第103話 真白さんの調べ物と、封印された話
◆《SIDE:鈴木真白》
真白は驚愕していた。
「ええええええ!? なんでハルカくん、配信してるんです!? というか武祭って今日だったんですか!?」
まさか自分が色々と調べ物をしている間に、連絡もなく、問題の武祭が開催されているなど、想像の外だった。
「ごめんね、お嬢ちゃん。図書館では静かにしてね。夏休みの宿題がんばるのはえらいけど、静かにしないとメッ、だよ」
司書に注意されて、両手を合わせて頭を下げる。
「あっ。すみません。すみません。静かにします」
それにしてもハルカくんめ。
さすがにこれは、ちょっと文句を言わねばなるまい。
真白は決意した。
そしてこっそりと、スマホで配信を見続ける。
「ひ、ひえぇ……」
片手で顔を覆いながら、指の隙間から覗き込むようにスマホを見る。
腕とか足とかポンポン飛んでいる。
ダンジョン配信者はグロ映像が出てもBANされないとはいえ、さすがに刺激が強すぎた。
「あ!」
といって司書さんにジロリと睨まれる。
「沙月さんでた……。がんばれ……」
小声で応援をする。
沙月さんは試合で勝利していた。
よかった。
それからは怒涛の展開だった。
当主から沙月さんが誉められ、その後ハルカくんが乱入。
なぜか向こうの四人組の剣士と戦いになり、ハルカくんが勝利。
また当主とも戦いになった。
「なんかすごいことになってますね……もう大丈夫、ですかね?」
と思いきやどうやら違うらしい。
何か神とか封印とか、よくわからない話をしていた。
山神とやらがいるらしい。
「ううん……広島の山神ですか」
真白は調べてみることにした。
たまたま、本当にたまたま見つけた本にそれは記されていた。
高い位置にある別の本を、頑張ってとろうとしたとき、手が滑って落としてしまった本に書いてあった。
広島の山の神は、人の友だったという。
地元の人を見守り、それに人々は感謝していた。
だがあるとき、山の神が人を裏切り、飢饉を起こした。
突如本性を表した神を、人々が封印した。
そんな内容だった。
◆《SIDE:???》
僕は力のある化け物だった。人は僕を恐れ、神として祀った。
僕は別に人を襲う気などなかったのだけど、まあ敬われて悪い気はしなかった。
人の想いを、信仰を集めた結果、僕は神になった。
僕が、山をふらふらしているときだった。
人間の少女と出会った。
僕は神であることを隠して、彼女と友達になった。
彼女はこの辺りを治める人間の一人娘だった。
しばらく時が経った。
僕は彼女や、彼女の周りの人間が好きになっていた。
友人と遊んで、家族で笑い合って、その姿はとても眩しく輝いて見えた。
ある時、飢饉が起きた。
山の恵みを実らせ、土地に豊穣の加護を与え、僕は友達と、その家族や領民を救おうとした。
僕は、人の手で封印された。
どうして、どうして、どうして。
嘆きと怨嗟が頭から消えない。
僕は封印された場所で、ずっと木々と空だけを見ていた。
過ぎゆく日を数え、どれほど経っただろうか。
なぜ、僕は封じられなければならないのか。
いや、豊穣の力を使った僕を悪く思う神がいるのはわかる。
だけど、どうして僕は、人の手で封印されねばならなかったのか?
友よ。君だけが、反対をしてくれたね。
僕のために泣いてくれたね。
その記憶だけで、僕はできる限り耐えて見せよう。
恨みに囚われぬように。
また長い月日が経った。
赦せないという気持ちと、恨んではならないという気持ちがずっとぶつかりあっていた。
もう僕は限界だった。
神とはいえ、その精神は磨耗していく。
人に讃えられ、裏切られ、祟り神となった例はいくつもある。
僕もまたその一つになりそうだった。
あと一年も、僕の心は持たないだろう。
そう思っていたとき、世界が開けた。
封印が解かれたのだ。
人間を殺したいと、後悔させたいと、僕の心が軋みをあげる。
そんなことをしてはならないと、僕の壊れかかった理性がいう。
僕はもう、この人間への恨みを消せはしないだろう。
でも。
もし人間が僕を覚えていてくれたら。
僕を封印したことを後悔してくれていたら。
もしかしたらこの衝動を抑えることができるかもしれない。
そう思った。
◆オマケ◆
広島の山の神にまつわる昔話
昔々、広島の豊かな山々の中に、人々に愛され、敬われる山の神がおりました。
この神は、村の安泰と人々の幸せを見守る優しい存在でした。春には花を咲かせ、秋には実り多き収穫をもたらし、村人たちはその恩恵に深く感謝していました。
しかしある年、突如として恐ろしい飢饉が村を襲い、人々は飢えと苦しみに喘ぎました。
村人たちは、長年信じ続けてきた山の神が、なぜ我らを見捨てたのかと噂し始めました。
なぜ山の神は怒ったのか、なぜ彼らを助けてくれないのか、誰にもその理由はわかりませんでした。
村の長老たちは、神の怒りを鎮めるために儀式を行いましたが、事態は好転せず、村人たちの不満は高まるばかりでした。
そしてついに、山の神を封印することが決定されました。
神の力を封じ込めるための大がかりな儀式が行われ、その後、不思議と飢饉は収まりました。
――――――――――――――――――――――――
あとがき
ちょっとすっきりしないので、本日二話更新です。
18時ごろにもう一話更新しますので、よろしくお願いします。
高評価、フォロー、コメントでの応援お待ちしております!
もちぱん太郎
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