第78話 一分でできる離間の計

「はい。ここでカメラを飛ばします。現場の月子さーん!」


 オレがいうとプロジェクターの映像が切り替わる。


『ハッハッ……!』と荒い声が聞こえる。

 すごい勢いで月子が走っていく。画面はもうブレブレだ。


「聞こえますかー?」


『聞こえるぞ主! 今から、現場に突入する!』


 小型カメラをつけた月子がいかにも夜の店といった雰囲気の扉の中に突入していく。

 ピンマイクが月子の首元に刺しているあるため、犬の荒い息遣いが入りまくっていた。


 そこは先ほど撮影されたキャバクラの中である。

 一角から叫び声が聞こえる。


『神崎! あの野郎!!!』

 スマホを見ながら叫んでいたのは、高校生探索者グループの一人だ。

 そう叫んでスマホを放り投げる。

 リアルタイム――といいつつ十数秒ずらしているのは内緒だ。

『俺たちを売りやがった!! あいつが、俺たちに先に声をかけてきたのに!!』


 店内に犬が乱入し、スタッフたちは大慌てだった。

 だが、高校生探索者たちはそのことにかまけている余裕はないようだった。


 彼らは『悪いことをしている自覚』があるためか、ずっとオレのチャンネルに張り付いていたようなのだ。

 オレが例の件について配信をするということであれば、見ないわけにはいかないだろう。


「もうお分かりかと思いますが、これはリアルタイム配信です! ダンジョンの発見権を主張する高校生探索者の、生の姿です!」


『指示したのあいつじゃねえか! YouTudeでハルカを叩けって!! なんで俺らのこと売ってんだよ!? 意味わかんねえ!』

『全部ぶちまけてやろうぜ!!』

 などと憤る高校生探索者たち。


『お、おい! スマホ見ろ! 俺たちの映像流れてるぞ!?』

『あの犬だ! 捕まえろ!』


 コメントは【え? どういうこと?】とざわつきはじめている。


「はい。ということで、高校生探索者たちを煽って嘘の証言をさせたのは――今日のコラボ相手の神崎さんでした!」


【高校生たちは、指示されて発見権を主張してたってこと……?】

【その黒幕がそこの神崎ってやつ……?】


『ハッハッ……!』

 月子は彼女を取り押さえようとするスタッフたちを悠々と回避し、そして隙を見て止まり、高校生たちの映像と音声を届け続けた。


『おい!――』




【え……。この炎上騒動、神崎って人の仕込みってこと?】

【草生える】


 突如、オレは肩を掴まれる。

 すごい形相になった神崎が、人を殺しそうな目でオレを見ていた。

 だが、すぐに平静を取り繕う。


「いや、ここまでするんですか? ハルカくん。今のヤラセですよね? 彼らのことを私は詳しく知りませんから、何とも言えないですが。最初から仕込みか、それとも途中で脅迫か、金で転ばせたか……」


「ああ、なかなかやりますね。そういうことにすれば、視聴者に真偽は判らない……。さすがに頭の回転がなかなかお早い」


「ハルカくんこそ、やり口が薄汚いですね。そうやって登録者を増やしたんですか?」


 オレと神崎は二人で笑みを浮かべた。


「じゃあいいですよ。神崎さん。次に行きましょう。次。まだ用意してあるんですよ」


「やれやれ……。またヤラセか捏造か。私に探られて痛い場所など、何一つありませんからね」


 オレは視聴者に向かって手を広げる。


「こちらは、リゾート反対派の人たち! 彼らの公開している動画をちょっと加工したものです!」


 次に流れたのはリゾート反対派の地元民の動画である。

 これは彼らが自ら公開している動画を貼った。

『リゾート建設、はんたーい!』

『地元民の迷惑を考えろー!』


 そしてテロップ。

《彼・彼女たちは、地元の山を大切にする地元民――しかし、一つだけ秘密があった》

 ドーン! という効果音とエフェクトが入る。

《この地元民の住所は――栃木ではないのである》

 一人が出てくるシーンになり、効果音とともに、彼らの住所である地名が出てくる。


《東京》


 次の反対派が現れる。


《大阪》

《茨城》

《福岡》

《長野》《青森》《静岡》《奈良》《鳥取》

《広島》《広島》《広島》

《千葉》《滋賀》《佐賀》――。


「何をとは言わないんですけど、ちょっと思いついた地名を入れてみました!」

 彼らの居住地である。


 そこに、動画のコメントでアドレスが貼られた。


「おや……? なんかアドレスが貼られていますね?」


 それをオレは開いて一人だけで確認する。


 まぁ確認するまでもないのだが。

 これはオレの仕込みである。


 そのアドレスの先にはリゾートホテル反対派の顔写真とともに本名、年齢、住所、国籍などが書かれていた。

 また別の市民団体などに所属している方は、そちらの公式ページもリンクされている。


「ああ。これはマズいアドレスですね。ちょっと開かないほうがいいかもしれません。事実か虚偽かはわかりませんが、プライバシーに関わるやつですね」


 言いながらスマホをするする動かして確認していく。


「うわーーー。マジか。これマジかぁ……。ホントだったらヤバいですね。うわぁ……」


【マジで何が書かれてるんだそのアドレス。ちょっと開いてみるか……】

【ヤバ……。栃木県民皆無やんけ。地元の反対派ってなんやったんや】

【ハルカがさっき書いたテロップと住所が一致してて草生える】


 OK。

 お互いノーガードで殴り合おうぜ?

 片方だけ匿名なんて、ズルいよなあ?

 オレは本名も住所も割れてるんだから、そっちも割れてイーブンだろ。


【これって本当に相手の情報なの?】


「ああ。ごめんなさい。オレからは何も言えません……。オレが言ったら名誉棄損になる可能性があるので。あとは察してください」


【ホンモノっぽくて草生える。オレは最初からハルカ信じてたで!】

【オレも信じてた】

【私は本当に信じてたし!】


 神崎は平静を装いながら、口を開いた。

「それで、リゾート反対派と私に何の関係があるって言うんです? 彼らが偽の地元民だからといって、私は何一つ関係ないんですがね」


「そうですか。じゃあ、あなたが折れない限り、まだまだ行きましょうか。神崎さん」


「ハルカくんって陰謀論とかお好きでしょう? 裏ですべてがつながってるなんてこと、あるわけないというのに。そういうのお好きな方っていらっしゃるんですよね」


 オレは容赦なく、動画の続きを公開していった。


 神崎は頬に汗をたらしながら、しきりに外を気にしていた。

 ちなみに神崎が逃げ出さないように、このスペースは簡易結界で包んである。

 制限時間からして、もうすぐその結界は外れるはずだった。



 しかし、思った以上に火は燃え広がりそうだ。


――炎上させていいのは、炎上する覚悟のある者だけだ。

 と思いついてはみたが、やっぱり炎上する覚悟があっても他人を炎上させることはよくないことだ。




   ◆《SIDE:リゾートダンジョン反対派》◆


「ちょ、ちょっと大変よ! 林さん! 私たちの住所と名前が……!」

 一人の女性が仲間に電話をかけていた。


『だ、誰も信じないわよ、そんなこと……』


「で、でもほら、NPOグリーンミラクルとか、生き物愛護団体ハートフルネイチャーとかも全部つながってるわよ。それにあっちは私たちのウェブサイトだから……」


 すなわち絶対に確定ということだった。


 彼女たちはプロ市民を名乗り、様々な利権を食い荒らしていた。

 正義の名を名乗り、企業を脅迫したり、補助金を受け取ったりして力を蓄えていたのだ。


 でもそれももう終わりだ。


「さ、佐藤さんのときみたいなことになっちゃうんじゃないかしら!?」


『無理! 無理よ! 大丈夫よ! 余計なことを言わないでくれる!? あなたがそんなこというから、本当にそうなっちゃったらどうするの!? あなたのせいよ!』


「はあ!? 私は最初からやめようって言ってたわよ!? それなのにアンタが……!!」


 そんな言い合いが、彼女たちのグループで複数起きていた。





   ◆オマケ プロ市民グループの輝かしい実績◆


【NPO グリーンミラクル】

活動内容: 水源地域の保護を訴える団体。大企業の工場排水が自然環境に悪影響を与えているとして、企業に対して改善要求を行う。

方法: メディアを利用して問題を大きく取り上げ、企業のイメージを悪化させる。補助金や寄付を集めるために独自の募金活動を行う。


【生き物愛護団体 ハートフルネイチャー】

活動内容: 野生動物の生息地を守るための活動を行う団体。建設予定地が動物の生息地であると主張し、建設中止を求める。

方法: SNSを活用して独自の調査結果を拡散。企業に圧力をかけると同時に、支援者からの資金援助を募る。


【エコファイト・ネットワーク】

活動内容: 環境汚染の防止と持続可能な社会の実現を目指す団体。特定の企業が環境に対して負の影響を与えているとして、その企業に改善を要求する。

方法: 環境問題に敏感な有名人を巻き込み、企業への圧力を強める。同時に、ウェブサイトやイベントを通じて寄付を募る。



────────────────────────

※2023/10/29 内容を変更しました。


あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価・応援コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

★が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!



次回――火だるまたちのお楽しみ会

※予告はテキトーです。そうなったりならなかったりします


お楽しみに!



もちぱん太郎

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