第90話 眠い沙月と調べる真白

 オレは翌日の朝早くから、小早川沙月さんと新幹線に乗って広島へと向かった。


 小早川沙月さんの妹と弟たちは、夜遅くまで起きていたらしく、朝は起きることができないようだった。

 小早川沙月さんは、湿っぽくなりそうだから、と、起こさないでいくことを選んだようだった。


 夜に少し雨でも降ったのか、霧がかっている。

 隣を歩く彼女は、出入口の門から少し離れると、自分の屋敷に向かって深く頭を下げた。




 新幹線のぞみ博多行きに乗って、現地へと向かう。

 小早川沙月さんも昨日はあまり眠れなかったようで、新幹線の中でうとうとしていた。


「眠いなら寝てていいよ。ついたら起こすから」


 オレが声をかけると小早川沙月さんは、「でも」と一瞬言った後、首を横に振った。


「……すみません。し――ハルカさん。お願いします。少し、だけ……」


 言い終わる前に小早川沙月さんは、かくん、と意識を失った。

 目を瞑って、すうすうと寝息を立てている。


 寝ている姿は、カタナを振っている凛々しい姿とは程遠く、年相応の可愛らしい姿だった。



「――あ、富士山」


 オレはそんなことをつぶやきながら、窓の外を見ていた。

 ゆっくりと新幹線に乗って遠出するなんて、どれくらいぶりだろうか。


 物思いに耽っていると、いつの間にか目的地の近くまでやってきた。


「小早川沙月さん。起きて。もうすぐだよ」

 声をかけてみるが、反応はない。

 口を半開きにしながら、にへら、と笑っている。


 ――警戒心を置いてきたのか?


 オレは肩をゆすりながら声をかける。

「小早川沙月さん。起きて」


「んぅ……。うん、起きたぁ……」

 彼女はうっすら目を開けてそう言った後、また瞑った。


「もうつくよ」


「起きて、りゅ、よぉ……」


「いいから起きろ」


「…………うん。起きたぁ」


「起きたんだな? じゃあもういいな?」


 かくん、と彼女の首が動く。

 すぅ――という寝息が聞こえ始める。


 ――この人、寝てるときを狙われたら、一瞬で死ぬんじゃないか?


 オレは他人事ながら不安になってしまう。


「いいから、起きろ。小早川沙月さん!」


 そうしているうちに、経由駅についてしまった。


「ああ、もう。仕方ない人だな……!」

 オレは彼女を抱きかかえると、そのまま新幹線を降りた。


「んん……。おしゃかなしゃん……」

 何かいい夢でも見ているのか、小早川沙月さんは幸せそうに笑っていた。


 ため息。


 オレは人の少ない駅のホームで、小早川沙月さんに向かって殺気を飛ばしてみた。

 すると彼女は目を見開き飛びのく。

 マジックバッグからカタナを抜き、構え、辺りを見回していた。


「……武器しまって。ついたよ」


 彼女は少しぽかん、としたあと、視線をさ迷わせ駅名の記された看板を見た。


「……ほんとだ」


「ほんとだ、じゃないよ。いつもそんな感じなのか? よく生き残れたな」


 いうと彼女はすぐカタナをしまい、言い訳をするように言った。


「いや、えっと。いつもは、こんなんじゃないんですよ? ほんとですよ?」

 少し気まずそうな顔だ。


 オレは沙月さんとそこで電車を乗り換え、三原駅へと向かった。

 その途中でいくつかの話を聞き出した。




 小早川家の武祭は、小早川本家のあるこの広島県三原市で行われる。

 正直オレはこの武祭について何も知らない。

 10年後から来たというアドバンテージはあるものの、こんな祭りが行われているということは守備範囲外だ。


 だから少し調べようと思う。


 武祭を止めないのか? ということも少し思った。

 だが彼らが、オレやオレにかかわりのある人間を巻き込まない以上、オレには関係のないことでしかない。


 彼らが望み、彼らが勝手に行うのならば、それこそ勝手にしろ――という話ではある。

 ――そうなのだ。


 だがオレはバズのために、少し情報を仕入れようと思う。

 小早川沙月さんに先ほど聞いた、小早川本家の場所。

 そこに忍び込めば、何らかの情報が落ちるのではないだろうか。


 小早川家が勝手にやっているとはいえ、武祭は確実に犯罪ではある。

 警察を呼ばれることはないだろう。




   ◆《SIDE:鈴木真白》


 真白は図書館などを当たり、調べるうちに、小早川家の人間が若くしてなくなっていることが非常に多いことがわかった。


 古いゴシップ誌などにも、そのことが取り扱われていた。

 次の号を調べようとしたら、なぜかそのゴシップ誌はその号を最後に廃刊になっていたが。


「うーん……難しいですねえ」


 真白は自分の近くに積まれたたくさんの資料を読んでいた。


 すると、声をかけられる。

 声をかけられた瞬間、少し嫌な顔をしてしまった。


 それはこの図書館の司書さんだった。


「見つかったわよ。真白ちゃん」


「ありがとうございます」


 この司書さんに助けてもらって、感謝はしている。

 そう、感謝はしているのだ。


「それにしても、えらいわねえ。こんなにちっちゃいのに、わざわざ図書館でこんなに難しい本を読んで……」


「は、はい。ありがとうございます……」

 声が少し震える。

 訂正したい。

 だが、先ほど訂正しても信じてもらえなかった。

 それに、そんなことで問答している時間が無駄だった。


「学校で新聞でも作ってるのかしら。わたしも若いころはつくったわねえ」


「ふ、ふふ。そうなんですね……」


 真白は司書さんの昔話を聞き流しながら、資料を当たる。

 それから尋ねる。


「あの、昔の御前試合の記録とかって、あったりしませんかね……? 江戸あたりとかの」


「うーん……。その辺りは、この図書館にはないわねぇ……。もしかしたら、公文書館にいけばあるかもしれないけど」


 でも、と司書さんは続ける。


「でもあそこは、二十歳以上の人しか入れないのよねえ……」


 司書さんは残念そうに言った。


 だが、真白は二十歳である。


 国立公文書館に入ることが――できるのである!


 真白は国立公文書館へ行くことにした。

 ネット民には『お姉ちゃんのものだろ』と一切信用してもらえなかった、自らの保険証を携えて。




   ◆オマケ 真白さんの発見した三流ゴシップ誌◆


誌名:『週刊ミステリースクープ』

記者名:疾風ゴン太

掲載年月日:1983年10月10日


 小早川家に纏わる子どもの怪談、真実か幻か!?


 皆の衆、この不思議なる話に耳を傾けよ! 昔ながらの品格を守り続けると言われる名家・小早川家の邸宅近くで起きている、耳を疑うばかりの奇怪な噂を「週刊ミステリースクープ」が独占入手したぞ!


 何処からともなく、見知らぬ子供が小早川家の近くで遊んでいるという。まるで幽霊のようだと村の子らは騒ぎ、しかし小早川家はその存在を頑なに否定。ある日を境にその子供の姿を見なくなったという。そして、昔から同じような話が何度も出ているとか!


 果たして子供は同一人物なのか? であれば歳をとらぬ幽霊なのか? それともまったく別の子供なのか?


 小早川家では若くしてなくなる者が多いという。まさかその怨霊が、という話も聞こえてくる。


 この手の話、信じるか信じないかはあなた次第。だが我々「週刊ミステリースクープ」の記者・疾風ゴン太は言いたい。真実はいつも一つだと。そしてその真実は、いずれこのページで明らかにすると!


 皆の衆、この謎に満ちた物語を心に留めておくのだ。次号では、もっと深く、小早川家の秘密に迫るぞ!


 掲載は1983年10月10日。この日を忘れずに、その目で真実を確かめよ!


 乞うご期待!






────────────────────────

あとがき


沙月→眠い。

たぶん安心しきってます。


真白→頑張って探す。

えらい。


三流ゴシップ誌がそれっぽいものに見えたら、ブクマ高評価よろしくお願いします!!


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価・応援コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る