Smile

噂のはちみつ

第1話

 彼との出会いは衝撃的だった。

 彼はいつも笑っていたように感じた。

「はい、スマイルしようねー。」

 そう唱えた彼は、助けを求めるように叫んでいた男を笑顔にさせたのだった。


 <3時間前>

「君さぁ、何でこんなこともできないわけ?」

「はい…すみません。時間がなくて…」

 ベタな言い訳をついた僕の頭に罵声が届いた。

「ふざけんなよ!時間がないのは俺も含めて全員一緒なんだよ!どうせさぁ、趣味だの旅行だの配信だの…そう言うことにばっか時間あててんでしょ?」

「いえ、そういう訳では…」

 下手な返しをした僕の頭にまた罵声が届いた。

「嘘つくんじゃねーよ!お前の考えてる事なんかなぁ、お見通しなんだよ!」

「…すみません。」

 何故だろうか。そう言う訳ではないのは本当…なはずなのに、頭を下げることしかできなかった。

 …

 なんで本当のことを言えないんだ?なんて自問自答しながら、終電を待っていた。どうせ家には、毒親と家で飼ってるペロちゃんしかいないのに。なんで毎日帰るんだ?まともに飯を作ってくれるわけでもないし、洗濯も掃除も任せるし。そのくせ、何が「親の縁はそう簡単には切れないわよ」だ!ふざけんなよ!あの上司に是非怒られて欲しいわ。

 そうこうしているうちに、終電の時間が来た…はず。なのに、終電は来ない。何か嫌な予感がする。ホームには自分以外誰もいないし、終電が来る気配すらない。

 ふと、足音が聞こえた。良かった。人がいる!…と思ったが、終電が来る方向から線路を歩いてやってきたそいつはまるで、人の形をした化け物のようだと、直感的に思ってしまった。

 目が合った…のか?そいつはひょっとこのお面を被っていてよく分からない。

「やぁ。どうしたの?スマイルしてないじゃないか。何か…あったのかい?」

 いきなり話しかけられて、終始逃げようとしたが、何故かこいつには優しそうなオーラがある気がして、つい自分から口を開いてしまった。

「実は…うちの会社の△△△なんだけど…」

「ふん…」

 そいつはすぐに何かを思いついたように相槌を打った。

 それから一緒にタクシーで続きを話していたが、そのタクシーは自分の住処から逆方向に向かっていた。


 <約1年前>

「おい、なんか言えよ。」

「何も喋れてなくて草。」

「まじで可愛いね!この方が似合ってるよ!」

 …

「君たち、スマイルしてないね。それなら、僕がスマイルしてあげるよ!」

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