空と恋人

ASA

第1話


 二〇XX年、ついに地上は人類が生存活動を続けていくことが難しい暑さとなった。猛暑どころではない。沸騰状態、てやつだ。俺たち人類は地底への移住を余儀なくされたのだった。


 昼にはホログラムの太陽が俺たちを照らし、決まった時間になると夜に切り替わる。俺が生まれた頃にはほぼすべての人たちが地底に移住完了していた。つまり、俺は地上の世界を知らない。知らないがゆえに、特に地底の世界に不満を感じることもない。でも、はるか昔のムービーや写真を見ると、不思議な気持ちになる。

 雨。空から水が降ってくるんだそうだ。信じられない。水なんて貴重なものが、空からどんどん降ってくるなんて。

 夕焼け。地上では昼と夜とはくっきり分かれているのではなくて、だんだん夜になるのだそうだ。空が橙色になって、それから紺色になり、そして暗くなってゆくムービーを見た。

 星。空に他の天体がたくさんきらめいている写真も見た。


 俺は思う。そんな空の下で、俺のきれいな恋人を見たらますますきれいに見えるだろうな、と。想像してみると、見たことがない景色のはずなのに不思議な懐かしさを覚えて、なんだか胸がきゅうと痛くなった。




「ていう、夢を見てたんだ」

 リビングのソファの上で、まだぼんやりする頭のまま俺は言った。

「なんだよそれ。なんかお前っぽくないな」

 彼は手を伸ばして俺の寝癖を直しながら答える。


 俺は昼過ぎからソファの上ですっかり眠り込んでしまっていたらしく、そろそろ起きな、と言う彼の声で目を覚したのだった。そして、確かにいつもは夢なんてほとんど見ないし、見てもすぐに忘れてしまう。

「うーん、そうかも。なんか俺よりあんたの方が見そうな夢だよね。似てきたのかな」

「何言ってんだよ。最近忙しかったから疲れてるんじゃないの。よく眠れたならよかった。……ほら、寝汗かいてる」


 彼が俺の額に触れる。彼の後ろにある大きな窓から見える空はピンクと水色のグラデーションになっていて、すっかり夕方になるところだ。

俺は夕日と彼の顔を交互に見た。

「ちょ、お前、何泣いてるの?」

「や……なんか、よかったと思って……」


 彼が俺の両頬をむに、と引っ張って笑った。

「馬鹿じゃないの。でもさ」

 なんだか悪い顔で更に笑う。

「どうする?今のこの世界が夢で、その地底に住んでるほうがほんとうだったら」


 俺は絶句した。

 そう。ちょっと意地悪できれいでかわいい、このひとが俺の恋人。


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空と恋人 ASA @asa_pont

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