目に反して強かった。

 針と糸が、下唇、舌、上唇へと絡んでいる。と同時に、瞼、眼球、瞼へと絡んでいる。

 これで君もスマイルになれたね。

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