第94話 神社で伝承とかを聞く話

 オレが向かったのは駅から少し歩いた場所にある神社だ。


 辺りは住宅街ではあるが、神社の中は不思議と静寂に包まれていた。

 石段を登り、鳥居をくぐる。


 小さな拝殿が目に入った。


 拝殿は木造で、やや色褪せているものの、手入れが行き届いている様子が伺える。


 オレは社務所に声をかける。すると、ほどなく老人がでてきた。

 背は少し曲がっており、白くなった頭髪は刈り上げてあった。


「いやあ、よく来てくださいました。お若い方がわざわざ話を聞きたいなどとは珍しいですね」


「いえ。突然ご連絡を差し上げて話を聞かせてほしいなど、不躾なお願いをしてすみません」


「なんのなんの。この場所に興味を持っていただけるなんて、ありがたいことですよ。僕ももう先は長くないからねぇ、僕の知っていることを覚えててもらえるなら、感謝こそすれ、文句を言うことなんかありませんよ」


 そんな、なんと返していいか分かりづらいことを言って、宮司は「はっはっは」と笑った。

 老人の寿命ギャグは笑っていいのかどうかわからない。


「お電話で伺ったんですが、ここ以外の神社も管理されてるとか」


「うんまあ、今はもう宮司が不足しててねぇ。小さい神社なんかはみんな兼務ですよ。そうだ。君も宮司になってみませんか? それで僕の孫と結婚してここを継ぐとか」


「え、ええ……?」


「冗談ですよ。まあ僕の孫はもう38ですからね」


 そう言って宮司はまた笑った。

 続けて口を開く。


「いや、君みたいな歳の人と話すことがあまりなくてね。どう話していいか……。中に入りますか? おせんべいと、おまんじゅうくらいしかありませんが」


 宮司はオレがまだ返事をしていないのに社務所の奥へと引っ込んでいった。


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 オレは出されたお茶をすすりながら、社務所で折りたたみ椅子に座っていた。


「それでですね。えーと、伝承なんかのオカルト話とか聞かせてもらいたいなと思いまして」


「ほおほお。そういう話ですか。白坊主の話なんかはどうでしょう?」


 そう言って彼は白坊主の話を始めるが、小早川も五年後のモンスターも関係なさそうだ。



「……他には、何か不思議な話とかはありますか?」


「うーん。ああ、あれとかいいんじゃないですか。ここから南の海沿いに、海の上に建てられた鳥居があるんですよ」


「海上に鳥居が」


「うん。あれねえ、ちょっと変わってるんですよ。地元じゃ、近くの稲荷神社へ繋がる通り道だ、って言われてるんですけど。でもねえ、わざわざそんな目印をつけなくても、お稲荷さんの場所は見えてますからね。呼び込む必要がないと思うんです」


「……ある必要のない、鳥居ですか」


「そうですそうです。それだけじゃなくて、お稲荷さんは五穀豊穣や商売繁栄とか開運招福、あとは火防ひぶせなんかの神様なんですよ。だけど海の上に鳥居を作るのは、一般的には海の神様や、交通安全なんかの神様の通り道なんです。おかしくありませんか?」


「……たしかに」


「ま、話題作りの観光用に作ったって言われたりもしてます。特にね、鳥居が新しく最近作られたものに見えるんですね」


「まぁ、それなら納得です」

 不思議でも何でもない、ただの町おこしの話になる。


「けどね、僕が若い頃にもあの辺で鳥居を見たんですよ。あのときはもっと古びてて、寂れてましたが。ということは、誰かが補修するか、作り直したってことです。でもね、おかしいんですよ」


「何がですか?」


「だぁれも名乗り出ない。普通、神社やお寺に物を寄進したりしたら、名前を載せるわけなんです。鳥居の端っこに名前を書いたりね。でもそれもない」


「誰がやったかわからない、ということですか」


「そうそう。そうなんです。誰も気づかないうちにいつの間にか、新しく見えるようになってたんですね。ということはあの鳥居は、いったい何の神様が、どこへいくための物なんでしょうねぇ」


 ずいぶんきな臭くなってきた。


「その海上鳥居って、どのあたりに……?」


 老宮司に話を聞くと、答えられた場所は、小早川沙月さんが武祭をしている場所のすぐ近くだった。


「そういえば、あの辺りで、何回か小早川さんとこのご当主さんを見かけてますよ」


「……小早川っていうと、三原に大きな家のある?」


「そうそう。そうですそうです。あそこのご当主、昔はうちの孫といい感じでしてなぁ」


 老宮司の話は止まらない。


「でもある時を境に、突然孫がふられたんですよ。あのとき我が家は結構大変だったんですよ。孫は『苑世えんせいくんは、そんなこと言わない!』と大暴れで。ああ、これを話したら怒られちゃうかなあ。でももう時効だとは思いますが、これは内密にお願いしますね」


「それって、いつ頃のことです?」


「もう二十年以上前ですよ」


「もう少し詳しく、わかりませんか?」


「まあ僕は蚊帳の外だったから、そんなに詳しくはわからないですねぇ」


「では、他に小早川に関する噂とかあったりします?」


「これは地元はみんな知ってるけど、さる戦国大名の直系らしいですよ。あとはいろんなところに分家があるとか。うーん……。あとは、急にご当主が別人になったりしたことがあったかなあ……。それなりに付き合いはあったんだけど、あの時は挨拶もなく別の人に交代してて、びっくりしたなあ」


 ……武祭で入れ替わった、とかあるか?

 小早川の人間から話を聞く限り、武祭で死亡した可能性がありそうだな。


「……なるほど。ありがとうございます。助かりました」


「いやいや。僕のほうこそ若い人と話せて楽しかったですよ。よかったらもうちょっと話していきませんか?」


「……ちょっと用事があるので。本当にありがとうございました」


 オレは立ち上がり、一礼をして歩き出す。

 老宮司の言葉を背に受けながら、決闘が行われている地へと歩を進めた。


「山の神なんて話はどうです? 面白いですよ。『追放された山の神。後悔してももう遅い!』。これはなかなか不思議な話ですよ」


 オレはこの老宮司は、老人なのにかなり未来に生きてるな――と思った。

 そういった感じのタイトルが未来で流行していたからだ。


 オレは老宮司と話しながら、沙月につけたドローンから聞こえる音声を頭に流していた。

 どうやら沙月は龍之介を倒し、次の試合へと向かうようだった。




   ◆《SIDE:???》


 努力しても――努力しても――たどり着けなかった。


 剣とは何より尊い物と教わった。


 自分も何を犠牲にしても強くなるべきだと思った。


 だから自分のすべてを犠牲にした。


 自分の時間も、家族も、愛情も、友情も、強くなれるなら何も要らなかった。


 剣以外の才能ならある――そう言われたが、そんなものはいらなかった。

 ただ剣さえあればよかった。


 自分が証明する機会が欲しかった。

 だから平身低頭して機会を手に入れた。


 けれど、ダメだった。


 だから考えた。

 どうしたら自分が強くなれるかを考えた。


 一つだけ思いついたことがあった。

 通常ではできないようなこと、でも自分にはそれを為す才能があった。

 そんな才能などいらなかった。


 ひとかけらとていらなかった。

 容姿、知能、そのほかすべての才能、すべて底辺でよかった。

 ただ剣の才能だけが欲しかった。


 だから、それを、手に入れることにした。




────────────────────────

あとがき


情報ばらまき回です~。

ばらばら!


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価・応援コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

評価が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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