第112話 久しぶりのダンジョン配信とヤカラ系男子

 まずオレはダンジョンで、普通に配信をしていた。

 ふつうに配信してたらRPKerに出会っちゃった作戦である。

 まぁ、会えないかもしれないが。


「はいこれ、この扉ですね。たまにある馬鹿っぽい罠ですね」


 ダンジョンには致死性の恐ろしい罠から、間の抜けた罠まである。

 場所によっては、エロトラップダンジョンと呼ばれる場所もあるとか。


 目の前の扉には、顔のレリーフが掘られており、ニンマリと笑っているように見える。


 この扉は壊れない。


 何か不思議な力で守られているようで基本的には破壊不可能なのだ。


 まぁ、破壊力を上げまくってごり押しでぶっ壊すことも不可能ではないのだが、ほとんどの人間には不可能だろう。


『笑い扉の、面白い試練はいかが?』


 近づくと扉がそんな声を出した。


『笑い扉を、笑わせてみてね』


「はい、皆さんこれを知っていますか?」


【知ってる。クソトラップ】

【これで進めなくなったパーティとかたくさん見る】

【面白いギャグを言うと開く扉だろ】


「そうです。この扉は扉に向かって面白いギャグを言うことで開く扉ですね。しかも硬いから壊して通ることもできない。だから、あのように立往生している人たちもいるわけですよ」


 見ればおろおろしている二人組の女性がいた。

 そこに逆さブリッジエクソシスト少女は混ざっていなかった。


「ま、別ルートから行けばいいだけの話なんですけど、戻るのも大変なんですよね」


【わかる……。トラップの場所とか結構変わるし、地図を手に持ってても、立往生とかあるあるだよね】


「ちょっと失礼しますよっと」


 オレはなるべく彼女たちに近づかないように大回りしながら、扉へと向かっていく。

 人畜無害な顔で近寄って攻撃する、などということもありえるので、基本的に探索者同士はなるべく近づかないのがマナーだ。


 二人の女性は遠くから声をかけてくる。


「あのっ、すいません……! 開いたら、一緒に通ってもいいですか?」


「もちろんいいですよ。ダンジョンは助け合いですからね」

 と言ってみたが別にそんなことはない。

 わりとギスギスすることもあれば、助け合いがあることもあって、それぞれだ。


「じゃあ皆さん。行きますよー」



 オレは扉の前でキメ顔を作った。



「――布団がふっとんだ」


 これは平成どころか、昭和を超えて大正明治慶応元治など元号をすべてすっ飛ばして、大化の改新辺りで流行っていたギャグである(多分)。


 もはや時代遅れで誰も存在を知らないであろうギャグ。

 そんなもので笑うような扉ではなく、ニヤケ顔のレリーフが怒った顔へと変化する。


『つまらない。ストーンアローはいかが?』


 口が開き、その中から矢がパシュパシュと飛んでくる。


 オレはその矢を素手でつかんで放り捨てる。


「はい。寒いギャグを言うとこうなるんですね。なので、こいつをハックします」


【……布団がふっとんだとか、こっちまで寒気が来たわ】

【布団がふっとんだってなんですか? どうして布団が吹っ飛ぶんですか? 吹っ飛ぶと何かいいことがあるんですか?】


「まずこの扉が、何を以ってギャグだと感知しているかというと、セリフに含まれる『ドヤ感』なんですね。ドヤ、面白いやろ!? みたいな感情を操れるようにしましょう」


【えぇ……?】


 ちなみに肉声以外は感知しない。そのため録音で激うまギャグを持ってきても意味はないのだ。


「次に、この扉はわりと単純です。バラエティー番組の手法で乗り切れるんですね」


【バ、バラエティ……?】


「誰かが笑ってると、楽しい気分になって一緒に笑ってしまうんですね。作り笑いとかだとマイナス査定なので気を付けてください。なので『すごいどや声でギャグを言う』から『すごい面白いと思ってる笑い声』のコンボで簡単に開きます」


【あー。たしかにバラエティー番組で笑い声のエフェクト入ってる。あれ、そういう意図だったのか……】

【でも、つまんないギャグにガチで笑うのキツくない???】

【しかもハルくん一人だからできなくない? 自分で笑ってもいいの?】


「さすがに自分で笑ったらだめですね。声を変えて別人を装いましょう」


【えぇ……?】

【ファッ!?】


「つまり①『つまんないことでもいいし、ギャグでなくてもいいからすごく面白いと思って言う』②『それをすごく面白いと思って、違う声で笑う』この工程で開くんですね」


【それができるの狂人過ぎない……?】


 オレはすごく面白いギャグを言っているような声を出す。

「僕は、ハンバーグが大好きです(ドヤ声)」


【なんだこれ……脳が混乱する。何をアピりたいんや。ハルくん……】

【そっか……。ハンバーグ好きなんだ。かわいいね】

【しかもなんか誇らしげな声でいいよる……これがドヤ声……?】


 オレは声色を変えて、声を出す。

 高い女声で抱腹絶倒するような調子で、笑った。

「あっはっはっはっはっは! ははははは! あはははははは!」


【こんな声出せるの!?】

【めっちゃ真顔で笑うから違和感ひどすぎる……】

【映像と音声があっていませんよ? もしかしてズレてますか??】


 女性二人も、なんだかすごい目でオレを見ていた。


 誰一人笑わず、女性も視聴者も『何を見せられているんだ……俺たちは』と思っているような状況だ。


 しかしその中で、扉のレリーフだけがにっこりと笑った。


『君はみんなの人気者。つられて楽しくなっちゃうな』


 そう言って笑い扉は重々しく開きながら続ける。


『素晴らしい笑いのセンスだった……』


【ええ……? 嘘だろ……?】

【なんだ。ここは。笑いのセンスが違いすぎる……】

【異次元の笑いだ……】


「あの扉に意思はなく、同じ入力があれば出力は毎回同じなんですね。ぜひ皆さんも試してみてください」


【できるか!】


「できない場合は、ワライ草などの思わず笑ってしまうアイテムを使うとハックできますよ。あと声色はヘリウムガスでなんとかなります」


【そんなのでできるんだ……】

【すげえ……できそうな気がしてきた】

【でもヘリウムガス吸ったらそのあとずっとやべー声で探索することになるのか?】

【ヘリウムガスは1呼吸分だけ声が変わるだけ。ずっとじゃない】


「さ、開きましたのでどうぞ。お通りください」

 オレが進めると女性二人は「あ、ありがとうございます」とどこか引いたような声で言って、扉をくぐっていった。


 解せぬ。


 オレがしばらく視聴者とトークタイムをしていると、四人組の男性パーティがオレの横をすり抜けていく。


 オレはふと、彼らから嫌な匂い・・・・を感じた。


「お。開いてんじゃん。ラッキー」

「あー。おまえそんなとこ立ってんじゃねえ。邪魔だからどけよ」

「ソロなのに笑い扉通れるなんてありえんもんな。おこぼれが嬉しすぎて立ち止まっちゃったんじゃね」

「ソロはさぁ、隅っこで壁にくっついてろよ。邪魔だから」


 彼らはそんなことを言ってオレの横をすり抜けていった。


【なんだあいつら……すげー嫌な感じ】

【マナー悪すぎ】


 さて、あいつらにするか。

 オレは心に決める。


 別にむかついたりしたわけじゃない。


 あいつらに感じた嫌な匂い――それは人間の血の匂いだった。


 彼らの武器から、人間の血の匂いが微かにした。

 嗅覚に強化魔法をかけたところ、彼ら本人が流した血の匂いとは別の匂いだ。

 

 装備の血はふき取られていたが、かすかな匂いまでは消えない。

 それもわりと最近ついた匂いのように思った。


 あいつらは、RPKer殺人者である可能性が、かなり高い。


 ――さて。少し離れてついていくとするか。


 オレはその男性四人組の後を、見えないくらい遠くから追跡することにした。



 しばらくすると、先ほどの女性探索者二人に近づいてく彼らの姿があった。

 その先には偶然だと思うが、逆さブリッジエクソシスト少女もいた。

 おそらく別のルートから合流したのだろう。



 男たちが話しかけると、女性二人は身を寄せ合っている。

 武器を構えて「近づかないで!」と叫んでいる。


【えっ。さっきの人たちじゃん。大丈夫なの……?】



 オレはコメントの声を聞きながら、現場にゆっくりと近づいていく。


────────────────────────

あとがき


寒くなってきましたね!

キーボード打ってると指が凍える季節です。


そしてようやく久々のダンジョン配信。

……いったいどれくらいぶりでしょうか。


ともかくトラブルの予感ですね!

こんな怖いヤカラの四人組に勝てるのか……。

負けちゃうかもしれない。


ということで、次回もがんばりますのでぜひとも、ブクマ・高評価・コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

評価が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る