第91話 潜入! 小早川本家!
オレは駅から少し離れた場所にある小早川本家のすぐ近くまで来ていた。
雰囲気は東京の武蔵小早川櫻家に近い武家屋敷である。
なのだが、敷地はことさらに広かった。
人の気配のない塀を軽く飛び越え、敷地内に潜入した。
――嫌な臭いがするな。
小早川家で村上翁からした臭い、また武祭について話そうとした小早川沙月さんや、上総小早川兄弟からも感じられた類の臭い。
それを数百倍に濃くしたようなものだった。
オレは人の気配を避けて、その嫌な臭いが濃くなるほうへと向かった。
ダンジョンで気配を殺して忍び歩くこともあったため、屋敷に忍び込むことなどお手の物だ。
勝手口と思しき場所から、武家屋敷の中へと入りこむ。
台所で料理の仕込みか何かをしている気配があったため、そこを避けて奥へ奥へと進んでいく。
木製の階段を上がる。
さらに奥に、締め切られた
手をかけて中へと入る。
薄暗い部屋だった。
窓も何もない、ただ締め切られ隔離されたような部屋だ。
よくよく見れば、奥に一つ扉があった。
まるで隠されているかのように見えにくい。
部屋の中には様々なものがあった。
それらのほとんどから、鼻につく嫌な臭いがする。
神棚があり、そこには神具が飾られていた。
悪い気を浄化させるという榊が飾られている。
しかし榊は紫に変色し、腐ったような臭いを漂わせている。
中央には台座があり、何かが祭ってあった形跡がある。
しかし、今は何も置かれていない。
他には御符、硯、筆、墨。鏡に桜の枝など。
それらはそのほとんどが、陰陽術の道具であった。
「えぇ……? 小早川さんちって武家じゃなかったのか?」
この部屋だけ完全に陰陽師風である。
しかもなんか、悪い感じの奴だ。
絶対ロクなことしてないじゃん。
壁に飾られてある醜悪な絵が目に入った。
昔の日本画のようなタッチである。
オレはその絵を見て、少し嫌な気分を覚えた。
枯れ木が立ち並ぶ荒涼とした背景に、枯れ木の間から一本の新しい木の芽吹きが見える。
絵のあちらこちらに、武士の死体が転がっている。
中央に一人の武士が立っており、紫色に輝く太刀を持っている。
壁には鬼神が描かれ、武士たちを見つめている。
絵の隅々には散りゆく花びらが舞っている。
獣の頭と人の身体を持つ存在が、数体ほど絵に配置されており、まるで戦いを審判しているようにも見えた。
絵の端に小早川闇水画と記されていた。
部屋の隅にいくつかの壷があった。
近づいてその壷の中身を見ると、血のように赤い球体があった。
大量に入っている。
飴玉のように見えなくもない。
その球体の中で、何かが、もぞり――と動いた。
中身はおそらく、血蟲の幼体だった。
オレはロクなことに使われないだろう血蟲をアイテムバッグの中に回収し、代わりにモンスタードロップの飴玉を中に入れておいた。
拾ったはいいものの、マズいだけであり、未来ですら使い道が『罰ゲーム』くらいしかなかったものである。
その時、奥から気配がした。
部屋の奥から、扉を破り、巨大なムカデのようなものが現れた。
それは明らかに魔素を周囲にまき散らしており、陰陽系の術式の気配がした。
――こんな存在がいたり、いまだに陰陽の道具が置いてあったりするところを見ると、小早川家には確実に陰陽の技を使うものがいる。
巨大なムカデは、ダンジョンモンスターで言えば、オレが昔小早川沙月さんを助けるために倒したゴブリンの特殊個体に匹敵する。
巨大ムカデはアギトをギチギチと鳴らし、襲い掛かってきた。
しかし――しかしである。
オレはあの後モンスターを倒しレベリングをし、さらに横浜で特級精霊すら倒しまくった。
レベルは相当なものになっている。
オレは壷の中に入れたマズい飴玉を拾い――魔力を込めて指先ではじいた。
指弾である。
本来は石やコインを使うが、飴玉でもよいのだ。
ダンジョン産のクソマズい飴玉はムカデの口の中へと飛び込み、そのまま貫いた。
頭部を破壊されたムカデはそれでも身体を動かしていたが、次第に動きが鈍くなり、止まった。
『さっきの音はこっちからだ!』『早く行くぞ!』
そんな声が外から聞こえてきた。
入り口のすぐ近くには、数名の人員がやってきている。
そのまま出られなくなったオレは、近くの壁を蹴破って逃げたのだった。
◆《SIDE:鈴木真白》
若干、入り口で不審な目で見られたものの、真白は無事に国立公文書館へ入ることができた。
読みたい資料の申請をして、閲覧室で読むという作業が必要になる。
「御座所御前試合之覚書」
「寛永御前試合録」
「大試合絵巻・御前の段」
「将軍御前試合詳細」
「江戸城内武試合之記」
というタイトルの本やら巻物を確認した。
ハルカがなにやら、御前試合が関係あるらしいと言っていたので、それらを中心に読んだ。
どうやらこの江戸で行なわれた御前試合はトーナメント方式であり、一回で何戦もするようなものだった。
元和二年の御前試合において、小早川久兼は初陣にて不覚を取り、早々に退場せしめられたり。
元和六年、御前の勝負に於ける初陣、小早川元重、一本目にして敗れ去る。
寛永三年、小早川闇水、武芸の場にて見せしは、非業の弱さ。故に、初陣に立つや否や、あえなく敗退の憂き目に遇う。
小早川はあまり強くなかったようで、そりゃもうボコボコに負けていたようだ
もしかすると、このような場所に出てくるだけで強者なのかもしれないが。
――それにしても、この小早川闇水っていう人の書かれ方はひどいですねえ……。
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