第3節 祈りとお告げと、二人のシスター。

「お前、見た目によらず結構無茶する奴やな。実は結構店長に似てるんちゃうか」


「そうかな」


 ここに来てからずっとルネと行動して来たから多少は影響されているのかもしれない。

 文句を言うピリカの言葉を流しつつ教会の中へと入る。

 そっと入り口の扉を開くと、中にたくさんの人がいるのが見えた。


 奥に祭壇があり、真ん中に通路。

 通路の左右には複数人が腰掛けられるような長椅子が並べられている。

 内装も元の世界の教会によく似ているようだ。


 違ったのは、祭壇のさらに奥に大きな女性の銅像が建っていることだった。

 創造神アテネの像だろう。

 街の広場に建っているものによく似ていた。


「まだ礼拝は始まってへんみたいやな」


「間に合ったみたいだね」


「はひぃ……奇跡ですぅ。お二人とも、何とお礼を言ってよいのやらぁ」


「僕らはいいから。早く行かないと遅れちゃいますよ」


「そ、そうですねぇ! それでは失礼しますぅ!」


 ルゥさんが何度も頭をペコペコしながら去っていく。

 あまりにも何度も振り返るものだから途中柱にぶつかっていた。

 大丈夫なのか。


「大丈夫かいなアレ」


 ピリカも同じことを思っていたらしい。


「ウチらも中に入ろか」


「今更だけど勝手に入って良いのかな。申込みも何もしてないんだけど」


「大丈夫やろ。昔お試しで連れられたことあるけど、別に文句言われへんかったし」


「そっか」


「あそこの後ろの席空いてるで」


 ピリカに促されるがまま最後部席へと座る。

 教会の中は随分静かで、静謐せいひつな雰囲気が漂っていた。

 皆が静かに目を閉じ、目の前の大きなアテネの像に祈りを捧げている。

 その動作は、どこかで訓練を受けてきたかのように統一されていた。


「結構人多いね」


「三大宗教の中でも最大の宗教やからな」


「三大宗教?」


「せや。大きく分けて三つ宗教があんねん」


 ピリカ曰く、この魔法世界の創世神話に登場する三柱の神が信仰の対象になっているそうだ。


 創造神アテネを信仰するアテネ教。

 鬼神ユラヌスを信仰するユラヌス教。

 夜神ヤミを信仰するヤミ教。


 その中でも最大であり、最も大きな宗教がアテネ教らしい。


「アテネはこの世界を生み出した女神やからな。それに美人とされとるし、シンプルにファンが多いんやろ」


「宗教語るのにファンとか言わないでよ……」


 誰かに聞かれたらタコ殴りにされそうだ。


「他の2つの宗教はどんなのなの?」


「ウチもそないに詳しくないしなぁ。ユラヌスは鬼神で、破壊と暴虐の限りを尽くしてアテネの妹であるヤミに追放された、くらいまでは知ってるで」


「この世界でも鬼ってそんな扱いなんだ」


 鬼はいつだって悪者として扱われる。

 そう言うものなのかもしれない。


「鬼って、どこに行っても寂しい存在だね」


 なんとなく呟くと、ピリカが顔をしかめた。


「辛気臭いこと言うなや。こっちまで暗なるわ」


「別に感想を述べただけだよ」


「もっとハッピーに生きろや。僕は人とは違うんだ、選ばれしものなんだ、でも選ばれしものは孤独を抱えて誰にも理解されないんだよーみたいに思っとけばええねん」


「中二病?」


 すると教会奥のドアが開いて、二人の女性が姿を現した。

 一人は優しそうな雰囲気の糸目のシスター。

 もう一人はルゥさんだった。


 二人のシスターは祭壇に立つと、声を上げる。


「ようこそ敬虔なる信徒の皆様。本日も時間がやって来ました。祈りを捧げましょう。私たちの、アテネ様に」


 ◯


 アテネの賛美歌を歌い、祈りを捧げ、宣教を聞き、また祈りを捧げる。

 一通りプログラムを終えた後、ようやく礼拝はお開きとなった。

 時間にして一時間くらいか。


 礼拝が終わり街の人たちが教会を出ていく。

 先程まで敬虔な信徒だった人々は、あっという間にいつものストロークホームスの住民へと戻っていた。

 非現実的な場所から現実で戻って来た心地がする。


 去っていく人々を見送り、誰も居なくなったのを見計らって僕たちはアテネの像へと近づいた。


「ホンマにでっかい像やなぁ」


「そうだね」


「興味がありますか」


 声を掛けられ振り返ると、さっきの糸目のシスターがニコニコして立っていた。

 いくつくらいの人なのだろう。

 かなり若くにも見えれば、大人の女性に見える。

 後ろにはルゥさんの姿もあった。


「すいません、突然声を掛けてしまって。私はクレハ。この教会の管理人をしています。うちのルゥがご迷惑を掛けたみたいで」


「さっきはありがとうございましたぁ!」


 ルゥさんが直角に頭を下げる。

 頭部から生えた角が振り回されてちょっと怖い。


「僕らも教会に向かっていたので一緒に来ただけですよ」


「そうでしたか。アテネ様を信仰してくださる方が増えるのは嬉しいです」


「別に信仰しにきた訳ちゃうけどなぁ」


「それでも、興味があったからここに来たのでしょう?」


「まぁな。主にこいつが、やけど」


 ピリカに尻をバシンと叩かれる。

 全然遠慮がないな。

 叩かれた尻を撫でていると、「あなたはアテネ様にご興味が?」とクレハさんに尋ねられた。

 僕は頷く。


「僕は僻地からここにやって来たんで、あまり宗教とか詳しくなかったもので。もしよかったら、この世界の神様の話について教えてもらえませんか」


 この世界の神様の話を聞くことが出来れば、何か分かるかも知れない。

 僕がこの世界に来た理由が。


 僕が尋ねると、クレハさんは嬉しそうににっこり微笑んだ。


「そうですね……それでは、アテネ様に関する創造神話についてお話しましょうか」


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