第7話 孤独な君の行き着く先。

第1節 大繁盛と、厄介事。

 穏やかな街ストロークホームス。

 秋を象徴したようなこの街にも、寒い季節が訪れた。


 ――お願い、滅びの未来を食い止めて。


 創造神アテネの導きを受け、僕は現実世界から突然この魔法世界に迷い込んでから早二ヶ月。

 この街にも随分と馴染み、ルネやピリカとの共同生活も軌道に乗り始めた。


 異世界での暮らしは、概ね順調だ。


 ストロークホームスは人に居場所を与える街。

 その言葉通り、この街は誰もを受け止め、居場所をくれていた。


「店長ぉ、魔法道具の製作依頼が来たでぇ」


「あらあらまた? おほほ! 人気者は困るわね! おほほほほ!!」


「また図に乗ってる……」


 魔法店『御月見』にて。

 夜になると活性化するこの店では、僕が品出しをし、ピリカがレジの対応やパソコンを使ったメールの管理などをしていた。

 そろそろこの異世界に文明の利器があるのを見ても驚かなくなってきたな。


 ちなみにパソコンは魔鉱石を原動力にしたバッテリーを使って電気やネットワークを発生させているらしい。

 何かと便利だな、魔法。


 公式メールアドレスを設けてからと言うもの、魔法の依頼はメールでも届くようになった。

 主な依頼はルネの魔法道具や小物の製造。

 加えて通販サイトも行っており、それなりに売上が出ている。


 それらはすべてピリカの発案だ。


「オリジナルの商品こんなに置いてんのにネット活用してへんの勿体なすぎるやろ」

 とはピリカ談。


 元々商売魂たくましい彼女だが、こうなるともはや頼もしさすらあった。

 金勘定もルネに任せるよりはずっと安心出来る。


「道也、今私の悪口考えてなかった?」


「そんな訳無いでしょ」


 ごまかすように顔を逸らし商品棚を整頓する。

 店は夕方のラッシュタイムを抜け、店内は夜の静寂へと突入していた。

 この時間帯はほとんどお客さんが来ないので、店内にもゆるい空気が流れている。


「二人共、それ終わったらそろそろ上がっていいわよ。後やっとくから」


「ふー、やっとやぁ。今日は何や疲れたなぁ。メール対応にレジに、めっちゃ忙しかった気がするわ」


「最近お客さん増えたからね」


 一日の終わりが近づき、僕とピリカの顔には疲弊の色がにじみ出ていた。


 魔法店『御月見』は先日の収穫祭以降、随分と盛況だ。

 ルネと僕の大立ち回りは随分と祭りの盛り上がりに貢献したらしい。

 街の住民にも僕やルネの顔はそれなりに知られるようになっていた。


 ルネと対立した魔法省とはあれから何の接点もない。

 このまま何事もなく過ぎ去れば良いなと思うが、果たしてどうなることだろうか。


 そんなことを考えていると、不意に入口のドアが開きチリンチリンと鈴が鳴り響いた。


 僕が入口を振り返ると「ふぇぇ、お客さんやぁ」と疲れ切ったピリカのヘニャヘニャな声が背後から聞こえた。

 無視して「いらっしゃいませ」と声を掛ける。


「ごめんください、良いかしら?」


「あれ、ウタコさん?」


 顔を出したのはこの店の建物の管理人をしているウタコさんだった。

 町内会の役員などもしているらしく何かと口を利いてくれる。

 会うのは収穫祭以来か。


 ウタコさんは僕たちを見ると、深々と頭を下げた。


「皆さん、この間の収穫祭はありがとうございました。おかげで例年にない盛り上がりで、実行委員のみんなもとても喜んでくれたんです」


「それはよかったです。今日はどうしたんですか?」


 彼女は顔を上げると、いつものニッコリとした笑みを浮かべる。


「実は皆さんに会って欲しい人が居て連れてきたの」


「会って欲しい人?」


「街のお役所の方なんです。ぜひ紹介してほしいって言われて」


「役所の人がわざわざ?」


 僕はルネとピリカと顔を見合わせた。


「厄介ごとの匂いがするわね……」


 ルネがボソリと呟いた。

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