第28話 旅行中

「あ、私も出雲大社と日御碕は行ってみようかなって」

 そうなると、ずっといっしょか、亮はちょっと嬉しくなった。

「お二人さん、楽しいかもしれないけど寝てる人もいるから」

「あ、すいません」

 二人は小声になった。加奈さんも注意は素直に聞く人なんだ、よかった。


「私らも寝よっか」

 加奈さんは亮の肩に頭を持たれかけると、びっくりするほどすぐ寝息を立て始めた。

 髪のいいにおいがする、眠れるか俺。

 気をそらすために窓の外を見ているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。


「つぎは鳥取」という車内放送が入り、周りがにぎやかになってきた。まだ外は暗いけれど、朝だ。

 加奈さんはずっと、亮にからだをあずけたまま、どころじゃなくて、いつの間にか手を握られていた。


 どうしようか、まあ嫌でもないからこのままかな。

「おはよう、ありがとうね」

 加奈さんが目を開けた。

「駅弁でも買おっか、おごってあげる」

 何がありがとうなのって聞きかけた亮を、はぐらかすように加奈は笑った。


「亮くんってどこに住んでるの」

「南区の桂川のそば、です」

「そうなの、私、淀だよ。伏見桃山上のそば」

 あ、近いんだ。というより京都市内はまあどこでも、なんかかしらの因縁がある。淀はやっぱり川の対岸で伏見桃山城は亮の家からも、見えると言えば見える。


「加奈さんって、仕事なんですか、あ、内緒なら内緒でも」

「なんだと思う」

「んー、会社員じゃなさそうだし」

「なんで?」

「何となく、あ、公務員かな」


 加奈はびっくりしたように目を見開いた。

「近い、電電公社なんだ」

「電話交換手」

「うん」

「いつもお世話になってます」

 ちょっとおどけた亮に合わせて、どういてしましてと答えた加奈は笑った。


 話が楽しかったこともあって、あっという間に終点の出雲についた。

 出雲大社は思っていた以上に広かった、京都にいて神社を見慣れている亮でもそう思ったぐらいだから、他から来る人はもっとそう感じるだろう。

「ここって縁結びの神様だよね、亮くん何お祈りするの」

 そうか、縁結びか、でも立石さんとこのまま結婚なんてことはないよな。うーん。

「いろいろな縁が結べますようにって」

「それって浮気者ってことになるんじゃない」

 亮はドキッとした、そうかあ。


「冗談よ、そんなに真剣に考えなくても、まだ中学生なんだし」

 え、なんで。高校生ってことにしてなかったっけ。

「わかるよ、気づいてなかった? 自分でばらしてたよ、うちの中学はって」

「え、ほんとですか、ごめんなさい。別にかっこつけようとか騙そうとかじゃなくて、あそこで中学生って言ったら心配されるかって」


「そうだよね、その判断はふつう正しい、でも中学生でも高校生でも関係ないや、亮くんって大人だよ、列車の中でも」


 なんか、したっけ、大人なこと。

「安心できた、だから、つい頼っちゃった、手握ってたの知ってるでしょ」

「うん、起こしちぃけないと思ってそのまんま寝顔見てました、可愛いなあって」

 ほらそういうことさらっと言える、そこがね。

 そう言えばみんなにそんなことを言われる、でも自分は普通なのに。


「出雲そば食べたら、日御碕だね、お願い私を捕まえててね」

 どういうこと、と聞き返そうとしたが、加奈はもうお店に向かって歩き出していた。


 白い灯台に登り、日本海を見て、一畑電鉄で松江に戻った。その間加奈さんはずっと亮の手を握っていた。はたからはどう見えたかな、甘えんぼうの弟? それとも仲のいいアベック? まあどちらでもいいや。


「え、宿とってないんですか」

「うん、亮君と一緒で、無理かな、宿がだめって言うなら、キャンセル料払うから、一緒に泊まれるところさがそ、だめ?」


「一人旅の予定だったんですが、親が心配して、いとこのお姉ちゃんが一緒にくることになったんです」

 そんな話を信じたかどうか知らないけれど、加奈さんは一緒に泊まることができることになった。


「お部屋の準備出来ました、どうぞ」

 案内された部屋のドアをあげると、布団が二組並べて敷かれていた。

 加奈さんがどんな顔をしたかは、見なかった。


「加奈さん、宍道湖見に行こうよ」

 宿の窓から、外を眺めると目の前に湖が広がっていた。


 橋のふもとについたとき、夕日がちょうどかかり始めていた。

 加奈さんが静かだ、ここまで話しとおしだったから、疲れたのかも、そう思って亮が横を向くと、加奈さんは泣いていた。声を立てるわけでもなく、それだけに何か余計に悲しみが伝わってきた。


 亮が肩を抱くと加奈さんは素直に体を預けてくる。

「ごめんね、もう少しこのままでいて」

 日が落ちて、周囲が薄暗くなってきた。

 加奈さんが突然キスをしてきた。亮には抱きしめるしかなかった。


 結構長い時間が過ぎた、そう思っただけかもしれない。

「ありがと、亮くん優しいね」

 加奈さんはそういうおどけたように付け足した。

「お腹すいた」


「今は見ないでね」

 そう言うと加奈さんセーターに手をかけた。

 今はって言うと、後は……。亮は慌てて後ろを向くと、自分も浴衣に着替えることにした。


 食事の前に、風呂に入ることにしたのだ。夜行列車は意外と疲れと誇りが溜る。

 女湯の前で待っていると加奈さんが出てきた。髪を解いているのが色っぽい、って自分もおやじみたいになってるなと苦笑した。

「え、何か変?」

「ううん、きれいだなって、この後考えると楽しくなって」

「この後? 亮君スケベ」

「え、ご飯でしょ。やだな加奈さん何考えたんですか」

「ふん、そーゆうこと言うのは、この口か」

 加奈さんは亮のほっぺを両手で引っ張った。その拍子に、ぽろっと白いものが落ちた。


「きゃ、見ないで」

 慌てて拾おうとした加奈さんの浴衣の襟から白いおっぱいがほぼ見えた。落としたパンティーかおっぱいか、どっちを見おうか迷う。


 そう言えばお尻に下着の線が出ていない、はいてない?

 だめだ下半身が……。


 大広間で取った食事はおいしかったけれど、浴衣の下のことを考えると、あまり食べた気がしない。加奈さんはビールを少し飲んだからか、肌がほんのりと上気して奇麗だ。


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