第3話 始まり
「んっ……」
あれからどれほど経ったのだろうか。果てしなく暗い場所で意識を彷徨わせていた様な気がする。
未だ意識が朦朧とし、そのままもう一度意識を手放そうかと眉を施錠した。
しかし、くすぐったい何かが頬をかする感覚にどこか違和感を感じ、やはり起きなきゃと逃げる意識を精一杯に捕まえてトウキは現実を捉え入れる。
気づけばそこは綺麗な青空に、しかし仰向けだったから草木が目の端に捉えられていた。
「起きたか……」
直後、その視界に紫紺の髪に紫紺の瞳を持つ白肌の女性が顔を覗く。
「ーー!! ひあ!? え!? えっと、すいません! あ、あなたは…誰、ですか?」
意識が明瞭としないその世界で重い体をあげて座り込むと、トウキは頭にズキっとした痛みが走るのを感じ額へ手を向ける。
眠気とは違う体のだるさを感じたトウキは、起きてすぐ耳へ届いた声の主を無視するわけにはいかないと頑張って質問をした。
「ーー!! ……誰…? 誰…か。うむ。そうか……では教えてやろう。ワーレはベルガルド・ミューレ。ミューレと呼ぶといい! 小僧」
彼女は一瞬驚いたような顔をしながらも名前を言った。名はミューレというらしい。その煌々と輝く紫紺の瞳でトウキを反射させながら
凛々しいロングコートを着こなしている。
怖いことに、その腰に備える銃は彼女が戦闘職である特徴の一つだろう。
「あ、は、はい! ミューレさん。…ところでミューレさんが僕を助けてくれたんですか? ありがとうございます」
トウキは頭を下げながら感謝を述べる。今自分が生きている事。それ自体が奇跡だった。
あれだけ大きな事故の中、トウキは体を見回るがそこには全く無傷の自分がいて傷跡の一つも残ってはいない。
その事実がおかしな点ばかりだが、眼前のミューレと名乗る彼女以外に助けられたと認識できるものがいなかったため恐らくミューレにより助けられたのだろうと認識する。
しかし帰ってきたのは予想もしていなかった言葉だった。
首を垂れたトウキにミューレは「いや」っと否定から入ると、
「ワーレじゃない。自分の体をもっとみろ。そして周りも見ろ」
ミューレではない。その言葉に疑問を持つが、じゃあ誰がーー。
そう思うと同時にトウキは「周り?」っと反応すると自身の周辺を見渡す。
あるのは美しい黄金色の草むらがどこまでも続く平原で、どう考えても彼がいた場所では無い。草むらといっても、サネカズラやハーデンベルギア、彼岸花など美しい花も飾られている。そのどれもが金色なのは少し気味悪さを感じるが。
そのことに気づいたトウキは座ったまま一瞬びくともせず固まってしまう。
そして、
「え、えぇえええええ!!?? あ、あれ? 学校じゃない!? 黄金の草むら!? いやお花畑!?」
学校も運動場も、ましてや建物一つ存在しないその平原は、驚きと虚無感を感じさせる景観であった。それを見たトウキは喉が震え上がるほど天高く叫び、しかしミューレはふっ、と鼻で嘲笑した。
「驚いたか…まぁ無理もない。ここは幽界ーーいわば死者の豚箱だな」
「死者…てことは、僕は…死ん、だ……?」
「そうだな」
ミューレは座り込んだトウキを上から見下ろしながら頷いた。
トウキも唐突の事実に自分に手が震えていることに気がつく。
さっきも思ったが生きていれば奇跡だった。
魔力で耐えられる様な事故でではなかったし、元々はエリトに殺されるくらいならという自爆自棄じばくじきの博打技ばくちわざだった。
むしろ生きている方がおかしいと考えるべきであり生きていたいと考えるのは強欲だとも言えることだった。
だからトウキも「そう…ですか」っと少し息が漏れるだけで、どこか他人事な感想しか出てこない。
ーーのだが、
「普通はそのはずだ」
「え、ふ、普通?」
ところが彼女は右手を腰に当てながら頭を傾げる。トウキも思わずその発言を繰り返してしまった。
彼女の頭を悩ませるその姿からはトウキにとって少しの希望を見せる仕草だ。
普通は死んだと考えるべきだがそうでは無いかもしれない。それなら一滴の希望の一つでも持てるかもしれない。
「普通は死ねばお前の場合ワーレのいる幽界なんて来るわけがない。可能性もなくはないが、お前は別に魔族に寝返った間者でも大量殺人鬼でも快楽殺人鬼でもないただの虫だろう? ならば ワーレがいるこの幽界に来ることはあり得ない事だ」
「な、何ですかその物騒ぶっそうな単語は!? まさかここはそんな危険な人が集まる収容所!!??」
ミューレの言い方を端的にいえば、ここはよっぽどの悪人が来る死後の世界。つまるところ地獄みたいなもの。
そんな場所に連れて来られるというのは彼にとって全く理解不能な事態だ。
今まで悪人だと定義できる行為はした覚えがなく、それに彼が来世で悪人として生きねばならないと定められるほど裕福で幸せな人生を送ったとは思えなかった。
8歳以前の記憶はなくとも、それからは孤児院育ちのただの貧乏人として生き、当然盗みもしていない。
トウキの孤児院にはある程度のお金はもらえていた様だったから悪事を働く必要はなかったからだ。
ミューレは慌てるトウキにじっと目を合わせながら悩ます仕草をやめると、
「いや? そもそも今まで此処に来た生き物は私だけだ」
「…」
トウキはその発言に思わずずっこけそうになる。
先程の豚箱やら何やらは単なるこけおどしかと。では何故トウキを脅す様な真似をしたのだろうか。
それは、
「察っせ。もしそれが本当ならどうする?」
それはもしそんな場所でミューレが極悪人であればという話だ。
もしこの場所がそんな監獄の様な役割を果たす場だとすれば今トウキの眼前に立つ女性は危険人物として捉えられるべき人物ということになる。
眼前にいるだけでも危険な存在。訳なく傷つけることはないと思いたいけどーー。
しかし、
「どうすると言われましても……ミューレさんは多分いい人ですよね」
「…私が…?」
「はい」
少し荒れた髪型を右手で撫でながらトウキはミューレの顔を下から見上げる。
彼女は少し困惑していて同時に驚いている様だった。
普通そうなるに決まっている。よっぽどのお人好しであっても出会ってすぐの人を信用しようとは思わない。
ミューレも、
「普通ワーレに近づくと万物全て戦慄わななき話せなくなるはずなんだが。なんでお前はそんなに普通でいられる」
当然の如く悠然と座り込むトウキに釈然としない様子のミューレ。
「それはなんでか分からないです。感覚的にっていうか…まず、自分が悪い人間かも、なんていう人が本当に悪い人なのかって言われるとそんな感じはしないですし。あ、でも強いて言えば僕は何となく生き物を見ると魔力の色でその人がどんな悪い人かどうかはわかるんです。なのでそのせいかもしれません」
「…へぇ」
「興味なさそう……」
ミューレの問いかけに真摯しんしに答えたつもりのトウキだが彼の言葉の意味をミューレは目を合わせずに返事をすることで答えた。
だが同時に納得できたこともある様で不可解が解けたと顔の皺を緩める。
「それよりお前はこれからどうする?」
「これからですか?」
ミューレの問いにトウキは顔を傾けた。これからも何も多分死んだのだろうことがわかった今、今更何をしようというのか。
「お前は死んだ。いや、お前の様子からして死んだのかよく分からんが、ここにきたからには何か理由があるのだろう?」
「来た理由…」
死因は学園の生徒同士の戦闘だがそれをいうのは彼とて恥ずかしい。
しかも入学してすぐのことだ。
エリトの異常性は兎も角思いの外ミラン生は理解できない人が多いということだろう。
「ここではお腹は空かないし寿命もない。だからできることと言えばワーレとの会話くらいだ」
彼女は朧おぼろげな目でそう言った。
トウキはそれを見て一つの疑問が生まれる。それは彼女の年齢。
違う言い方をすればここへどのくらいいたのかということ。
場所は綺麗なところだが娯楽もなければ話す人もいないここで、果たして正気を保ったまま何年も過ごすことが可能なのだろうか。
トウキはミューレがどれほどここにいたのかについて真面目な様子で聞いた。
「ミューレさんは」
「ミューレでいい」
「あ、はい。ミューレはどのくらいここにいるんですか?」
もし自分だったら1年も耐えられる自信がない。パニックを起こして眩暈も、冷や汗も不安も測り切れない。トウキの人生は1人でいることももちろんあったがそれでも人生に誰の干渉もなくというのはありえなかった。結局誰かに支えられて生きるしかなかったのだ。
ミューレは「ん? あぁ」っと一瞬考える仕草を見せると、
「まぁ100年くらいだな」
「100年!? ここに100年…!?」
てっきり1週間や1ヶ月という期間を想像していたトウキは驚愕する。死した魂というのはいつの日にか別の魂へと変換されるなどという眉唾を聞いたことがあった。だからそれまでの期間は1週間くらいなのかなんてよくわからないことを想像していたのだ。
100年前なんて、
「ああ。戦死でな、つまらんものよ」
「確かに100年前というと戦時ですね」
100年前からいたということはミューレが生きている時代は戦争真っ只中ということになる。黒の軍服を着ているのはその時の服装ということなのだろうか。いや、それは兎も角100年もここにいて正気を保てること自体異常なことだ。
「よく耐えれましたね」
「これでも戦時は魔族一の魔公子だったからな」
「魔族?」
トウキは魔公子という単語に聞き覚えがなく頭を傾げた。
魔族ーー。人類が不可侵協定を結ぶことによって集結した魔族と人類の聖魔戦争。
未だ魔族に嫌悪感を抱く人間が後を立たない今、魔族という単語はあまり縁起えんぎのいい単語ではない。
それは祖父母の代から念入りに魔族は危険だと言い伝えられていることが原因の一つだろう。
しかしながら魔族と人類は戦争をしないことを約束しそしてある国では魔族と人類が共存している国も存在する。
だから人によって反応は異なるものだ。
トウキは、
「魔族って子供に「早く寝ないと魔族に食べられちゃう」みたいに言い聞かせられるあの魔族ですか?」
「ーー? そんなこと言われてるのか?」
トウキは魔族について特に人間と変わらない存在だと認識している側であった。
言うなれば昔話の悪役扱いされてるキャラクターの様な感覚で偏見は持っていない。
そういう存在もある。っと、戦争したからと言ってその先も敵対視するという考えがあるかないか。多分そういうところだ。
「人によりますけど。僕は魔族って聞いても何とも思わないけど魔族を完全否定する人もいます。そこはなんとも言えないですね。と言っても、僕が通ってる学校が魔族を打った英雄を見て育った人が多いから、意外と僕の周りには魔族にいいイメージを持っている人はいないと思います」
「そうか。ワーレがいた時代とは随分違うんだな」
「戦後100年は経ってるから戦時よりかはイメージは腐敗してると思います」
「ほう、興味深い」
トウキの戦後100年という言葉にミューレは目を見開いて顔を驚かせていた。
戦争中のことはトウキにとってはあまり実感のないものだからどれほどの変化があるのかはわからない。
しかし確実に良くなっているというのは中学で学習済みだ。
それよりも、
「ミューレって魔族っぽくないですね。魔族ってもっと巨体で怖面なのかと……」
「魔族にも色々ある。ワーレの様な人間に似た容姿のもいるがお前の想像する大柄な者もいる」
「なるほど」
魔族もこうして話してみると案外普通だ。
ミューレはどこか威厳があってトウキがここにいるのは少し違和感を感じるがそれでも彼方は温厚で話したそうにしている。
こうしてみるとやっぱり人間と何も変わらないのではと思ってしまう。
「? どうした?」
そのまま少しの静寂がその空間を包み込んで、トウキはその風に意識を持っていかれたりその視界に意識を持っていかれたりと何となしに現実に戻される感覚に襲われる。
「ーー!! えっ……あ、あれ? なんか…え?」
その時、何故かトウキの瞳からは涙が流れていた。今まで一度も泣いたことはなかったが、此処に来てどうしてか涙が止まらない。恐らく、死んだから普段話せない魔族と話せているという事実。それが今になって現実味を帯びているのかもしれない。
「ーーーー」
ミューレは神妙な趣で彼の感情を読み取り目を瞑る。死して尚、悔やまれることがあると言うのはよくある話だ。笑顔で死ねなかった仲間達、ミューレも彼等の気持ちがよく分かる。そして、この少年もまた同じなのだろう。
後悔のない人生。それが、送りたくても送れない。
「それは100年後も変わらないと言うことか」
戦争が終わったらしかった少年の時代も、人生を悔やむ者はどうしてもいる。それがどんな状況なのかは勿論ミューレも知らない。ただ、
「僕は……」
少年が一番悔やんでいるのは命までかけたあの一戦。エリトとの非正規の戦闘だ。
持ち前の分析と工夫で何とか足掻くことはできていたと思う。最後だけでも本気は出させた。でもその結果死んだ。勝利という2文字とはある意味対極の死と言う結果で。
「何も…できなかった……っ!」
死んで今更だが強くありたかったと、切実に思う。才能という壁にぶつかっても。前だけを向きたかった。後悔がない様に。十傑に上り詰めて才能をひっくり返したかった。そうして努力だけでも、才能がなくても自分はやれるのだとーーー証明したかった。
その顔は、少年が時初めて見せた涙であり、悔しいという感情の表れだ。
ミューレも生前嫌と言うほど見せられた顔だ。
「……戦死か。ワーレと同じだな」
ミューレもそれを冷ややかな目で見る。
「僕に…才能がなかったから」
「お前に?」
ミューレは首を傾げた。才能の有無。それは人生において特大のアドバンテージだ。
才と努力。その両方を持ち得るものこそ最強に近づける。努力だけではだめだ。
しかし、
「僕の魔力はあまりにも少ない」
「ーーーー」
尚更ミューレの顔の皺が増える。
「僕は…魔力が極端に少ないんです。そのせいで同じ土俵にも立てない……」
「ーーーー」
そう呟くとミューレは、その拳を強く握る。そして塞ぎ込むトウキの頭に思いっきり叩きつけた。
「い、いってあああぁぁぁあああい!! 何するんですか!?」
「いや、何となく」
「な、何となく!? ひどい!」
「お前は別に魔力が少ないわけではない。寧ろ多いはずだ。ワーレにマウントでも取りたいのか? 殴るぞ小僧!」
「ーー!!」
その時、ミューレはトウキに莫大な魔力を見せる。まるでお前には負けんぞと言う意思の表明だ。
更にはその魔力に殺気を込めトウキにぶつけた。
その殺気から伝わるミューレの魔力色。トウキ視点ではあるが、赤黒い血の様な残酷さを感じさせる魔力だ。その魔力に触れた瞬間トウキの全身が警鐘を鳴らす。全身の身の毛が弥立つような異質な何か。
それが彼の心臓をがっしり掴んだ感じがあって一歩でも動けば握りつぶされて口から血を吐くような未来が想起された。
未だかつてこれ程の魔力に触れることがあっただろうか。
ーーあるわけがない。
呼吸器が切迫して喉元に刃を突きつけられている様だ。
「お前が勝てない理由がよく分かった。お前は才能なんてものにただ嫉妬して何も見えていないということも。勝てる勝負に逃げてきたな。負ける勝負に挑まなかったな? それがお前の弱さか」
その瞳がさっきよりもっと冷たくなる。
「に、逃げたわけじゃ…僕だって最後は」
戦死した。戦って死んだ。一矢報いて死んだんだ。フヨのいう通り足掻いて死んだ。その事実があるだけで誇れる。誇っていいんだと思えるものじゃないのか。
「最後? 最後に戦死すれば満足か? それで今の自分がいるのにか。じゃあその後悔は何だ?」
「ーーーー」
やるだけやって、今までの人生が完全に無駄じゃなかったのだと証明できたはずだ。
命を狙われるという強制力に流されて戦うことがーーー。
「小僧。お前どうしてその顔でいられるんだ?どうしてお前はそれを口に出した? 才能に振り回されて自分には努力しかないと決めつけこの有様か。無様だぞお前」
「……」
ミューレの言動は全てまともだ。トウキの心を大きく抉るには十分すぎる。今の自分がみっともないことは明白。そして後悔しても遅いことも明白だ。
勝ちたいと言う感情がトウキの中で腐敗していた。
死にたくないと言う感情で戦った。
それは努力、才能以前に無様な醜態そのものだ。もし死が迫る戦いでなければどうせは向かうことなんてしなかった。
ーーしかし、
「僕だって無様なことはわかってる。みっともなくてダサくて弱くて見苦しくて……。でも遅い…。どうせ死んで負けてここにいるんですから…」
それは全て過去のことだ。全部今更だ。もう未来がない。挽回する余地がない。
「このっ…ウジウジと…ッ! 前を向けよ! 面倒ごとは嫌いだ!! ワーレの前で泣くな! 弱みを見せるな! 少なくともワーレの前では強がって見せろ!」
「そ、そんなこと言ってもう遅いじゃないですか! 僕はもう死んじゃったんですから!!」
「知るか! 死んで泣き喚くガキなんて見せられたこっちの身にもなれ! 後悔してるなら今からでも強くなればいいだろ!」
「そう簡単に強くなれるならもうやってますよ! 生きてる間だって精一杯やったんだ! 運動だって頑張ったし勉強だって頑張った!! それでもダメだった!」
「それは鍛え方が間違ってるだけだ。体の構造を理解し、その体に合った鍛え方をしなければ成長は見込まれん」
「鍛え方一つで僕の体は変わらない!! 僕が証拠!」
「威張るとこじゃないわ阿呆が! じゃあワーレがお前を鍛えてやる!!」
「結構です!! どうせ後から僕のこと捨てるんですから!」
「捨てんわ!! 自分の弱さを自慢するな! いいか!? ワーレにかかればお前なんぞ余裕で強くできる。それこそ世界最強にしてやれるぞ!」
「ん…っ!! そう言うことなら勝負しましょう!! 僕とミューレが戦って勝った方が相手の言うことを聞く! どうですか!?」
「フッ愚か! 流石、雑魚は後先を考えんなぁ!」
かつてこれ程煮え繰り返る感情を持ったことがあっただろうか。
「いや、ない!! 死した今、僕に失うものはない!! うおおおおおぉぉおおお!!!!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「すいませんでした!!!」
「ふっ雑魚め」
トウキは数分後後悔していた。絶対的な力の差に顔が腫れ、骨が軋み、服が破れーー。体も心もボロボロにされた彼は精一杯土下座をする。その尊厳はどこへやら。
かつてこれ程の醜態を晒したことはあっただろうか。
「いや、ない!! 弟子にして下さい!!!」
「最初からそう言えばいいものを、手間をかけさせおって。だが条件付きだ。魔契約に従いこれを遵守じゅんしゅしろ。まず1つ、弱みを吐くな。2つ、ワーレのことは師匠と呼べ。以上、3つ目、ワーレが生きろと言えばいき、死ねと言えば死ね。分かったか?」
ミューレは指で指しながらトウキに説明した。魔族や誰かとの魔契約。これはただの約束事ではない。その条件が重ければ重いほど破った時の代償は大きい。それが契約だ。今回でいえばありえないほど軽い条件なため結ぶ必要があるのか疑うほどだ。
しかし、
「はい、勿論です師匠! 弱みは吐かない! 強がります! それじゃあこれから…よろしくお願いします!」
「うむ、悪くない! それでは結ぶぞ。ワーレの手を握れ」
「はい!! 拝借させていただきます!」
「やめろその言い方。なんかキモい」
ミューレの顔に皺が作られるとトウキは「ふふっ」と嬉しそうに笑みを作った。
顔つきを見たらなぜか安心する。先ほどのさっきと一悶着は何とか収拾がついた様だ。これからどうにかして強くなろう。そう思い彼はミューレの手を握った。
のだが、
その手を取った瞬間眩い光が腕からその空間を侵略していく。魔契約をした手前恐らく、
「ーー? 契約の光…かな」
よくある絶対遵守の契約にはこういう光はあると聞く。
仕組みは一切わからないけれど。
しかし、
「ーー!! 違う…契約にこんな光は存在しない! これはーーー」
「えっ?」
彼女の驚きに思わずトウキは彼女の方へと頭を向けたが、時はすでに遅かった。
ーー何故なら、その光は既に2人の世界を包み込んでしまったから。
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