第114話 メカクレちゃんの見えていたもの

 オレはあの後、縛った四人組を探索者ギルドに引き渡し、動画データを渡した。

 オレやメカクレ少女、女子二人組はそれぞれ別の部屋で事件の内容を話した。


 とりあえず、あの四人組の犯行はこれで終わることになるはずだ。


 事情聴取が終わって表に出ると、ちょうどメカクレ少女も探索者ギルドの外へと出てきた。


「あっ……」

 オレは逃げようとしたメカクレ少女に声をかける。


「ちょっといいかな」


「は、はひ……」


「…………あのさ。オレ、君に何かした?」


「い、いえ。まだ、特に、何も。こ、これからも、しないでくれると、うれしい、です……」

 明らかに彼女はオレにビビッていた。


「まだってなんだ。未来でも見えるのか?」


 オレがいろいろ動いたせいで変わってしまった未来。

 そんなものが見えるのであれば、それはとても有用な能力だった。


 しかしメカクレ少女は否定する。


「……いえ。未来は、見えない、ですけど……」


 なんだ? 未来視ではなく、予言の類か?


 なにやら周りから目線を感じる。

 目の前にはやたら怯えた女の子に、問い詰める男。

 いじめとか強引なナンパとかに見えるかもしれない。


「く……。おい、さっき、何でもするって言ったよな! 来てくれ!」


 オレはメカクレ少女の手を引く。


「い、いい、いいましたけどっ! あぁぁ! な、なんでもするから! なんでもするから、殺さないでくださーい!!」


「人聞きが悪い! 殺さねえよ!」


 そこへ。

「おまわりさん! あっちです!」

 そんな声が聞こえた。


「逃げるぞ……!」


「はぁぁぁ……ああああ!?」


 後から思えば、逃げずに説明すればよかった。

 オレは何も悪事をしていないのだから。




 場所は変わって、人気の少ない個人経営の喫茶店だ。

 雰囲気のいい店で、コーヒーのいい香りがしている。


 そこの一番奥にある目立たない席にオレは向かった。

「座ってくれ」

 奥の席を手で示すと、メカクレ少女はそれを無視して一番手前の席に浅く腰かけた。


「好きに頼んでいいよ。ここはオレが持つから」

 いうとメカクレ少女はしばし考えた様子を見せた後、メニューからアッサムティーとベイクドチーズケーキを選んだ。


「あんたの反応が不可解だ。オレは恐れられることをした覚えはない。――もしかして、オレは、何かやらかすのか……?」


 かなり強引にこの少女を連れ出したのは、そのことを聞きたかったのだ。


 オレは過去に戻るという不可思議な体験をしている。

 ダンジョンという不思議存在が現実に現れた世界とはいえ、そんな話は聞いたことがない。

 オレの身体に何が起きていてもおかしくはないのだ。


 たとえばオレがモンスター化するとか。


 もし、自分がモンスターの類になってしまったらと思うと、寒気がする。

 オレは幸せになりたいし成功したいし、いい思いがしたい。

 だからといって、罪のない人を犠牲にしたいわけじゃないのだ。


「さ、さきに、約束して、ください」


「何を?」


「もし、わたしの答えが、あ、あなたの望むものじゃなくても、殺さないって……」


「…………ああ。もちろんだ。最初から殺す気なんてないから、安心してくれ」


 メカクレ少女はホッと息をはいた。


「そういえば名前も聞いていなかったな。オレは風見遥。ダンジョン配信者だ」


「……し、知ってます。わ、わたしは、鳶折陰とびおり・かげと、言います」


 その名前でオレは気付いた。

 この子……見たことあると思ったら!



 未来の有名人だ。



 それも、とても悪い意味で。



 それにはまず未来で、モンスターの仲間となった人間がいることから話さねばならない。

 上位モンスターに魂を売ったり、モンスターに肉体が作り変わってしまったりした人間だ。

 それらは、ダンジョンマスターとなって、特定のダンジョンを統べることがある。


 その中でも特に有名な十人のダンジョンマスターがこう呼ばれていた。


 十大魔君じゅうだいまくん


 その中の一人、死霊帝女。


 ――人間側のときの名前を、鳶折陰とびおり・かげと言った。


 未来では死霊術を操り、数多の探索者を恐怖におののかせてきた陰。

 彼女は今目の前でぴいぴい恐怖に呻いていた。


「じ、じつは、ですね……。ここ、一、二か月の間なんですけど、し、死人が増えて、いるんです……」

 彼女はびくびくとしながら言う。


「そ、その中心が、あなただと、思っています……」


 ちら、ちらとオレの顔色をうかがっている。


 ちら、ちら、ちらり。


 オレが何の反応もしなかったからか、陰は「ほっ」と息を吐いた。


「わたしは、じゅ、十年前から、人の寿命が、見えるように、なったんです」


「寿命が?」


「は、はい。先ほどの女性たちも、わたしの寿命もまだまだあったので、死ぬことは、ないと、考えました」


「え、ええ……?」


 オレが手を出さなかったら、さっきは大剣を頭からぶち込まれて死んでいたが?

 もしかして、オレが助けることも計算に入れられていたのか?

 死なないと思っていたから、ぽけーっとしていたのか……。


「わ、わたしはこの能力を、信じ切っていました。最近までは」


「ふむ……」


「で、ですが、あなたの周りだけは、結果がおかしいんです。沙月って人も、真白って人も、もう死んでるじゃないですか……! あとは横浜の動画とかでも、全員死んでるじゃないですか……!」


 少女は意を決したようにオレに指を突き付けた。


「あなたは、凄腕のネクロマンサー……そ、そうですね……?」


 真実をすべて見破っている探偵のように言った。


「あ、あなたは、あんなにも多くの死者を操って、いったいどうするつもりですか……!?」


 いや確かにネクロマンシーも使えるけど。使えるけどさあ……。

 そんなことしてないぞオレは。


「よ、よかったら、わたしだけは殺さないでください!」


 陰はびびり成分に懇願成分、それにちょっぴりのドヤ成分を混ぜて、そう言い放った。


 あー……。

 多分この子が見えてるの、オレがここに来る前の、本来の世界線での寿命だ。


 彼女の能力では沙月も真白さんも横浜の人たちも死亡判定になっているらしい。


 オレが今回の世界線にて好き放題したせいで、彼女の能力はポンコツ化していた。




   ◆《SIDE:???》◆


 その男は昔、海外のチームでプロゲーマーだったことがあった。

 好きなのはプロとの対戦よりアマチュアとの対戦。

 相手の選択肢をすべて潰し、絶望した様子を見るのがとても楽しかった。


 彼はプロ相手にも同じことをした。

 とあることをして、プロ相手にも勝利を重ねた。


 だが、あるときばれてしまったのだ。

 彼の使っていたウォールハックチートなどが。


 彼はチームを首になり、業界から追放された。


 ちょうどその辺りだった。


 世界にダンジョンが産まれたのは。


 ――俺はこの世界で、やり直してやる。


 そう決めた。ゲームでの戦略的な思考法や、裏のかき方などは、ダンジョン攻略にもバッチリとあてはまった。


 だが男の性根は、何一つ変わらなかった。


 自分より弱い相手への蹂躙を、たまらなく心地よく感じる。

 相手の情報を調べ、自分の影をちらつかせ、恐怖に追い込み。


 その上で、殺す。


 それはゲームでは決して得られない、生々しさのある娯楽だった。




   ◆オマケ 沙月に最高にキラついた笑顔を見せてみる◆


「沙月。ちょっといいか?」


「はい? なんですか、師匠」


「オレの笑顔を見てくれないか」


「えっ。笑顔ですか?」


「実は、人を一人怖がらせてしまって……。真白さんにも『他人には見せないほうがいいって言われたんだ」


「ええ……? 真白ちゃんがですか? わかりました。では、見せてください」


「どうかな(キラっ)」


「あっ……」


「さ、沙月!?」



「…………失礼しました。す、少し、その、取り乱しました(赤面)」


「ああ……それで、やっぱり……?」


「確かに、すごい破壊力があります。もし女性剣士などの敵と戦うときであれば、一瞬の隙を作ることができるかもしれません……」


「あ、そ、そうなんだ……そんなに、怖いんだ……」


「戦術的に有用でしょうね」


「そっか……(戦術的に有用なくらい、オレの笑顔は怖いのか……)」


「はい」


「うん、ありがとう……」


「し、師匠? なぜ落ち込んでいらっしゃるのですか……?」





────────────────────────

あとがき


ゲームでは得られない栄養素がある……。

しかしゲームでしかえれない栄養素もまたあるのです。


射幸心を煽られじゃぶじゃぶ課金したあとの、排出――!

なお数日後に後悔する模様。



メカクレ霊視ちゃんが見えていたのは、(前回の)残りの寿命でした。


あとカクヨムコン9に本作を出してみました!


ですので、応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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