第5話

 僕は急いで靴を履く。できるだけ早く、いや、今すぐここを出なければ。

「よし、履けた。」

 そう言って玄関の扉を開けたが、どうやら遅かったようだ。


 <3時間前>

「君、名前は?」

「どうして僕が取り調べをを受けないといけないんですか?僕、被害者ですよね。」

「その気持ちはよく分かるけど、被疑者の家にいたんだよね?君。だから何か情報を持ってないかなって。治療代出してあげたんだから。ね?」

「はぁ…今日だけですよね?」

 年下のくせに少々偉そうに口を言う少年に対し、私は少しかっこいいなって思った。と言うのも、スマイルが取り調べを受けている部屋に、隠しカメラを設置してくれた。スマイルの家の中は今日も暗く、まるで映画でも見ている気分だった。

「うん、今日だけだから。それじゃぁ、名前を教えて。」

「…」

「今日だけなんだからさ、名前ぐらい言えるでしょ。」

「自分、無戸籍なんで。」

 取り調べをしている人はやけに驚いていたが、自分は何となくそんな気がしていたのであまり驚かなかった。

「…そうなの。じゃぁ、どこに住んでたの?」

 この時スマイルは、若干明るめの表情で住所を喋っている。

「犯人の顔は覚えてる?」

「見た。うろ覚えだけど。」

「どんな顔だった?体格とかでもいいよ。」

「んーっと…」

 …まさか、スマイルにこんな結末を迎えさせられるなんて。

「男で、黒髪のマッシュで、細くて、足が長くて、二重で…」

 スマイルが次々と出していった「犯人」の特徴は、紛れもなく僕の特徴と一致していた。

 …いや、たまたまだろ。スマイルとは顔を合わせたことはほとんど無いんだ。たまたま同じ特徴が多かっただけだ。

「あとね、今僕の家にいると思うよ。」

 …僕だ。僕のことだ。いや違う。僕は犯人じゃないし、スマイルが言った住所はどこなのか僕には分からない。ガセだ、きっと。

 なぜだろうか。自分が犯人にされている可能性があるにも関わらず、ここから出ようとしない。そして僕の焦っている思考回路は、スマイルのひとことで砕け散った。

「ですよね?先輩。」

「ん?どこに向かって…」

「そこにカメラがあるんですよ。通話相手がつけとけって。何がしたいかはわかりませんが。」


 ここからの結末は、想像にお任せしよう。


 第1章 完結

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