第6話 不可解な魔力核②
ミューレが使った爆発魔法は彼女のオリジナルだ。と言っても詠唱無しでの魔法なので威力は激減している。
ともあれ、ミューレの魔力が喰われたということはこのまま結界に防がれる攻撃は全て吸収されるということだろう。
それに、
『うむ、だったら魔術を使うか、他の方法もあるが……あまりゆっくりもしてられんかもな』
今は魔力の塊ではあるが…暴れられるとトウキがが危険だ。
ミューレはそう思いながら少年を見る。
『あっちが魔力を枯らすまで待つじゃダメなんですか!?』
トウキはミューレに視線を返した。
眼前の少年の体だまだ頼りない。
考えも甘い。
だがそれが少し微笑ましくもある。
『阿呆! あれはお前の魔力核だぞ! あれが魔力を枯らせばお前も無事じゃ済まん。生物が本来7割しか本気を出せないように魔力もまたそうだ。それ以上はリスクがあるからリミッターがかけられている。だがあの魔力核にリミッターがかけられているとは限らない』
『じゃあどうするんですか!? もう打つ手なしじゃないですか!』
魔力核に存在する魔力がどれほどなのかがわからない。
今どうすればいいのか。
その道標がない限り打つ手も無駄になる可能性がある。
『いや、案外そうでもない。せっかくだ。どうすればいいか答えてみろ』
ヒントはあった。ミューレは解決方法をすでに導き出している。
『え、えぇ!? えーと、そんなこと急に言われても…ちょっと待ってください……んー』
トウキは精一杯頭を回す。
ミューレはどんな答えを望んでいる?
彼女を狙った攻撃。
なぜ彼女を狙った。
いや狙ったのは僕か。
何で狙った。
危険だからか?
危険なのか。僕が?
そんなわけない。だって魔力が。
『違う。魔力量の問題じゃない。魔力自体か。あれは敵。でも敵じゃないのか。あれは僕の魔力だ。僕の魔力核だと師匠は言った。なら何で危険になる。危険なのか。弱いから僕を狙った? いやその必要はない。危険度からすれば師匠を狙った方がいい。だったら僕が危険なんだ』
『ーーーー』
トウキが呟くそれはミューレにも何とか聞こえている。
じゃあ何故。
僕は何をした?
僕はあいつに近づいた。
あいつに触れようとした。
『そうか。僕が触れた時拒絶したんだ。触れられたくないんだ。魔力が同じだから。つまりこっち触れればいい。触れることができればこの状況を脱することができる』
それを聞いてミューレが嬉しそうに笑った。まるで当たってほしい予想が当たったような表情だ。
『やっぱりな。お前はいい観察眼を持っている』
『で、でもだからってどうするんですか?』
やることがわかれば残りは行動に移さなければならない。
だが不可能だ。
魔力核に近づき触れるなど。
幾千もの腕を避け結界を破りやっと触れられるという鬼畜。
そして一番はこれを本来ならトウキ1人で行わなければならなかったという事実。
ここにもし、トウキ1人でいたならばーー。
ミューレはそこまで考えてやめた。それは今考えることじゃない。
『簡単だ。あの結界の強度と能力は理解した。あれは攻撃魔法を防ぐだけの結界にアイツ自体の能力によって敵の魔力を吸収するという寸法。現にワーレの攻撃で一瞬ではあるが奴は無防備を晒した。つまりは』
『し、師匠! あれを見てください!』
ミューレは迫り来る手を避けながら説明を続けていく。
しかし、不幸なことに。
魔力核はその形を変える。球体から楕円、正多角形、四角、どんどんと変化していく。
そしてその形が最終的に、
『心臓みたいですね』
『心臓か。触られたらダメだって気づかれたのかもな。あれもお前なわけだし』
ミューレがそういうとすぐに魔力核は次の段階と思われる形へと変化していった。
攻撃モーションもまた変化する。
先ほどは魔力核から無数の手が出てきて捕まえようとするというものだったが今回は地面にゆっくりと腕が生えてきている。数として数百、いや数千。それ以上だ。
『目まぐるしいほどの手の数。何する気だ?』
ミューレはトウキを抱えたまま空中に止(とど)まっている。
着地をしてはいけないというのならそれでも問題はないがーー。
その腕はゆらゆらと風に吹かれる草木の動きをしたかと思うと次の瞬間、皆合掌を始める。
『お祈り? こんなに不吉なお祈りは初めてです』
『祈祷とはまた別だな。あれは魔力を込めている。つまりは印の一種だ。ーー!! 後ろか!』
『ま…も…る……』
ミューレがいち早く気づいたのは背後に現れた異形の化け物だ。骸骨に服を着せただけの容姿で唯一の特徴としては数珠を持っているところである。
よくいるスケルトン、だろうか。
すぐにミューレは手を横へと薙ぎ払う。マナを散らしたミューレ付近の空間はもはや彼女の絶対領域だ。
マナを周囲に放つことでそれに触れれば感知ができ更には散らしたマナを操作し魔力にすることで遠隔で魔法として攻撃することもできる。
彼女の手がその骸骨の眼前を通り過ぎるとそこに破壊の性質の纏った魔力が骸骨に触れ粉々に砕け散った。
『気づかなかった』
トウキは敵に気づくことさえできなかった。背後から出現したということ自体理解できず殺されるところだった。
それに、
更なる問題として現れるのは数々の哀愁漂うスケルトンたちだった。ゾンビのように下から手を伸ばしリポップしていく。更にはミューレの周り四面からも先ほどの数珠を持った骸骨や鎌や鉈、杖を持ったスケルトンも現れる。
本来なら一体一体が弱いはずのスケルトン。だが先程の強さをみたところ一体だけでもトウキにとってはかなり厳しい。
そしてこの数。
このままではジリ貧だ。
地面に生える手はもう一度合掌を始める。すると、
『ーー? 体が重くなった』
『ーー!! それって…』
トウキはミューレに抱えられて何が起きているのかわからないが、それを抱えているミューレは浮いているとはいえ体が重くなったのが分かる。怠くなったわけではなく物理的に重くなったのだ。
『無数のスケルトンと重力魔法か。それも魔術ではなく魔法。異質この上ない上面倒だな。眼前の不可解に構ってやれるほどワーレは
結界で守ったが外から感じる重力のズレ。それを感じながらもミューレは右手を前に出す。
これ以上の私情での戦闘延長はトウキに悪影響を及ぼすだろう。
魔力はまだあるようだが、
『あまり無茶はできん。多少の過剰は許せ。”殺傷の詠唱にこれをささげる。万物の創生に異を唱えよ。ワーレが握る神の御技”オリジナル魔法、
彼女がそう唱えると視界全てが光と共に消え去る。爆発魔法の最上位オリジナル魔法だ。
前後左右全てが爆発の光に見舞われそして地面にあった手も伸びてきた手も平等に振り払われた。
この惨劇の中、骨も残らないとはまさにこのこと。視界に入る全ての物体、生物を灰も残さず消し去る。
爆炎に見舞われたその全ては悲鳴を上げる間もなく焼かれ砕け消し飛んだ。
『……な、なな何してんるんですか!? 明らかにオーバーキルですよ! これじゃ魔力核まで粉々になっちゃう! 僕の魔力がなくなるじゃないですか!!』
『安心しろ。心臓部には薄い結界を張っておいた。割れているだろうが問題はない』
煙幕が消えかけた頃ミューレはトウキを抱えたまま大地に降り立った。
そこはすでに骨も灰も、塵も残らない場所になっていて、弱々しく腕が魔力核からビクビクしているだけだ。
『師匠! この魔力核もう触れても大丈夫ですかね』
『問題ない。あとは触れれば終わりだ』
『はい!!』
他の気配は見られない。そして魔力核自体も魔力の損傷が激しい。
そのせいで決壊は出せず腕ももう出せないだろう。
トウキがその心臓もどきの核に触れようとすると、
『おい』
『へぁ!?』
『全く油断の隙もない』
どうやらまだ戦いは終わっていなかったようだ。それを指し示すようにトウキの頭上からは頭蓋が勢いよく落下し眼前を通過。
地面へと衝突して粉々に砕け散った。
まさしく隙を狙った最後の足掻きだ。しかも、
『え? な、ず、頭蓋骨!?』
『それも重力魔法がかけられている。お前を殺すには十分だな』
重力魔法までかけられている。もしミューレがトウキを抱き寄せなければーー。
『ふふ…よーし、もう一回触れてみればいいんじゃないか? どうなるかは…ふっ、知らんが…』
『し、師匠? 何ですかその不敵な笑みは。 も、もしかしてまだ何か仕掛けがーーー!?』
トウキは恐る恐る左右をなん度も確認する。敵は見えない。
いない。
感知できないだけ?
いや、
『うちの弟子はビビリだなぁ!!』
いる。絶対にいる。
ミューレの醜悪な笑みは何かを企んでいるとしか思えなかった。
今度は何がくるのだろうか。
手か。
それともまたスケルトンの攻撃がーー。
『早う行け』
『え、で、でも、何か来るんじゃ…ないですか…?』
『来ん』
察知できない攻撃はいくらでもあるとこの戦いで分かった。
そしてミューレという存在がどれだけ異常なのかも。
ミューレに関しては底がしれないということしかわからなかったが。しかし逆にトウキ自身が自分の弱さを一番痛感していた。
攻撃が見えず、反応できず、おんぶに抱っこの状態だ。
それに、
『い、いやきそうな気がして』
『こんと言っているだろう』
それが自信の喪失にもなっていた。
何が起こっているのかわからずミューレの説明も詳しく聞かない限り理解できないだろう。
『ほ、本当ですか?』
『何度も言わせるな』
意味深なことを言ったのはミューレだ。だから悪いのはどちらかというとミューレであることは確かだろう。
この現状、警戒するのもわかる。ここでトウキは自分が死ねばどうなるのか。それを考えてしまったのかもしれない。
『いやでも』
『しつこいぞ。じゃあこっちへ来い』
ビビり散らかすトウキを見てミューレも少しやり過ぎたかしれないなと思う。
実際もう何も起きないので大丈夫だ。トウキが心配することは何もない。
『……何をする気なんですか?』
あとはノリで何とかトウキを魔力格に触れさせればいいだけ。
ミューレは目の前に人差し指を刺して、
『今からワーレの言うことを復唱しろ。いいな』
そう言ってトウキの肩に腕を回した。
『復唱ですか? わかりました』
何故復唱? っと思わなくもないが別段何か支障が出るわけでもなく、寧ろ復唱することで
心が落ち着く魔法の言葉でも教えてくれるのかもしれない。
そう思ってトウキもすぐに受け入れる。
するとーー、
『師匠の言うことは絶対』
『え?』
『早く言え、殴るぞ』
『す、すいません! 師匠の言うことは絶対!!』
トウキは胸を張り全力で叫んだ。
情けない声だがミューレは続ける。
『師匠は嘘をつかない』
『師匠は嘘をつかない!!!』
『師匠は何をしても許される』
『し、師匠は何をしても許される!!』
『私を投げ飛ばしてください』
『私を投げ飛ばしてください!!』
『準備はいいか!!!』
『はい!!! ……え?』
その瞬間、ミューレはトウキ胸ぐらを掴む。更に一歩踏み込むとそのまま思いっきりーー。
『行ってこーーーーーい!!!!!!!!』
『えええええぇぇぇぇえええええええええええ!!!!!!!!!』
彼女はトウキをぶん投げた。50キロ以上は確実にある筈の彼は6、7メートル先の魔力核にまるでペットボトルロケットのように飛ばされる。
『こ、この人でなしいいぃぃぃ!!!!!』
『フッ、ワーレは人ではないぞ』
心臓部に触れる彼に何が起こるのかは未知数だ。これで彼の魔力に良い変化が見られればよし。悪い変化なら、どうにかする。
『全く、タチの悪いやつだな。魔力を封印するなど。だがワーレの前では無意味だ。例え、敵が勇者だろうが剣聖だろうが、ワーレの進路を妨げるものは皆叩き潰してやる』
ミューレはトウキを投げ出した後ポッケに手を入れると先ほどと打って変わって神妙な顔つきへ変えた。
だが彼女のその声は彼に届かない。
ミューレもまたトウキと共に怪奇の光に包まれたのだから。
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