第21話 剣道女子
「住谷君、そろそろ初段受けてみるかい」
ある日、警察署の道場に行くやいなや師範の井上先生に声をかけられた。
剣道を始めて足かけ二年がたっていた。
京都市周辺の昇段試験は武徳殿というところで行われている。
ここはかつて武道専門学校の道場だったもので、武道関係者なら、しらぬものはいないと言われる由緒あるところだ。
昇段試験までに、形を中心とした講習が二週間にわたって行われる。
磯垣久美にあったのは、講習会の初日だった。
「君も一人? じゃあ私と組んでくれない」
形の講習は二人一組でやるのだが、三人で参加してしている亮は余ってしまったのだ。
のけ者にされているわけではなく、あとの二人は隣の長岡町の中学の剣道部員だった。
普段の練習もあって、どうしても亮が余ることになってしまうのは仕方がなかった。
声をかけてきた女性は、高校生ぐらい、後ろでまとめた長い髪が印象的な美女だった。
「あ、かまいませんよ、というよりこちらこそよろしくお願いします」
亮はぺこりと頭を下げた。
「久世なんだ、じゃあ一緒に帰ろうか」
彼女の家は桂川をはさんだ吉祥院だという。確かに一緒のバスで帰ることができそうだ
「あと三回ちゃんと来るよね」
「はい、もしかだめなときか、なんか会ったら連絡しますので、電話いいですか、あ、これうちアパートで呼び出しなんですけど」
別に深い意味はなかったが、磯垣さんはちょっと驚いた顔をした。
「私、男の子から、初めて電話番号聞かれた」
「え、そうなんですか、聞いちゃいけなかった」
亮も驚いた。電話番号なんて、クラスの連絡網や部活の名簿にみんな載せている。教えることに意味があるとは思っていなかった。
「いけなくないけど、付き合ってるとか、気になる人じゃないと……、住谷君ならいいか」
それは、つまり気に入られたということなのだろうか。
帰り道のバスで磯垣さんのいろいろなことが分かった。
彼女は、茶色のジャンパースカートで有名なお嬢様学校の一年生。学校の部活はオーケストラ部、そんなものがあるというだけでびっくり、剣道はって聞いたら、部はあるけど厳しいからと笑った。
試験の日、バスの一番後ろの席で信玄袋と竹刀袋を持った二人は結構目立ったらしく乗ってきた人が一応にぎょっとする。それを二人で笑うのも楽しかった。
「もう会えなくなるのかなあ、ちょっと残念です」
「え、なんで会えないの? それとももう会ってくれないの。電話番号も知ってるのに」
磯垣さんは、悲しそうな顔をした。それが亮には意外でもあり、ちょっと嬉しかった。
「あ、そうだ、来週の土曜日、京響のコンサートいかない? 券があるんだ」
「え、行きたい、行きます」
亮は即答してから、頭の中で土曜の予定を考えた。まあ、一週間あるから何とかなるだろうと気楽に考えた。
磯垣さんは今までの女の子とは違う魅力があった。なんといっても高校生。伊都美や史乃よりは大人で、薫やしんこよりは若い、当たり前だ。亮は頭の中で、彼女をもう裸にしていた。
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