第8話 聖魔英王戦
「見てください! もう傷が治ってますよ!」
煌々とした太陽が立ち昇る今日この頃、起きてすぐに驚きを挙げたのはトウキだった。
その両腕をミューレに見せながら彼は嬉しそうにミューレに報告する。
『うむ、完全には治ってはいないが歩くことは何とかできそうだな』
「ですね。お医者さんもーー」
ーーーー
『むむむ……? な、なにいいぃぃ!!?? もう回復してる……っ。ば、バカな……すごい回復力だ…同じ人間とは思えん……っ!』
ーーーー
「ーーって驚いてましたし。お陰で安心しました」
自分でも驚く程の回復速度だ。じわじわとした痛みを感じながらも一日を通して治っているのがわかるのはみてて気持ちがいい。
これもミューレが教えてくれた魔力運用方法のおかげだろう。
師匠曰くこの回復力は長く続かないらしいが、それを知っている自分は得した気分でちょっと嬉しかった。
『ワーレは昨日大丈夫だと言った筈だが? ワーレを信用していないのかお前……あんなやぶ医者よりワーレに聞いた方が確実だぞ』
「そんなことないですよ。というか師匠は医学にも詳しいんですか?」
だがミューレは昨日トウキに大丈夫だと言ったはずが医者に言われたことで安心した彼を少し快く思っていないようだった。
ミューレが医者であればトウキももっとその言の葉に信頼を乗せられていただろう。ただ彼女は医者じゃないので、医院長に信憑生が傾くのは仕方のないことだ。
とは言え、トウキだって別に疑っていたわけじゃなく、何なら信じ切っていると言っても過言ではなかった。
だから必死に撤回するも、ふと気になることが一つできる。
明らかな戦闘タイプに見えるミューレ。その服装に潜ませる銃から戦闘職であること分かるが、彼女は医術にも詳しいのだろうか。
魔力核との戦闘でもその実力の鱗片は見せていた。
当たり前のように軒並み伸ばされた手やスケルトン達を処理し、当たり前のようにその洞察力で解決策を出す。
それがトウキにとっていったいどれほどのスキルの高さなのか想像できない。
では医術も理解しているのだろうか。
ミューレは達観した様子で、
『ある程度は熟知している。戦時は自軍の死傷者が絶えなかったから誰しもが一般教養を抑えていた。特にワーレが率いる
彼女の口から紡がれた話の内容は重いがすごく納得できる話だった。戦時での人の死は日常茶飯事だというのは分かる。
切り傷は勿論打撲、刺し傷、火傷、凍傷などあらゆる怪我を考慮し行動しないといけない。魔法による攻撃だって絶えなかったはずだ。
だからと言って医療班などの専門知識を持っている者がやればいいだろうに、ミューレはそうしなかったらしい。知識があれば自分で治せる。確かにできるなら理想だろう。
にしても、
「戦争…ですか。戦争って人がいっぱい人が亡くなるんですよね。師匠は戦争中活躍したんですか?」
活躍、という言葉にミューレも少し考える仕草を見せた。
どういう意味かわからないわけじゃないだろう。戦争での活躍、ミューレの戦闘タイプ。
つまり活躍とはどれだけ人を殺したかということになる。
それをわかっているのかわかっていないのか。いや、恐らくトウキはそんな事を考えていない。何も考えず聞いているだけだ。
だからこの話はデリケート。
『ワーレにとっては特に何も思わんことだが、被害者からしたら殴られてもおなしくない質問だな。嫌われてしまうぞ小僧』
「手遅れなので大丈夫です」
その言葉には自分は元から嫌われているので、と自虐がふんだんに込められていた。
そんな自信満々のトウキの態度にミューレは躓きながらも、
『…う、うむ。まぁそうだな。活躍はしただろうよ。詳細は省くがワーレのことを知っているものはいくらかいる筈だ。威張ることではないが』
「何でですか? 活躍したなら誇ればいいじゃないですか」
ミューレの話は信憑性があるかと問われればないと答える他ないが、恐らく嘘ではないとトウキは思う。
その戦時での記録は確かな彼女の生きる奇跡だ。頑張った分だけ記録として残せばいい。それが一般に惨劇なものだとしても、決して自軍側からすれば確かな勇気を与えるもののはずだから。
だがミューレの考え方は違うようで、
『結局はただの人殺し。それを自慢するやつは碌な奴がおらん。戦場という後悔と怨念しか生まぬ場所で活躍したところでどうとやらだ。人道も道徳も外れたことはそこら中でされておったしな』
人族側と魔族側のどちらにも偏らない視点で考えていた。
トウキも感心する。
とは言え、
「あぁ、なるほど。でもその活躍で英雄って呼ばれるじゃないですか。人族の英雄は強い魔族を倒したのが理由だし今のミラン十傑はみんなそうです、魔族だって強い人族を殺したたら英雄じゃないんですか?」
特に魔族は血の気が多い存在が多いとされている。弱肉強食のそんな世界では強い者がいれば畏怖されるというより認められる存在になるのでは、と。
『それは場合によるぞ。戦争は例外の上に成り立っている。ただ単に強い奴を倒したからというわけではない。戦争において戦場では人族が全員敵という認識だった。その人族の中でワーレと同じ魔族を多く殺したものは強者と認識される。言ってしまえば魔族からすれば人族の強者とは所謂極悪人だ。同胞を殺されてるわけだしな。しかし、人族からすれば英雄になる。だからそいつらーー極悪人を殺せば英雄視されるのはある意味当然の結果といえるだろう』
「んー。僕には想像つかない話ですね。師匠も死んでしまった戦争って本当波乱だったんだろうし」
ミューレの強さは未だ未知数ではあるが心創世界での戦闘はまだ余裕があるように見えた。終焉魔法という魔法最階位みたいな魔法を当たり前のように使っていたのを見て、驚いたものだ。魔術は使わないのだろうか。多分使うと思うが。
それに魔法を使っていた後疲れの一つも見せてはいなかった。
そんな余裕を見せるミューレが死んでしまうというのは想像し難い現実だ。
『ワーレもまさか誰かに殺されるなど思わなかった。ワーレを殺しおったあやつら、次会ったらぶっ潰してやる……っ!!』
「……納得はしていないんですね…」
『当たり前だ!!! ワーレは裏切られて死んだのだぞ!? かつて同胞がワーレの位置を人類側にバラしおった! そのせいで人族の代表どもが揃いも揃ってーーっ! ぐぬぬっ』
「裏切りに多対一……」
平気な顔をしてはいるが話の闇は思ったよりも深く、トウキもどう答えればいいのかわからない。
自分もよくいじめられてきたがミューレに比べるとかなり可愛いもんなんだろう。
いじめと戦争など天秤にかける対象にもならないが。
それにしても人類代表が集まると言われると少しワクワクする話だ。異例中の異例だと思う。それだけでミューレの強さが引き立つというものだろう。
何たってそうでもしなければ殺せないと言っているようなものなんだから。
『それよりおぬし。いつまでここにいるつもりだ?』
「え? 治るまで…ですけど……」
まだ完治していないと言うのにミューレはトウキにそんなことを聞いた。トウキからすればまだ体が少し痛むし病院側から許可も貰っていないためどこかにいく予定はない。
治れば街へ出るか学園へ行くかしようと思っている。
しかし、
『もう治ったじゃないか』
ミューレは何気ない口調でそんなことを言い放った。
「歩ける程度には? 医者の人に退院許可をもらってないのでまだいますよ。完治するまで貰えないと思いますけど」
もう治ったと言う言葉が少し不穏に感じられながらもトウキは一部同意を示した。
体が痛むと言っても全快したわけではない。大分体が軽くなったったし歩ける。多分ほっとけば明日にでも完治するだろう。
今の状態でも体力を戻すためにリハビリくらいは可能である。
体を動かしていないこの1週間は体が鈍るには十分だから、まずは、
『リハビリか』
「それもする予定です」
鈍った体を鳴らすためにもランニングをしたいと思っている。何となく体は回復しているのに体力が落ちている気がしてならないのだ。
折角魔力が増えたのに体力が無いとなると逆戻りになりそうで嫌だった。
『じゃあ今すぐ行くぞ』
「え? 今ですか!? な、ならお医者さんに許可取りに行ってきます!」
患者であるトウキはリハビリに行くにも許可を取らなければならない。患者が勝手にうろうろすると危険だ。
取り敢えず面倒ではあるがリハビリに行くというのなら許可だけは取らないといけない。
のだが、
『むっ! そんなものはいらん!』
「えぇぇ!?」
ミューレはトウキの襟元を摘むと自分の方に引っ張って、そんなことを言い放った。
というかミューレが自分に触れられるという事実に若干の驚きを覚える。
まあそれは今はいいとして。
トウキとしては流石に医者や患者への許可に関してしっかりしておかねばいけないと思うため絶対必要だ。
そう言うとミューレは納得のいかないようだった。
この病院は英雄学園の生徒であるミラン生であれば無料で利用できる。勿論病院に全くお金が支払われていないわけではない。生徒個人ではなく学校側が支払っているというだけだ。
だからこそ、最低限迷惑をかけないように心がけることは必須だろう。
『お前言われなきゃ何も出来ないのか?』
「……」
ミューレは椅子を背後に傾けながら腕を背後の段差に置く。偉そうにふんぞりかえりながらトウキにプレッシャーをかけだした。
意図は理解できた。その手には乗らない。
『自主性は大事だとワーレは思うがなぁ〜』
「……」
と思ったが早くもぐらついてきた。
彼女を朝日が照らし出しながら神々しく感じさせるその演出がどうしてか説得力のような整合性が働きかける感じがしてならない。しかし常識的に考えて許可を取るのは当たり前だ。
自分勝手に行動するような非常識な行動をとって後から叱られるのは怖い。
『これも強くなるためなんだがなぁ〜〜』
「……強く…」
そう言われると何とも断りにくい申し出だ。
師匠である彼女が命令形で言っている訳じゃないからそこも断りにくい原因。
ただ師匠の申し出を無視していいのだろうか。いやトウキはミューレの弟子だ。
できるだけ彼女の要望には答えたいという気持ちがある。
「師匠の遺言…分かりました。それじゃあ」
『遺言じゃない…。おい、どこに行くんだ!』
「ーー? リハビリに行くんでしょう? じゃあ一階のリハビリスペースに行かないと」
『は? お前、もう歩けるだろ。治ってるじゃないか。ならそんなとこでチンタラしても時間の無駄だ』
「え? じゃあどこにいくんですか?」
『そりゃ』
ミューレはそこまで言いかけて背後の窓を親指で指す。
トウキははやくもミューレの提案に乗ったことを後悔した。
△▼△▼△▼△
勿論着いた先は、
『外だろ』
「ダメですよ病院を抜け出すなんて! せめて病院が管理する運動場へ行きましょう!」
ミューレに言われてトウキは病院の外へと足を踏み入れた。当然敷地外なため逃亡者である。抜け出しだ。
定期診断がある。だから絶対バレる。そして死ぬ。きっと病室にその人ーーヒュースが入ればこっ酷く叱られるに決まってる。
まずい。本当にまずい。
『そういうお前は躊躇いもなく出てきたわけだが?』
そう。そこだ。いくら師匠である彼女の提案とは言え、あくまで提案。トウキだって拒否することができた。
けども実のところ、
「え、あ、いやぁなんかこういうの密かに憧れてて……」
密かにこう言った物語でありそうなやっちゃいけない行為に憧れていたのだ。一度でいいからこういうことをしてみたい、そう思うのは男の性ではないだろうか。
『憧れねぇ。ガキだなぁワーレの弟子。退院前に外出なんて誰でもするだろ』
「どんな常識ですか!?」
そんな常識は存在しない。魔界ではそれが当たり前だったのだろうか。流石に当たり前なら病院が可哀想すぎる。
『フッ、にしてもやはり外はいいな。気分が晴れる』
「それは良かったです。それで、どこに行きますか?」
そこに存在しているのかしていないのかよく分からない彼女でもやっぱり天気が快晴だと心地いい気分にはなるらしい。
『うむ。どこでもっと言いたいがその前に。お前魔力操作が切れてるぞ』
「え? あ、本当だ。気付かなかった」
『呼吸と同じだ。次からは指摘せんからもう途切れさせぬようにしろ』
「はい、分かりました」
いつのまにか体内の魔力操作を疎かにしていた。何でか分からないが恥ずかしい。
これも修行の一環だ。しっかりと取り組まないと。
『ん。それで、行きたいところだったな。正直100年も経てば街並みも洋風が知らぬものばかりで飽きん。どれもこれも新鮮だ。まずは図書館だな。この空白の100年に何があったのか、それを知りたい。この街の人間の顔を見れば魔族が負けたことは分かるんだが、奴等が今どうなっているのかが想像つかんのでな』
こうしてみると不思議に思うことがトウキにはあった。名を挙げた魔族は皆例外なしにその生涯を本という形で記されているのに対し、
何故『ベルガルド・ミューレ』という名を知らなかったのか、それが疑問だ。トウキは英雄という存在に憧れを抱いてい他ことがあったため英雄譚は読み尽くした。
だがミューレの名は知らない。ある程度の実力者であれば英雄譚として語り継がれてもおかしくないというのに。
まあそれは後で聞けばいいだろう。
「じゃあ図書館に行きますか。僕が知ってる図書館は二つあります。一つは規模はあんまり大きくないけど居心地のいい場所。二つ目は規模はものすごく大きいけど居心地がすっごく悪い場所があります。どっちにしますか?」
『二つ目だな』
「……二つ目ですか?」
居心地の悪い方。ミューレにとっては居心地など関係のないことだろう。
だがトウキにとってはあまり気乗りがしないのは事実だ。
場合によっては気分を悪くすることなく目的を達成できることもあるが。
『ああ』
「じ、じゃあ行きましょう。一つ目」
とは言え聞き間違いの可能性もある。そう、多分一つ目だ。二つ目ではない。一つ目である。
『二つ目だ』
「規模は小さい方ですよね」
『大きい方だ』
いや、小さい方のはずだ。何故なら一つ目のはずだから。
「…居心地は」
『悪い方だな』
二つ目で規模が大きくて居心地が悪い方。別に一つ目でも情報は得られる。
だがやはり規模が大きい方が情報が集まりやすいのは事実。
「…んん。分かりました。満を持してないですけど行きましょう。覚悟を決めます」
『図書館に行くのに覚悟か? 一体どんな修羅場が待ち受けているんだ』
「それは行けば分かります。じゃあ、早速行きましょうか」
△▼△▼△▼△
トウキが通う英雄学園。そこは総合トップにその環境が兼ね備えられたマンモス校だ。そこから少し離れた距離に病院があり、更に10分ほど歩けば図書館がある。ただあくまで学内なので、今から行く学校の図書館にはその時間空きコマの人間が何人かいるだろう。
「ねぇあれって」「あぁエリトに奇襲して失敗したっていう」「しょうもない人間だな」「なんでまだここにいるの?」「聞こえてるわよ」
そこら中から聞こえてくるのはどれもトウキの侮蔑だ。当たり前のようなその目も、その声も。まだ入学したてともあって堪えるものがあった。
『小僧、お前すれ違う人全員に見られているな。一体何をしたんだ?』
ミューレはトウキが噂されていることに気づき直接聞いた。
「僕弱いのでなんでまだこの学園にいるのかって噂が広がっているんじゃないですか? 皆が努力して入ったところに僕みたいな何もできない人がいるとちょっと嫌な気分になるんだと思います。それにエリトって人とちょっと揉めちゃって。多分学校中に変な噂でも広げたんじゃないですかね。停学中らしいですけど」
通りすがりの学生に毎回見られるということはすでに学校でなんらかの噂が立っているということだ。実際全部聞こえているし。
もし彼が最底辺と認識されているだけなら興味の対象としては寧ろ虚無。どうでもいい存在のはずだ。その方が良かったのだがエリトの噂で評判が地に落ち、マイナスまで下がっているようだった。
『ほう、虐めか。可愛いもんだな!』
「それ戦時と比べてないですよね? それなら確かに可愛いものかもそれないですけど僕はこういうのでもかなり落ち込むんですよ」
『それはワーレも同様だ。お前が蔑まれるのは見てられん。…んーっと。よーし、あそこにモブがいるだろう?』
ミューレは軽く周りを見渡すと気軽な相手が見つかったと言わんばかりに指を刺した。
確かに眼前にそれっぽい人はいる。出っ歯で顔長で顎割れてて。でもそれをモブというのははたしてどうなのだろうか。確かに物語の主人公みたいな顔かと言われれば。
いや、あまりそういうことを考えちゃいけない。
「モブって。失礼ですよ。あの人がどうかしたんですか?」
特に目を向けるような人ではない。だが、ミューレがわざわざ目を向けたってことはそれ相応の価値があるはずだ。モブなんて呼んで実は隠れた実力者だったり変わった能力を持っていたり。だから見かけと実力は違う。お前も噂では侮蔑を向けられているが実際は違うのだと説いてくれるのだろうか。きっとそうに違いない。
そう思ったのだが、
『ボコせ』
「は、はい?」
『あいつを完膚なきまでにボコボコにするのだ!! それはもう原型がわからなくなるくらいに! こうやってもうぐっちゃぐちゃに!!!』
ミューレはそう言って紙を出鱈目に思いっきり丸め込むように手をガシャガシャ動かし始めた。
「何言ってるんですか!? しませんよそんなこと! 完全に危険人物じゃないですか!」
思ってたのと違った。
ミューレはただトウキに対する噂が気に入らなかったから憂さ晴らしして欲しいだけだった。
『なに、危険人物の一つや二つ良い勲章じゃないか』
「そんなわけないでしょう!? ……え、ないですよね!? 男の勲章としてはそういう危なっかしい勲章はあった方がいいのかな!? いやでも流石に試合でもないのに人に殴りかかるのは…。せめて大きな大会か模擬戦でないと」
『あ? そんなものがあるのか。いつあるんだ?』
ボコすならその時だなんてトウキも思ってはいない。でも戦う時はそのくらいしかない。それか学内でも決闘を申し込まれた時か。
しかしその時はトウキも合意が必要なので考える必要はなかった。
「模擬戦は授業でいつかやると思うんですけど大会は半年後になりますね。聖魔英王戦って言って一年生はほぼ全員参加なんですよ。世界中から一年生が集まる大きな大会です。参加人数は5校から400人ずつの合計2000人で、AブロックからDブロックまで各学校で400人ずつ振り分けられます。そこで25人を選出するんです。集められた一校の合計トップ25人を他トップ4校で同じように集められた25人と合わせて100人にする。後はトーナメントでの戦闘になります。最初は8人ずつのAからLの12ブロックで戦って勝った人が次のブロックに上がることができます。あ、でも1つのブロックが確か7人でしたよ」
『ほう、なるほどな。まだ細かいことも気になるが。だがそれでは5人余るだろう。その5人はどうなるのだ?』
ミューレの理解力はやっぱりいいらしい。今の下手な説明で理解してくれた。
助かる。
あんな適当な説明ですぐ理解できる人などミューレくらいしかいないのではないだろうか。
彼女の言っているのはこうだ。
12ブロックの8人対戦、そしてワンブロックだけ7人。つまりそこまでの合計で95人だ。
残りの5人が余るのである。
「さぁ、どっか適当に入れられるんじゃないですか? 昔はシードで入れられてたらしいですけど。参加校の5校は5大校っていうすごく有名なところなんですよ。でも毎年思う様にいかないらしくて一回戦で数人まで減ることもあるらしいです。あんまり詳しい説明がないのでわかりませんけど」
5カ国の各国に存在する代表校。このある意味新人王決定戦みたいな大会は学園において最も大きな大会と言ってもいいものだった。
勝ては名声、参加しただけでもいいステータスだ。
『なるほど、それはなんともワクワクする大会だな。それほどの大会、おぬしが言っていた十傑も観戦に来るのではないか?』
「あ、そうなんですよ。それに今年はミラン十傑のお子さん達が皆参加するらしいです。凄いですよね。ついでに国王陛下も各地から来るんですよ!」
十傑の話題となると少しだけテンションが上がってしまうトウキ。
ついで扱いの国王陛下という存在にミューレは少し笑ってしまった。
『らははっ! 国王はついでか! ぞんざいに言われる国王陛下とは、滑稽で笑えるなぁ!! そこは弟子として正しい価値観だ。そこだけ、だが』
ミューレの目はトウキを揶揄うような、情けないトウキに悲しむようなそんな目だった。
「…だけって…なんか棘ありせん?」
『気にするな。それにしても…
背景が移り変わる中彼女はその顔立ちを醜悪なものにする。彼女はその瞳で未来を見ていた。眼前の弟子をどうやって強くするかではない。もっとはるか先の未来を見ているのだ。
「世界を? なんでですか?」
『はぁ? おぬし誰が誰に言っている』
「ーー? 僕何か変な質問しました?」
トウキがそう思うのも当然のことだった。世界を揺るがすというのはどういうことだろうか。
世界的に有名になれというのなら難しい話だと思う。今のトウキは単純推測でミラン生の一学年400人の中の精々が350位程の能力値だ。
改善された魔力量というのもまだ完全に馴染んでいないし魔力量自体ミラン生の中で上の下くらいだ。魔力量が少ないという問題の改善はできている。しかしミラン生達との戦闘で勝ち抜けるかと言われればーー。
『変も何もお前はワーレの弟子。ベルガルド・ミューレの弟子だぞ? ならそれ相応の成績は残すべきだろう』
正直最初のバトルロワイヤルの時点で勝てるかどうか。
偶々運良く生き残ったとしてそのあとは?
8人ずつの強者のみのバトルロワイヤルで勝てるのか?
そんな疑問がふとトウキの頭をよぎってしまう。
「と言いますと?」
『その大会で優勝するんだ!』
無理である。
「ーー!!! む、無理ですよ!! 無理無理無理無理僕じゃ絶対むrうっ」
ミューレの破天荒ぶりというか狂気を改めて感じるその発言をトウキは全力で否定した。いや、弱音を吐いた。
すると腹に腹パンをぶち込まれるような痛みがトウキを襲う。
『はーいアウトー。契約違反だな。弱音を吐かないと契約したはずだぞー』
「は、は、い……? うっ…ぐっ」
お腹の痛みがピークに達したトウキは思わず右手でお腹を抑えた。ズキズキとした痛みはそのまま涙へと変わる。
ーーーー
『最初からそう言えばいいものを、手間をかけさせおって。だが条件付きだ。魔契約に従いこれを
ーーーー
魔契約のことに関しては言われた。確かに言われた。
ミューレとの契約だ。思い出してしまったその記憶の内容は【弱音を吐かない、師匠と呼ぶというこの二つが特に絶対遵守】最後はいうことを絶対に聞くみたいなやつだ。確かそんな盟約だった。
最後のは不穏すぎて無視したいが。
「で、でも違えば痛みを伴うなんて聞いてない!」
盟約の内容は確かに言っていた。でなければ契約というのは成り立たないから。しかしながら代償の説明はしていない。
トウキも何も考えず受け入れてしまったので非はあった。それは受け入れる。
けれど代償の話を聞いてたらもっと考えてたはずだ。
『言ってないからな。だが痛みを与えるかどうかはワーレが気に入らないかどうかで決まるようにしている』
「き、気に入らなかったんだ……」
『当たり前だ情けない! それにこれはストックできるからな。以後気をつけることだ。それより、ここではないのか図書館』
「ーー。あ、はい。そうですね。さっさと入りましょう。すごく変な目で見られているので」
突然苦しみ出したトウキを奇異の目で見るのはある意味当然の行為だ。
そうして気まずい空気となったその場にいるのは気まずくてトウキはすぐに図書館に入ることにした。
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