第13話 魔力操作を極めよ!!
あれから10日が経ち、痛めた身体もその期間常に医者に拘束されたことでことなきを経てトウキの体は全開した。
あの日からトウキは人様に要注意人物扱いされる羽目になってしまい、病院内ではどこも彼の名を知らないものはいなくなってしまった。
曰く、生徒との揉め事により大怪我を負いその後無許可で外出した恩知らず。
曰く、逃亡したと思われた恩知らずはその日ボロボロの重傷で帰ってきた異端者だった。
曰く、
「常に外出を試みる無礼者。ですって!」
『大袈裟だな!』
トウキがバッとミューレに向かってどう思う?っという意思を込めて顔を勢いよく向けると、ミューレは堂々とした風貌でそう言い切った。
「ですよね!! 僕だって無理やり連れ出されただけなのに! 責任があるなら僕を連れ出した人ですよ!」
『喧嘩売ってんのか?』
「すいません!」
トウキはいつも通り土下座で謝罪をし、言葉を撤回した。
『まあとは言え、おぬしだって今体を動かしているではないか』
トウキが居るのは病院の隣にある運動場だ。体を動かし健康な体を保つために創設されたグラウンド、そして様々な用具が入っている倉庫も設備されている。
こうした設備の充実した環境はこの町有数の病院だと言われる所以であり患者も見るだけで3、40人は利用している。
そこでトウキはランニングを済ませ、汗を拭きながら休んでいるところだ。
垂れてきた汗をタオルで拭いながら、
「街ブラとリハビリを一緒にしないでください。あの日からこっ酷くヒュースさんに忠告され続けてるんですから」
トウキが病院の前で倒れて以来、院長の計らい(いんぼう)により1人の監視役をつけらた。それがヒュースだ。彼女は常日頃から監視していて、目をつけられたトウキは気になってしょうがなかった。
『あの医者か。確かにあれのいう事は正しいが、あんなの振りではないか。外出しても良いってサインだ』
「嘘言わないでください。ヒュースさんはそんな人じゃないですよ。確かに毎日毎日口うるさく言ってきますけど」
「おやや? 私の話かな?」
「ひゃい…っ!?」
突然の背後からの声にトウキは情けない声を上げる。背後から顔を出したのはヒュースだ。金髪のポニーテールで白衣を着ている若い女性である。
「ヒ、ヒュースさん。どうも、おはようございます」
「ええ、おはようございます。それで、私の話をしていた様だけど、口うるさい私がどうかしたのかな?」
どうやら先ほどの会話、否、独り言が聞こえていたらしくトウキは顔色を悪くする。
「い、いえ、べ、別になんでも。それよりどうしてこちらへ来たんですか?」
「それは勿論院長からの通達で、「あの子から目を離すな」と言われましたので今日も今日とてもあなたの観察をしてるんだよ」
「…そう、なんですね」
ヒュースはそう言ってウィンクする。
彼女もまた医者の端くれだ。誰かが危険な行為に走る危険性があるのなら勿論止める。
特に病院を抜け出したくせにその日のうちに死に絶えそうな生徒がいれば尚更だ。
「ーーーー」
院長には本当によく叱られた。
半分罵倒ではないかと思われる発言もあったが、他の患者の面倒を見ないといけない中トウキの外出はかなり世話のかかる議題であったらしい。
それを知っているからこそトウキは苦笑いしかできない。いくらヒュースが明るく振る舞ってくれてもだ。
『お前問題児だもんな』
『うっ……』
ミューレが外出しようと言い出したのも悪いが、トウキだって勿論責任逃れはできない。
決断したのも行動したのも彼だ。だからどう言おうとも言い訳となるわけだが、
「今日はランニングだけですか? ランニングもリハビリにしては少々ハードな気もしますけど」
「体はもうほとんど治ってますから。ランニング以外にも今日は色々やってみるつもりです」
「へぇ〜、それじゃあ何するの?」
『何するの?』
トウキの質問にミューレは顎に手を当てる。彼女の計画はいつ迄にどの程度の能力を得るかという目標のみだ。それまでは当然反復動作の繰り返しになる。
『…今日はランニングに魔力操作、
「ランニングはもう終わったのであとは瞑想と景観を見たり、軽く遊ぼうと思います」
魔力操作と言っても伝わりにくいだろうし覚世と言ってもわからないだろう。
戦闘スタイルの見直しは時間があればとのことだが、恐らくできない。何故なら今の最優先事項は魔力操作を完全にすることだ。今の中途半端な体では体の違和感が拭えない。
「そっか。それなら良いんだけど、私もその様子を見学させてもらっても良いかな?」
「良いですけど…仕事は大丈夫なんですか? 多忙じゃないですか?」
トウキの監視役とは言え彼女も医者だ。やる事はいくらでもあるだろう。
「暇だよ〜。最近は落ち着いてきましたし、私の仕事はトウキ君の監視だから!」
「へ、へぇ。そうなんですね。分かりました、良いですよ。あまり面白いものでもないと思いますけど」
「そこはお構いなく!」
今思うが監視役の目の前であれこれすることは初めてだ。
彼女はいつも遠くから見て生きている。それにはトウキも気づいているので隠れて監視しようが意味のないことではある。
そう思いながらトウキはグラウンドにて瞳を閉じる。
△▼△▼△▼△
『師匠、魔力操作って言っても普段からやっている魔力の動きを瞑想しながら感じ取っていれば良いんですよね』
『そうだ、今はいち早く体を完成させることが重要だ。お前は今慣れきっていない体で行動し続けている。そのせいで息切れや眩暈、頭痛など疲れやすくなっている。おぬしが10日前に味わった頭痛の1番は脳への過度な負担が原因だ。だが中途半端な魔力操作で中途半端な肉体のまま脳へ負担をかけたのが理由でもある。今はそれが体への負担で起こっている。大小の違いはあるがな』
トウキはミューレの言っていることを身をもって体験している。
先ほどのランニングでの息切れの早さは確かに妙な違和感がしていた。
体を休めていたといっても普段の10分の1も走らず息が上がっていたので流石に体力が落ちすぎではと驚いたものだ。
「ーーーー」
太陽がトウキの肌を照らし、風が彼の背中を押す。
最初に意識を深く沈めると、真っ暗闇の視界の中で気持ちがいつもより格段に落ち着く。
病室で瞑想をしないのは、外の方が魔力の素であるマナが満ちているからだ。
建物の一切がない外であればマナにとって障害なくトウキの元へ辿り着ける、とミューレに言われた。
瞑想とは集中ではない。
極限までの落ち着きだ。
以前の様に魔力核が作る世界だとかの心配はミューレによるとないとのことで、それならば魔力以外のものである情報たちは不要と判断する。
『必要な情報だけ言っておく。自然に魔力を流すことがお前の目標だ。今より綺麗に血液が流れる様魔力を流すことを意識しろ。魔力は未知ではない。お前が扱える道具の一つだ。…もし…お前が何か試したいことがあれば今やってみても良い』
ミューレのいう事は彼女なりの一種の例えであり悟りだ。
魔力が未知ではなく道具である。
トウキはそれを自由に扱えるという隠語である事だと理解する。
魔力は魔法を使う時の媒体だが、時折魔力が十分にも関わらず魔法が使えない者がいる。それが魔力を道具としてではなく感覚的な未知であるからこそ、つまり魔力がなんなのかの理解度が足らなさすぎるというのが理由で魔法が使えないという意味だろう。
感じることができる魔力という力が、彼の中で蠢く。
トウキが今他人と違うところは、魔力に漏れがないということだ。隙がないともいう。
色んな場所でトウキ自身が思う様に魔力を動かすのが目標なのだが、まだ慣れていなくて、トウキの負担になっている。単純にこの負担をなくすためにはどうすれば良いのか。
単にミューレのいう様に感じるという作業をすれば良いのか。しかしそれでは馴染むまでの期間が縮むとしても精々1日縮めば良いという程度だ。それよりも効率の良い方法はないだろうか。
そう考えると、ミューレが以前言った、
『魔力というのはマナの集合体だ。言わば理想気体だと思えばいい。魔力核に溜め込まれた魔力は表面張力により血液や血管、骨や臓器などに付着しそのまま不規則に
という言葉。これはその効率化の手助けになる気がする。
1番重要なのはこの不規則という部分だ。以前と今のトウキの違いは、
《魔力が身体を流れる行程の理解度》
《不規則に流れる魔力の操作》
《知識の増加》
《反射技術》
《
この5つだ。覚世は視界拡張と同義なため、今必要なのは2つ。魔力が身体を流れる行程の理解度と不規則に流れる魔力の操作だ。
必要というより関与と言った方が正しい。
理解はしているし魔力の操作も一応はできている。
だからこれとミューレとの会話に恐らく重要な何かが隠されているはずだ。
『さっき師匠はどれだけ自然に魔力を流せるかと言っていた。ってことは最終目標は水が流れる様に自然に体中の魔力を好き勝手操ること、なのかな。でもそれならどうすれば自然に魔力を操作できる様になるんだろう。もっと具体的に魔力の動きを操作してみればいいかな。でもそれだと体の負担が増えるだけだ。自然にと言っても何が自然なのかがわからない』
考えれば考えるほどわからなくなる。言葉にすれば簡単だがやっぱりそううまくはいかないんだろうか。
『そう言えばなんで師匠は外で瞑想をやらせているんだっけ? マナが溢れてるからーーいや違う。確かマナが満ちているからだ。建物の一切がない外であればマナにとって僕に辿りつきやすくなる。でも魔力を喪失するわけでもないのに僕が外のマナを気にする必要ない気がする。なのになんで外でやらせたんだろう。マナが関係しているからならなんで僕がマナを感じ取れた方がいいんだろう』
「ん〜…」
『あぁ分かったかも。自然に魔力を流すっていうのはこの空間に満ちたマナの動きを真似るってことか。世界中に自由に飛び交っているマナと同じ動きを体内でやればいいんだ。体内の魔力を操作したのも魔力が身体を流れる行程を理解するのもその前段階。つまりーーー』
トウキは自然に満ちるマナを感じようと魔力以外の情報を一層断つ。
マナはみる事はできない。でも感じ取れる事はできる。果たしてーー。
『…できるんだな。お前も』
『ーーできた。自然に魔力を流せた…っ!!』
明らかに体が軽くなったという実感。
これが成功の合図なんだとトウキは理解した。小難しいことを考えて考え抜いた先、やっと掴んだマナという核心。
そうやって望む結果を得られるとトウキはゆっくり目を開けた。
のだが、足元が痒くなり下を向くと、
「ーー? なっ、何ですかこれ!?」
トウキを中央とする周辺一帯全てが、草花だらけになっている。元々雑草が少し生えていただけのそこは、今花壇でも作ったのかと思うほど見違えた光景だ。
「僕はまだ死んだわけじゃないのに……」
「君は……」
「へ? あっはい!」
「今何をしたのかなぁ〜?」
「…め、瞑想……」
「瞑想…? これが〜瞑想〜?」
「そ、そうです。僕にも何が何だか…」
「…トウキ君はミラン生ですもんね。ミラン生は皆瞑想するとこうなるもんね」
「…ら、らしい…です、ね?」
「ーーーッ。そんなわけないでしょう!? なんなにこれは! 院長にどう説明すれば良いんだよ!? 私をいじめたいの? そうなんでしょ! も〜ぅ私の仕事……増えさないで〜…」
「ご、ごめんなさい」
「…許しません」
「えぇ? そこをなんとか…」
「…じゃあ、今日はもう何もしないでください」
「…うっ…分かり、ました」
『おい、まだやる事は残っているぞ!』
『仕方ないじゃないですか。ヒュースさんにこれ以上迷惑かけられないんですから。それに魔力をうまく操作できる様になりましたし、今日の分は確実に十分収穫できたと思います』
『ワーレは今より綺麗に血液が流れる様魔力を流すことを意識しろとしか言っていないぞ。まさかお前が一発でここまで成長するとは思わんかったのだ…』
「ってことで、もう昼なので昼食を食べに行きます! 一緒に食べませんか?」
時刻を見ればいつの間にか昼前になっている。数時間の瞑想をしていたようである。その間ヒュースはずっとみていたのだろうかという疑問が浮かぶが、それはトウキが考えることじゃない。
瞑想をこれほど長時間やった事はないが、しかし一瞬に感じた彼は、朝食抜きだったのでお腹も空いた。
「そう、だね、そうだよ! 病院のご飯は美味しくないけど!」
彼女は1人の母親だ。だからいつも娘の分と一緒に自分の分まで弁当を作ると言っていた。
しかし今日は違うとのことで、
「弁当じゃないんですか?」
「今日はうちの子が薬学実習があるからって外食で済ませるらしくて私だけ弁当作るの面倒臭くなっちゃちゃんだよねぇ」
「確か娘さんもミラン生でしたね。じゃあ外食行きますか?」
「はい! こんな時はパーっと外食にーーーーーーーーってそんなわけないでしょう!? 患者!! 君今患者だからぁ!!!」
「あははははっ。すいません」
「…もう…君は本当に破天荒な子ですね。ミラン生にしては珍しい」
「ミラン生なんてみんなこんな感じです。それじゃあ昼食行きましょう、ヒュースさん」
「うん。午後からは暇の予定ですしゆっくりしましょう」
そんなことを言いながらトウキ達は食堂へと向かったのだった。
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