第83話 動画を見て驚く回

 オレは横浜に真白さんと行った翌日、自分の動画チャンネルをいじっていた。

 チャンネル説明の追記やら、投稿済み動画のリスト化などだ。


 そんなことをしていると、ふと流れてきたおすすめ動画が目に入った。

 かなりバズっているようだ。


 なんとなく見覚えのある綺麗なお姉さんが映っている。

 彼女は説明によれば、精霊術師らしい。


 ダンジョン動画のようで、パーティでダンジョンに潜っている姿が映っていた。


『以前、悪口で精霊を撃退する方法が話題になったわよね! ハルきゅ――かわいい高校生が見つけてくれた手法で、お世話になっている方も多いとは思っているわ!』


 お姉さんは言葉を続ける。


『そこから考えを発展させて、精霊ともっと上手くやる手法を思いついたの!』


『でておいで! 中級風精霊シルフ――!』


『何用か? マスター。私は今、歌いながら戦う覚悟の決まった少女たちを鑑賞するので忙しいのだが』


『モンスターが出たの、やっちゃってくれない?』


『……少しだけだぞ』


 現れた風精霊は、面倒くさそうにモンスターに風の竜巻を放つ。

 まあ、普通の威力だった。


『はい。ここからが見どころよ、視聴者さん! シルフ! あっちにもモンスターがいるわ!』


 シルフは面倒くさそうな様子で呟く。


『フ……やれやれだぜ』


 シルフがそういった隙に、美人なお姉さんが口を開いた。


『……さすが、シルフさん! そのセリフ――かっこよすぎるぅ!』


『……なんだと? しかしこれは私のオリジナルではない。とある偉人の受け売りなのだ』


 謙遜しているシルフの、精霊力が高まっていくのが見える。


『知らなかった! 詳しいのね!』


『ははははは! そうだろう! そうだろう! しかし君が私を褒めるなんて、珍しいこともあるものだ! 確かに君は教養が足りないからな! 君から見たら私は大変すばらしい存在だろうな!!』


 お姉さんの口が小さく動く。唇から読めば『落ち着け私。落ち着くのよ』と言っているように見える。

 しかしお姉さんの口から出た言葉は別の言葉だった。


『すごい……!! 私じゃ追いつけないわ……!!』


 シルフが放った竜巻が急速に拡大し、周囲のモンスターを飲み込んでいく。


『そうだろう! 私のようになりたければ君も少し教養を学びたまえよ! ハーハッハ!』


『センスあるぅ! 憧れちゃうなー! かっこいいなー!』


 竜巻が二つに分裂し、それぞれが大きく膨れ上がる。

 もはやモンスターは全滅しており、何もいない場所で竜巻が荒れ狂っている。


『はーはははは!! 教養はいいぞ!! 教養は人生を豊かにしてくれる!!!』


『そうなんですね!!! すごいなー!!!!』

 もはや綺麗なお姉さんは雑にそう言っていた。


 シルフの精霊力が集約し、一気に高まる。

 シルフが光り輝いた。


『う、うおおおお! 身体が、熱い……!』


『え!? うそでしょ……!?』


 光が収まった後には、まるでソシャゲでSRからSSRになったかのように装いが豪華になったシルフがいた。


『感謝する。君が、教養の価値を認めたことで、私の存在の力もまた高まったようだ……これが教養の力か……』


『あ、はい』


『自分で変われるのが人間の強さだ……』


『まさか、あなた、存在進化したの……? うそ? 上級精霊になってる……?!』


『ちなみに教養の足りない君に教えてやるが、今のセリフは――あ! 待て! 送還するな! おい! お――』


『ということで、褒めまくってみたら精霊は強くなるのか――検証結果! 大成功よ! それにしてもまさか、階級まで上がるなんてね……』


 お姉さんは、褒めの『さしすせそ』が大事なのだと解説していた。


『さ』すがですね。

『し』らなかった。

『す』ごい。

『セ』ンスある。

『そ』うなんだ!


 オレはその動画を見ながら思う。

 こんな動画は、未来ではなかったはずだ。

 そもそもこの技法が技法として確立していなかった。


 となると、未来でも存在しない技法を、この女性は編み出したことになる。


「……すごいな」


 しかも、精霊の存在進化までさせるなんて。

 稀に精霊の存在進化が起きたという報告はあったが、その条件は謎に包まれていたはずだ。


 動画の最後に女性は『ハルカくん! 君のおかげだよ! ありがとーーー! 大好き!』と言っていた。

 確かに元となった人物にリスペクトを呟くのは、炎上対策として一定の効果がある。




 そしてお姉さんの動画は終わり、次の動画に切り替わる。


 個人がとった画像の提供を受け、テレビニュース風に配信している動画だった。


『こちら横浜で、死体が発見されたという視聴者からの動画が届きました! これがその映像です!』


『うわぁ……ひどいことになってますね』


『たくさんの傷があって……うわぁ』


 素人感の強いリアクションが、その死体の凄惨な様子を際立たせていた。

 モザイク処理もされていないことから、このチャンネルか動画は早々に削除されることになるかもしれない。


 首が切り離され、身体の横に転がっている。

 それは、長いツインテールの、昨夜見たばかりの少女だった。

 もはやどうみても生命活動をしていない。


 たしか昨日戦っていた相手の男は鎖鎌を使っていたはずだ。

 だが鎖鎌による傷跡は見当たらない。

 いくつかの刀傷。

 殺したのは別の人間だろう。


 それからしばらく、横浜だけでなく様々な場所で死体が発見されたと、ネット上で話題になっていた。

 関東以外でも――日本中多くの場所で死体が見つかったり、争いがあったという報告があった。

 だがその書き込みが事実であるか否かを判断はできなかった。




 小早川沙月さんから手紙が届いたのは、その翌日だった。

 この時代に、わざわざ直筆の筆で書かれたように見える手紙だ。


 これはその要約である。


『遥さんの事務所に入りたいといった言葉、取り消します。今までありがとうございました。とても楽しかったです。あなたは嫌がるかもしれませんが、これからもあなたは私の心の師匠です』



 ――なんだっていうんだよ。


 先ほど死んだとされる少女や、昨日の鎖鎌を使っていた男。

 そのどちらもが、少しだけ、小早川沙月さんに面影が似ていた。


 偶然ならばいいが、おそらく何かしらの関連があるだろう。


 以前の世界線で、辻斬りがでたとかいう話があったはずだ。

 あれはたしか、今頃の時期だ。

 だが今の状況を思うとただの辻斬りではないようにしか思えなかった。



 絶対に何かに巻き込まれている確信がある。

 しかし彼女はオレの弟子でもなければ事務所のメンバーでもない。

 近くにいるわけでもないし、助けることで何か得があるわけでない。

 救う理由など何もないはずだ。



 だからオレは放っておくことにした。



 けれど――。


 けれど、だ。


 彼女には半日稽古をつけるという約束をしている。


「だから仕方ないよな」


 オレはそう理由をつけて、家を出た。


 まず向かったのは彼女の実家だ。

 東京の郊外にある広い敷地の家だった。


 昔ながらの旧家、という風情の屋敷だ。

 木製の大きな門の隣に木の看板が掲げられており『武蔵小早川櫻家』と記してあった。

 なんとなく、この家全体から良くない空気を感じた。



────────────────────────

あとがき


ちょっと鼻スパ姉動画の話です。

蛇足気味だったら申し訳ない……!


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価・応援コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

★が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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