第9節 聞き込み調査と、結婚式場。
次の日、僕たちは仕事へ向かうと言うアオイさんと共に家を出た。
本来ならば彼女の家で身を隠すはずだったが、居場所がバレてしまった今となっては留まる方が返って危険だと判断したのだ。
「アオイさん、本当に出勤するんですか? 僕たちと一緒に行動したほうがいいんじゃ……」
「大丈夫です。相手も魔法省の中では迂闊に手は出せないと思います。お二人こそ、もし万一何かあったらすぐに連絡してくださいね。昨日の男たちはたぶんお二人が狙いのようでした。本当はどこか安全な場所で待機してもらっても良いのですけど……」
「僕たちだけ安全圏でのんびりしてる訳にはいきませんから」
「せやな」
僕が言うとピリカも頷いた。
「それで、お二人は今日どうなさるんですか?」
「ルネに関する情報を集めたいと思っています。ルネの父親は結構有名みたいですから、どこかで情報を拾えればいいかなって」
「それなら……」
アオイさんはメモ帳を開くと、サラサラと何か書いて渡してくれた。
どこかの住所のようだ。
「これは?」
「ルネの家の住所です。少し危険かもしれませんが、この近辺なら何か情報が拾えるかもしれません。闇雲に行動するよりは良いかと」
「ピリカ、この住所どこか分かる?」
「何となくは分かんで。あとは駅員に聞いたらどうにかなるやろ」
「お二人とも、どうかくれぐれも気をつけてくださいね」
アオイさんと別れ、僕らはルネの家へと向かう。
ルネの家はリンドバーグの住宅街にあるらしい。
広大なリンドバーグの都市には、各区間を行き来する電車が存在する。
電車に乗って数駅進むと、やがて高級住宅街らしき場所にたどり着いた。
ルネの家はこのあたりにあるらしい。
「すんごい家ばっかやなぁ。店長、こんなところに住んどるんかいな」
「どの家も大豪邸だね」
ファミリー向けの集合住宅もあれば、塀に囲まれた大きな一軒家も存在する。
住所を確認しながら進むと、やがて教えてもらった場所へとたどり着いた。
既に周囲一帯がかなりの大豪邸だが、その中でも一際群を抜いた家がある。
ここがルネの家か。
すると窓辺に見覚えのある人物が立っていた。
ルネだ。
「ルネ!」
「店長!」
思わず二人して声を出す。
するとルネはゆっくりとこちらに視線を向けた。
まさかここで出会えると思っていなかった。千載一遇のチャンスだ。
「ここだよ、ルネ!」
声を掛けても、彼女は何の反応もしなかった。
僕たちの呼び声を無視して、ルネはさっさとカーテンを閉めてしまう。
「閉めてしもたな。うちらに気づいてへんかったんやろか」
「いや、確実に目は合ってたよ。でも何だか様子が変だった」
いつものルネじゃないことは明白だ。
まるで魂が抜けたようにも見えた。
ストロークホームスで見かけたあの光景がフラッシュバックする。
ホグウィードの怪しい眼光で見つめられた時、ルネの意識は失われた。
あの状態が今も続いているのだとしたら、僕らに気づいていても反応できないはずだ。
「このまま家に乗り込んでみる?」
「いや、流石に誰かおるやろ」
ピリカと話していると、遠方から一台、車が近づいてくるのがわかった。
見た目にも分かるほどかなりの高級車だ。
ルネの家のものかもしれない。
「隠れよう」
僕らは慌てて近くの塀へ身を隠す。
すると予想通り車はルネの家の前で停まった。
中からスーツに身をまとった人間が数名出てくる。
「何やあいつら……。魔法省やろか」
「どうだろう」
スーツの男たちが玄関の呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてルネが家から出てきた。
そばに誰かが立っている。
見覚えのある人物だった。
ルネの義弟のソルだった。
「お迎えご苦労さま。姉さん、行くよ」
まるで導くようにソルはルネの手を取り、男たちと車に乗るとそのまま走り去ってしまった。
下手に乗り込まなくてよかった。
もし突撃していたら返り討ちに遭っていただろう。
するとピリカが僕の服の裾を引っ張った。
「道也、追うで」
「えっ? 無茶言わないでよ」
「何でやねん! 鬼の力使ったら追いつけるやろが!」
「流石に街では目立つでしょ。しかも日中だし」
「今追わんでどうすんねん! 店長、変な場所に連れて行かれたかもしれへんねんで!?」
言い合っていると、トントンと肩を叩かれた。
誰だろうと思い振り返る。
「あなた、シルヴァニーさんの家に何かご用?」
見たことないおばさんが立っていた。
ピリカが首を傾げる。
「シルヴァニー?」
「ルネの名字だよ。本人はあまり名乗りたがらなかったけど」
「何をこそこそ喋っているの?」
僕らがヒソヒソ声で話していると、相手は訝しげな目で僕たちを見てきた。
ここは僕が対応することにする。
「あの、あなたは?」
「私? この近所のものだけれど。あなた達、このお家に何かご用?」
「あー、えっと……」
どう答えたものか。
いや、妙な嘘はつかなくていいだろう。
「僕たち、ルネの友人なんです」
「ルネちゃんの?」
「別の街でルネと知り合ったんです。実家に帰るって言ってから連絡が無かったんで会いに来たんですけど。思った以上の大豪邸でちょっとビックリしちゃって」
「せ、せやねん。まさかこんなお金持ちやと思わんかったわぁ」
「あら、そうなんですねぇ」
相手はチラチラと値踏みするように僕たちを見ていたが、やがて納得したのか小刻みに頷いた。
「ルネちゃん、もうすぐ結婚なさるって聞いてる? めでたいことになったわねぇ」
「えっ? 結婚? 全然知りませんでした」
我ながら白々しい嘘をつく。
「あなたたち、お友達なのに何も聞いていないの?」
「ほら、ルネってあの性格でしょう。照れくさいのか、そういうの教えてくれないんですよね」
「あぁ、確かに。随分気難しい子で、お父様も苦労なさってたものねぇ」
「ルネの結婚相手ってどなたなんですか?」
「さぁ、私もそこまでは。でも式場は確かすごい場所でやるって話よ」
「へぇ?」
おばさんはしばらく考えたあと告げる。
「そうそう、思い出した。グランバーグ聖堂って知らない? 一時期すごい駅前に大きな看板が出ていたのだけれど」
「僕たち、他の街からやってきたのでそこまでは」
「やっぱりお金持ちの家だから、ちゃんとしたところで挙式を上げるみたいよぉ。すごいわねぇ」
おばさんはそこまで話すと、気を良くしたのかパンと手を叩いた。
「そうだ、ルネちゃんに会いに来たんだったら私が呼び出して上げましょう」
「あ、ちょっと……」
言うや否や、おばさんはさっさと呼び鈴を押してしまう。
もし誰か出てきたらすぐに逃げようと身構えたが、幸いにも留守のようだった。
さっきので全員出払ったらしい。
「あらぁ、お留守かしら」
「仕方ないですよ。また出直してきます」
「そう? 残念ねぇ」
「色々ありがとうございました」
おばさんが去ってから、僕とピリカは顔を見合わせて頷いた。
「思わぬ情報やったな」
「さっきの車、グランバーグ聖堂に向かったんじゃない?」
「ちょっと追いかけてみよか」
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