正体
五人が車で集会場にのりつけると、あたりは警察車輌にかこまれて、ものものしい雰囲気につつまれている。生霊子が助手席で目を皿にした。集会場への細い道を野次馬が団子になって、警官が会場への入口を防御している。喧噪のなかでもひときわ大きな声で、
「ひとを喰ったんだろう! おまえをつきだしてやる!」
血走った目で、男がかまえた拳固を鞭のように、女のほほを殴っている。あわててとびだした警官が羽交い締めにすると、
「やめろやめろ! 見たんだ! 見たんです! きのうそこでそいつがひとを襲うところを見たんだ! こいつです! こいつがひとを喰ったんですよ!」
男は腕をふってあらんかぎりの抵抗を示した。警官がいっそう肩に力を入れて組み伏せる。
「お見舞いだ!」
一発、顎に喰らわせた。女は頰をおさえながら息を荒くして、地面にへばりつくこそ泥を見ていた。
「あっ、マターオ!」
シュラインがうしろから体ごと乗り出す。
「あれマターオじゃないか」
生霊子が車から飛び出して駈け寄ると、遠目からマターオがちからなくうなずいた気がした。
集会場の死体はめちゃめちゃで、いたるところに歯形が残っていた。とくに頭部は尋常ではなく、コンクリートの床上にはしたたった泥くさい水がなめくじが這ったように死体までのびていた。死体の脇には水たまりの跡がくっきりと残っていて、何者かの長い逗留が窺えた。もうひとつ、赤をひきずった線が入口までもどっているのもある。だがそれも外の野次馬が団子になって警官が取り囲んでいる細い道まで来ると路上の土にまみれて、ただ重い体をひきずった痕跡だけが沈んだ土壌に色をつけている。その外側にはぽろぽろと浅黒い破片が落ちていて、捜査官が手袋をつけてつまんでいた。
病院で検診を終え、マターオの肩を針火見子が支えて廊下を歩いた。うわごとのようにありがと、ありがとと繰返すマターオに、
「あのひと、なんであんたをあんな目に遭わしたんでしょうか」
と針火見子が言うのを聞いても、うつむき加減になにも答えず、受付で待っていた木星人太郎に大丈夫かと聞かれて首をふった。ロビーの長椅子に腰を下ろして息を大きく吐いた。マターオの歩幅に合わせていた針火見子はその様子を見つめながら黙っていた。シュライン、生霊子も黙った。マターオは頰の湿布を抑えていた。
マターオを家に帰したあと、生霊子らの五人は事務所にもどった。夕方だった。一帯の停電もいつのまにか直っている。
シュラインがどっかと腰をソファに据えると、郵便受けの地元紙の朝刊を手にして針火見子が駈けこんできた。
「リーダー! これを見てください」
広げた紙面のすみに顔写真とともに小さな文字で
〈交通事故で軽傷、保安官事務所オルター氏〉
と刷られている。写真の顔はずんぐりむっくりの頰に、鼻梁が高く反って、三本線の皺が額に寄っている。この愛想のない男は……。
「これはシュライデンじゃないか」
四つ折りの新聞紙のふちを両手で持った生霊子が言った。すじの入った紙面に釘づけになった生霊子に、まわりから木星人太郎とシュラインと上田山権助が覗きこんだ。
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