軍団瓦解計画
たとえば軍団内の反反反反反反クロコダイル派こと、ワニ派の棟梁の一文無しのバンカラ、生霊子は軍団を瓦解させようと、部下の上田山権助をつれて地下に侵入した。
深夜、ニューヨークの街角でずっしりとしたマンホールを梃子でこじ開けた生霊子は、部下に指図して中を照らした。直下、がらんどうの穴はぽっかりとくちをあけて、おいでおいでをしている。風がふきこんで、ぶるっと寒さに震えると
「さっさと行くよ」
ひとこと、壁面のコンクリに打ち据えられたコ型の鉄棒に足をかけて降りていく。上田山権助もつづいて降りていった。
なまぐさい風が吹いていない。ここは下水道ではない。電話線や高圧電線が走る地下空洞、その奥まったところの手首よりも太い絶縁体のカヴァーのうえに上田山権助は時限爆弾を設置した。
「あと三十分。さて」
汗をかいた上田山が黒の箱を設置し終えたのを見とどけ、生霊子はくるりと元のマンホールの下までもどった。
「これだ」
穴の下で生霊子は肩の鞄をまさぐり、中からちいさなトートバッグを取り出した。生霊子はそれを頭上の棒杭に無理矢理ひっかけて、勢いよく肩紐を切断した。バッグはそのまま床に伸びたままにしておいた。
生霊子と上田山権助はニューヨーク郊外のハーレイン軍団の支部に戻った。元々気前のいいハーレインがカウンターにライフルを飾ってフランスパンを販売していた所だが、跡継ぎが軍隊で死んだりあの地上げ事件があってからは支持母体の政治集会のために選挙事務所として貸したりして、ワニ派はその大きなショーウィンドウから交叉点が見渡せる居抜きを利用させてもらっている。
「おつかれさまです」
部屋のきわにめぐらしたソファに坐って、シュラインが紅茶をたしなんでいた。西洋人の男で、反反反反反反クロコダイル派の反反反反ハーレインで有名な男だ。その隣でペーパーバックに熱中する木星人太郎はちらと、帰ってきたばかりのふたりに目線を投げかけた。
「あれ、シュライデンはいないんですかい?」
上田山権助が鼻をひくつかせて聞くと、木星人太郎の真向いに音楽を聴いていたほそながい針火見子が
「そう、おとついからです」
とイヤフォーンをはずしてのたまう。
シュライデンはごく最近支部に入部した三十過ぎの若造である。もっとも若造といっても老けて見えた。クロコダイル被害者の会であるハーレイン軍団に嫌味を放ったその口で、あれをぶっつぶすためならなんでもすると洋々に言ってのけた。当時の生霊子率いるワニ派はまだ爆弾テロを起すような連中ではなく、ただハーレインの悪口を言うだけの素人集団である。だが、その男の勢いに焚きつけられるがまま突っ走った結果が昨夜だった。
生霊子はハンガーに防寒着をかける。もう朝だった。カーテンを閉めきって、卓子のうえで蠟燭が煌々と光っていた。
ふたりがソファに隣合って坐ると、シュラインと木星人太郎、針火見子が頭をもたげた。
「じゃあ次のフェーズにうつる」
生霊子は念押しするように地図を取り出してひろげた。
「向こうでバックを落してきた。ハーレインのものだ。しかもオーダーメイドだ。だが、実はよくよくしらべれば、クロコダイル傘下が製造したものだとわかる細工を仕込んだ。二重の意味でハーレインを瓦解させるのだ! そこでだ! 本部に行って、ハーレインがクロコダイルとつながりがある、という細工をしなきゃならん!」
しだいに昂揚したようにのぼせて、闘志がめらめらとわきあがった。ハーレインの好きにはさせぬ、飯の種を潰してたまるものかと息巻いた。このギャング・クロコダイルとつながりのある者どもは掛け声のように、お互いの怨嗟を確認し合った。まるでそうでもしないかぎり、仲間ではないとでもいうように……
「だからいったん集ったんだな」
木星人太郎が口をひらいた。
「そうだ」
「ちょうど全体集会がありますからね」
針火見子が目をすがめた。
「そうだ」
「まあどうなるかはわからんがな、なにせこのざまだ」
シュラインが電灯を見上げた。
「そうだ! だとしても行かねばならん!」
上田山権助が立った。
「マターオが向こうで準備している。集会は一時からだ。一時間前に現地へ行く!」
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