第2話

「あ、そうだ。僕のことはスマイルと読んでね。」

 タクシーの中で自己紹介されながら、道路を進む僕とこいつ…スマイル。

「ところで、その△△△なんだけど、どうしたい?」

「どうしたいって…殺すとか?なんてね。冗談だよ。」

「そいつには、スマイルしててほしい?」

 このフレーズだけ低いトーンで話されて、謎に恐怖心を覚えた。

「うーん、正直、してほしくはないかな…」

「…そっか。僕はみんなにスマイルしててほしいな。」

 いい事だと思うよ。なんて言おうとしたが、それでは自分の意見を否定してしまうことになりそうだったので、辞めておいた。

 10分ぐらいして、家に着いた。ただ、その家は自分の家ではなかった。

「ここ、僕の家じゃないよ…?」

「そうだよ。ここは、△△△のおうち!」

 何がしたいんだ?僕にはスマイルの感情が理解ができなかった。スマイルって、和解のことなのか?

「ここに来て、何を…」

「簡単さ。君と、△△△にスマイルしてもらうんだよ。」

 やはりスマイルからは逃げた方が良かったのだろうか。勝手に家に押し入り、寝ている上司を叩き起こそうとするような人は、人の形をした化け物なのだろうか。

「ありがとう。タクシー代は払っておくから、帰ってよく寝てね。」

「わ、分かった…」

 僕はそう言われてタクシーで帰らされた。その夜はスマイルが気になって仕方なかったが、何故か解放された感覚があって、よく寝ることができた。


 <次の日>

 疲れが取れてる。寝る前の感覚が残っている。

 急にスマイルのことを思い出した。あれから一体、スマイルは何をしたのだろうか。

 テレビをつけると、ニュースが流れてきて、それを見た僕は、唖然とした。

「速報です。昨夜、東京の高層マンションで31歳の男性が目と口を針と糸で縫われる傷害事件が発生しました。被害にあった男性は両目を失明する重症で、口は笑顔になるように縫われていたということで、警察によると、犯人は黒のパーカーにひょっとこのお面を被った人物だという事です。警察は、『犯人らしき人物を目撃した場合は、決して近寄らず、直ちに安全な場所へ避難してから警察へ通報するようにお願いします。』と現場周辺の住民への警告を呼び掛けています。」

 …そう言う事だったのか。スマイルは、本当に僕と△△△にスマイルしてほしかったんだね。

 僕は自然とスマイルになっていた。

 ふと、チャイムが連打されているのに気づいた。その正体はスマイルだった。

「ただいま。」

「た、ただいま…?」

「そうだよ。ただいま。」

「あ…うん。ただいま。」

 終始追い返そうかと思ったが、勿体無いじゃないか。こんなに自分に寄り添ってくれる人はスマイル以外にいない、自分にはスマイルが必要不可欠だ、と思った。

「では早速。何か、あったのかい?」

 まだ2回目の質問だが、もう慣れた。自分の返答ははっきりしていた。

「実は、◻︎◻︎◻︎なんだけど。」


 そういえば、僕って1人暮らしだったっけ…まぁ、いいや。

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