第−1話

「今日からお前の名前はスマイルだ。無戸籍者だったのに、名前つけてもらったんだ。感謝しろよ。」

 違う。僕の名前は…忘れちゃった。

「んー」

「あ?何言ってんのかわかんねぇや。もう喋んな。」

 僕の名前はスマイルなんかじゃない。えっと…

「おい、いいから早く飯買ってこいよ、スマイル。」

 やめろ。僕がこの状態でコンビニなんて入ってみろ。きっとその瞬間何かを疑われる…はず…だよね…

「こいつつければ行けるんじゃね?ほら。」

「おー、夏祭りのやつか。行けそうじゃん。」


「次のお客様どう…ぞ。」

 お願いします。レジ袋お願いします。

「えっと…お客様?」

 どうかされましたか。

「あの…大変申し上げにくいのですが、その、ひょっとこのお面ですか?」

 …そうですけど。

「外してもらっても…?」

 大丈夫です。

 レジの女性が店長と会話している。皮肉だ。

「すみませんお客様。お面を外していただけないのであれば、当店の経済に影響をきたす可能性がありますので、ご退店をお願いいたします。」

 店長ですか…分かりました。

 僕がお面を外すと、コンビニの人が全員凍りついた。中には、そのうち写真や動画を撮る人まで現れ始めた。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 目に見えていた。このスマイルが受け入れられるはずがない。そして退店を強いられ、拡散され、依然としてスマイルを絶やさない「スマイル」という戸籍が作られた。


「おい、なに退店させられてるんだよ!ふざけんなっ!」

 当たり前でしょ?

「てめぇどうやって責任取るんだよおい!」

 ぶちっ。

「君たち、スマイルしてないじゃないか。」

 喋れた。やっと。

「は?てめぇ、何勝手に喋ってんだよ!何のためにスマイルにさせてあげたのか分かる?」

 分かる。きっと、自分がスマイルしたかったからでしょ。でも今は、スマイルしてないじゃないか。

「それじゃぁ、僕がスマイルさせてあげるよ!」

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