第2ゲーム
「皆様、ようこそ。ここでは皆様に、『テトリス』をプレイしてもらおう。」
あまりに静かすぎる空気に溶け込むように音が流れて、逆に聞き取りずらかった。
「『テトリス』って、あのゲームか?」
「でも、私たち、何も持ってない…?」
「どう言う事なんだ!?大体、あの兄ちゃんはどこ行ったんだ!?説明しろよ!」
「怖いよう、ママはどこ?ママがいい、」
全員が口を溢す中、自分だけが何も喋れなかった。まだあの司会があの時のオーナーだと信じたかった。
「黙れ!」
スタッフの罵声が確かに聞こえた気がした。おそらく全員、あの声が掠れた男の末路と各々の顔を照らし合わせただろう。今回は、誰も何も言わなかった。
オーナー、いや、司会が口を開いた。
「えー、宜しいかな?ふーっ。それでは、テトリスを始めよう。ただし、ブロックを落とすのは君たちではない。私だ。」
この一言で全てを察せた人はいただろうか。答えは明確だ。「NO」
「黙れ!あんたは言う事だけ聞いてれば良いんだよ!」
「でも…で、できないよお…」
「うるせぇんだよ!」
バチッ。
途端に、実希の頬に赤色が増えた。実希はお洗濯も、お料理も、お掃除もできない。ダメな子だ。
「ほら、さっさとやれよ。」
「はい。」
実希は保育園の先生の言葉を思い出した。「数をこなせば、そのうち覚えるようになるから。頑張りなさい。」
実希は動くしかない。とにかく動いて覚えるしかない。覚えれば、ママに怒られないし、褒めてもらえるかもしれない。だから動く。
…
いつの間にこんな所に。ママはここにいるのかな。寂しかった。
「君、名前は?」
とりあえず情報交換をしよう、と思って自分から話しかけてみたが、なんでこの小さな女の子に話しかけたのだろう。
「…実希。」
「実希ちゃんか。可愛い名前だね。誰に付けてもらったのかな?」
「…ママ。」
愚問だったかな。何となくだけど、申し訳なく感じてしまった。
「そうか…じゃぁ、お兄ちゃんと一緒にいようよ。お兄ちゃん、ちょっと寂しいんだ。」
「…いいよ。」
よし、ひとまず仲間ができた。嬉しい気持ちの反面、少し実希ちゃんが気掛かりになった気もした。
「第1ゲーム、スタート。」
久しぶりに聞いたようなオーナーの声で、ついに「テトリス」が始まった。途端に、赤色のブロックが上から降ってきた。そう言う事だったのか。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
多分そう言う事なんだろう。既に誰か、ゲームに負けている。降ってきたブロックの下、そこが負けた人の墓場なのだろう。
立て続けに青色、黄色、紫色とブロックが降ってきた。それは、自分と女の子の真上にも降ってくる。自分は避けられたが、女の子の足が下敷きになってしまった。
「っ…!?大丈夫?」
「…大丈夫。」
大丈夫な訳がないだろう。まず足を挟まれたら絶叫するはずなのに、女の子は声を上げることすらしない。
「…痛いでしょ?今持ち上げて…」
「痛くない。大丈夫だから。」
どっちにしろブロックを持ち上げようとするが、重すぎるうえに手を掛けられる部分がない。かといってスライドさせるのも足が余計にぐちゃぐちゃになりそうで手が引けた。
「実希、大丈夫だから。早く行って。」
「そんなことできる訳…」
「実希、これで楽になれるの。」
そうか。
自分で止めてはいけない。
その瞬間、頭上にオレンジ色のブロックが落ちそうになり、避けてしまった。
また、別れが増えた。
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