第113話 RPKer? を捕まえてみた

 男たちは、ニヤケ笑いを浮かべながら、女性二人を取り囲んでいった。

 オレはその様子を配信しつつ、見守っていた。


「な、なんですか。あなたたちは……。離れてくれませんか……?」

 女のうち一人、髪型をポニーテールにした剣士が言う。


「ダンジョンの中は危ないぜー? なぁ、一緒に探索しようよ」


「悪いんだけど、あたしたちは二人で探索してるの。あっち行きなさいよ」

 ツインテールの魔法使いが不快感を示す。


「そんなこと言わずにさぁ。仲良くしようぜ?」

 他の男が進み出て、ツインテールの肩に触れる。


「やっ……やめなさいっ……」

 そう言ってツインテールが男の手をひっぱたいた。


「おい、お前らさ。優しく言ってるうちに、言うこと聞いとけよ」

 手をはねのけられた男が低い声で恫喝するように言った。



【ハルカくん……もうそろそろ助けたほうがよくない?】

 オレはそういうコメントに対して小声で

「もうちょっとだけ待ってくださいね」と言った。


 説明すると、この程度では大した犯罪にならないのだ。

 オレが出ていって彼らを止めたとする。その場合、彼らは強引なナンパをしただけという判定になるだろう。

 上手く行けば少しの期間だけ刑務所にぶち込めるが、大した実刑にはならない。


 それどころか、少々お説教されただけで無罪放免になってしまう可能性のほうが高いだろう。

 それはあまり望ましくはない。

 オレは彼らの武器が、人間を斬ったことに気付いている。

 もし彼らが犯罪行為を行うような人間ならばできるだけ重たい罪で捕まえてしまいたい。


「それとですね……。こういった場面で相手を犯罪者として捕まえるときは、相手の犯罪の証拠を残すとベターです。配信などしているといいですね。動画を編集してしまうと、いくらでも罪を捏造できてしまうので。編集済みの動画を出すなら、フルバージョンもきちんとアップロードしたほうがいいですね」


 オレがこそこそやっていると、少し先ではもうかなり切迫した状況になっていた。


「もういいじゃん。いっくん。ヤっちまおうぜ。どうせ殺すんだからさー」

 そう言って男の一人がダガーを取り出す。


 ツインテールの頬にぴたぴたとダガーの刃が当てられる。


「ひ、ひぃ……」


 さて、そろそろだな。

 オレが止めに入ろうとしたとき、反対側から入り口で逆さブリッジしていた少女がタイミング悪く現れる。

 薄紫の髪をした少女であり、前髪はかなり長く両目は隠れている。

 あれで見えるのだろうか?

 しかし逆さブリッジすれば視界は良好となりそうではあった。


「……あ。あれ? えっと、これは……?」

 おろおろとした様子を、見せた後、女性二人を見て、「ふぅ」となぜか胸をなでおろした。


「あの、えっと、その、だ、男女のそういうのは、こんな場所じゃなくて、えと、おうちでどうぞ、です。では、失礼します」


 そう言って来た道を引き返そうとしてる。

 ……何が理由でその判断をしたのかまったくの謎だった。


「おい、嬢ちゃん。逃がすわけにゃいかねえなあ。あいつもやっちまえ。にーやん」

 一人がそういうと、別の男が走った。

 メカクレ少女に向かって、大剣を振りかぶる。


 しかしメカクレ少女は黙ってその様子を見ているだけだった。

 一切慌てていない。

 もしや、すごい実力者なのでは?

 そう思ったのもつかの間だった。

 強者独特の空気などはなく、メカクレ少女はぽけーっと自分に迫る大剣を見ていた。


「あぶねえ!」

 オレは叫んで、近くにあった石を掴んで投げた。


 石が風を切る轟音を立て、大剣を持った男の頭に直撃する。

 そのまま男は崩れ落ちた。


【ハルくんが一番よく使う技って、石投げの可能すらあるな】

【敵に回すと石を投げてくる男か……】

【投石(必殺)】


「誰だ!?」

 他の男が叫ぶ。



「はい、こんにちは」

 オレは挨拶をしながら進み出る。

「あなた方、今この女性たちと、そこの女性を襲おうとしていましたね?」

 男たちが目配せをしあっている。


「勘違いだ。ちょっともめただけだから放っておいてくれねえ?」

 男のうちの一人が言い、それに別のダガーの男が続く。

「俺たちは同じパーティだよ。ちょっと喧嘩しちまっただけでさぁ」


 ダガーを突きつけられた女が青い顔で首を横に振ろうとした。しかし、ダガーの男に「なぁ?」と言われて、首を縦に振った。


 どう見てもアウトだ。

 この映像だけで、それなりの罪には問える筈だ。

 あまり時間をかけすぎても、女性に被害が出る可能性があるしな。


「全部わかってるよ。見てたんで」

 オレは構えもせずに歩を進めていく。


「ハッ……死にてえらしいな。おまえ」

「やっちまうか……。おい、いつまで寝てるんだ。起きろ」

 そういう声をかけられても、先ほどオレが投石をした男は伸びたままだ。


 そこで、男のうち一人が言う。


「ま、待て……! あいつ、配信者のハルカじゃないか……?」


「誰だよそれ」

「ほら、横浜のやつとか、剣士のやつとか、いろいろやってるやつ……!」

 その雑な説明で気づいたのか、他の男たちも及び腰になった。


 最初に絡まれていた二人の女性は、希望の見えたような顔でオレを見る。


 なぜか、逆にメカクレ少女は「あ、あひぃ……」と声をあげて尻餅をついた。


 さっきまであんなに余裕そうにぽけーっとしてたというのに……。

 いったい何なんだ、この人……?


 顔もなんか見覚えがあるような、ないような……。


 男たちはこそこそと何かを話し合っている。

 それから媚びたような笑みを浮かべ初めた。


「へへへ。やだなぁ。ハルカさん、ハルカさんなら先に言ってくださいよ。あ、動画いつも見てます」


 はぁ……?


【急に媚び始めて草】

【ハルきゅんも有名になったねぇ……】


 しかしオレの頭は、媚びてくる男たちの態度と反比例して冷めていく。

 自分たちより弱いと見たら私利私欲のまま手を出して、強いと見たら媚びを売る。

 あまり好きな行為ではない。


「あ、よかったら、ハルカさんも一緒にどうすか」

 男はそういって女性二人と、へたりこんでいるメカクレ少女を見た。


「死体とかの後始末は俺らがやっとくんで……」


「――下衆が」


 オレが口の中で呟くと、男は戸惑うような様子になった。


「え、えっと……」


 オレは言う。

「はい。皆さん。ここからは、RPKerを退治してみた、に移ります。ま、少し前から移ってるんですけどね?」


「あ! このガキ配信してやがる!」

「くそっ……!」

「もういい殺せ! 殺しちまえよ畜生!」


 なぜその判断になったのか理解に苦しむが、男二人がオレへと向かって駆けてくる。

 もう一人の男はツインテール魔法使いにダガーを当てていたことを思い出したのか、ダガーを握りしめ叫ぶ。


「ハルカてめえ、それ以上うご――」


 ――遅い。

 オレは彼らの認識できる以上の速度で二人をかわし、ダガー男の手を上から握る。そのまま、握りしめた。


 ダガー男は一瞬ぽかんとしたあと、焦った顔になる。

 そして。


「あ、あがあ、ああああああ」

 ボキ……ボキゴキバキ。


 ダガー男の手からそんな音がした。


「お、俺の手がぁ……」


 オレは彼の手を離すと、顎をかすめるように拳を入れた。

 チッ――と音がして、がくんと男が崩れた。


 オレは二人の女性を見る。

「もう大丈夫ですからね。安心してください」

 オレは最高にキラついた顔をしようとして、やめた。

 先ほどメカクレ少女がとんでもない反応をしたからだ。


 もしかしたら、めっちゃ変な顔をしている可能性もある。


 ごく普通に微笑んで見せる。


「あ、ありがとうございましゅ……」

「た、たしゅかりました……」


「待って。まだ終わってないよ。あと二人いるから」

 オレは残った二人の男に向き直る。


 彼らはたじろいだ様子を見せてから、何か決心したように、オレに向かって突撃してきた。


 一人は足を引っかけて転ばして後ろから首筋にチョップ。

 もう一人は鳩尾に掌底をブチ込んだ。


「――カハッ」


「はい、というわけで、RPKerを倒してみました! 彼らはこの後、探索者ギルドまで連れて行って、法的に処罰をしてもらいます! こういうこともあるから、ちゃんと動画をとっておくといいですよ!」


 オレはそのあといくつか、犯罪者を捕まえるときの動画の扱い方を説明する。そして。


「でも本当に危ないから、一番は逃げることです。こういう危ないことをするのは、どうしようもないときだけにしましょう。オレと約束ですよ?」


 自分が決して守っていないことを視聴者に向かって言う。


 最大の安全策は、強くなることじゃない。

 危険に近づかないことなのだ。

 まぁ探索者に言っても仕方のないことではあるが。


 オレは四人をダンジョン産の縄で拘束し、反撃ができない状態にする。


「すみませんが、お姉さんたち」


「は、はいっ!」

「なんでもします……!」


「この人たちを探索者ギルドに連れて行くので、良かったら証言をお願いできませ――」


「もちろんです……!」

「なんでも証言します……!」


 女性たちは食い気味に言って来た。


「あの、良かったらそこの君も、お願いできますか? 動画もあるんですけど、音声がとれていない部分もあるので」


 同一パーティの女性二人と、別パーティのオレとメカクレ少女。計3パーティが証言すれば信ぴょう性も高まるはずだった。


 オレがメカクレ少女に近づいていくと、彼女は「ひぃ……」と言って、尻餅状態のまま、お尻をずりずりこすりながら後ろへと下がっていく。


「こ、こ、ここ、殺さないでくださいぃっ……! な、なんでも、しますからぁっ……!」


 ――えぇ? なんでだ。


 本気で意味がわからん。

 配信を見ている人たちもそのようで


【草生える】

【認識ヂカラがだいぶヤバそう】

 などのコメントがあった。



   ◆オマケ 最高にキラついた笑顔を見せた真白さん◆


「なあ、真白さん。実は女性視聴者が多いことに気付いたから、いい感じの笑顔を浮かべたら、怖がられたんだよ。もしかして、オレすごい変な顔してるかな?」


「怖がられた? ハルくんにそんな態度をとるなんて、失礼な人ですね……」


「ちょっとやってみていい?」


「お姉ちゃんは怖がらないから安心してきてください!」


「こんな感じなんだけど(キラッ)」


「あ、はっ……ああっ……(クラッ)」


「真白さん!? 真白さーん!? 大丈夫!?」




「う……すごかったです」


「よかった。気がついた。……そんなに怖かったのか?」


「ハルくん……それもう表でやっちゃダメですよ。動画でもダメです。破壊的すぎます」


「そっか……そんなに怖いのか」


「で、でもお姉ちゃんには見せてもいいですからね」





────────────────────────

あとがき


ここまでお読みくださってありがとうございます!


次回もがんばりますのでぜひとも、ブクマ・高評価・コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

評価が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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