てとりすげーむ(作品移行)
噂のはちみつ
第1ゲーム
酸素が回らなくなり、ギリギリの状態の脳であの日を思い出す。
…
スピーカー越しだけど、第一声だけで誰か分かった。
「久しぶりだな。」
「久しぶり!元気だった?ってかいつお店また開くの?早くあのコーヒー飲みたいなー。インスタントじゃ劣るんだよねー。」
「…」
返事がない。
おそらく一方的にしか喋れないんだろう。
「おっと、失礼。私はテトだ。何でも好きなように呼んでくれたまえ。」
慣れてないのだろうか。いつになくぎこちない口調で喋っている。そんなところもなんか懐かしく感じて、クスッと笑ってしまった。
…
もう、笑うことはないだろう。
私の上についにブロックが降った。
<3日前>
今日は嫌な朝だな。いつもやってるテトリス配信で全戦全敗する夢なんて。地獄かよって。
そんな事をぼやきながらコーヒーを淹れる。
そうそう、この匂い。懐かしいなー。そういえば、あの人は今何をしてるんだろう。
思いのは、前に私の行きつけだった喫茶店のオーナーを務めていた人だった。
学生時代、デートをドタキャンされてぶらぶらしていた時にたまたま通りかかった場所だ。名前は「噂の喫茶店」。そこのオーナーだった彼は、来るたびにいつもコーヒーを1杯だけ奢ってくれた。だから、「恩返しと言っちゃ何だけど」つって、毎週2回は来ていた。
なのに。
「3月4日〜しばらく休業します」と、閉ざされたシャッターに貼られていた。あれは本当にショックだった。
今日は二周忌。
死んだかは分からないけど、いつからかそう言うようになった。
今日、まさかここで再開するとはね。
「あとはスタッフにお任せするよ。よろしく。」
スピーカーが切れると同時に、良い感じの防護をしている奴の1人が口を開いた。こいつがおそらくスタッフだろう。
「それでは、早速ご案内させていただきます。私の指示に従ってご移動願い…」
「待てよ」
突然、掠れた声が左の鼓膜に響いた。
「何の説明もなしに着いてこいなんて、自分勝手なんじゃないの?」
ぶっ飛ばしてやろうか。恩人の駒にそんな口の聞き方でベラベラ喋りやがって。と放とうと思ったが、何か嫌な予感がしたのでやめておいた。
「私の指示に従わない、ということでよろしいですね?」
「そうだよ。まずここはどこなんだ?説明してみ…」
急に掠れ声が静かになった。それもそのはずだ。こいつは頭を打たれた。
スタッフがボソボソと何かを呟いてる。外国語なのか…?横目では、別のスタッフが血が垂れている男を担いでいる。後ろでは知らない女の子が叫んでいるし、情報量が多すぎる。
途端に、スタッフの咳が空間に届いた。
「えー、それでは、ご案内させていただきます。私の指示に従ってご移動願います」
今度は、誰も何も言わなかった。ただ、女の子の鼻を啜る音が僅かに聞こえていただけだった。
10分ぐらいして、やっとついた。
「それでは、こちらへどうぞ。」
放り込まれた先は、床が100枚の正方形で埋まっている真っ白な空間になっていて、上は霧がかかっていて見えなかった。ざわざわと喋っている自分たち、いや、プレイヤーの声が無駄に反響している。
このあと、また別れが増えるなんてベタな結末を、正方形の上の全員が想像していた。
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