第77話 とっても楽しいコラボ配信!

 唐突だが、オレに――家族ができた。


 先日オレは『架空の叔父』を作り上げて神崎を狼狽させた。

 だが今回は架空ではない。


 実在の人間だった。


 こんなタイトルの動画が投稿され始めたのだ。


【皆様にお詫び申し上げます。私はハルカの兄として、弟が引き起こした騒動について、心よりお詫び申し上げます】


【この度は兄が引き起こした問題でご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございません。私、ハルカの弟として深く反省し、お詫び申し上げます】


【私はハルカの姉として、弟がお騒がせしてしまったことをお詫びいたします。ご迷惑をおかけして申し訳ございません】


 これらは騙りであり、再生数を稼ごうとする迷惑系YouTuderの涙ぐましい策略であった。


 オレは半笑いでその動画を見ながら、自分の動画を作成した。

 材料は璃音が集めてきてくれたものである。


 ついでにまた宿題の映画が相当数増えてしまった。



 ネット上ではダンジョンをリゾートにしようとしたYoutuderのH氏、私腹を肥やすのに大忙し。などと盛り上がっていた。

 それらに反論してくれる人もいるようだったが、興味半分で見に来た人は、悪人を叩くという娯楽に夢中になっていた。


 オレにダンジョンの発見権をとられたと主張している高校生グループは、『僕たちは皆さんに無料で使ってほしかったのに、ハルカにダンジョンをとりあげられた』と主張し、善人を気取っている。


 ダンジョンリゾート反対派の自称地元民たちは、『いつもあの場所は散歩に使っていたが、ハルカが入手してからは道を通ることすら禁止された』と主張し、オレを更なる悪人に仕立て上げようとしていた。



 オレは彼らの主張はできるだけ目を通した。

 彼らに効くのはどういった内容だろうか?


 材料は璃音が持ってきてくれた。スーパーでちょっと買ってくるくらいの感覚で、大量の動画や個人メッセージなどを持ってくるのは、もはやチートじみていた。




 そして、とうとうお祭りの日が来た。

 初めてのコラボ配信である。


 せっかくなので、配信用にスタジオを一つ借りてみた。

 オレはフローリングの床の一室に来ていた。

 配信機材の用意をしたり、プロジェクターの用意をしたり、いろいろな準備を終えてしばらくの時間が経った。


 そこで、配信スタジオのドアが開く。


「お待たせしました。風見さん。昨日送った台本に目は通していただけましたか?」

 エリートサラリーマンといった風体の、神崎誠が現れる。


「神崎さん。オレの事はハルカと呼んでください。風見って言われてもみんな判らないと思うので」


「ええ、わかりましたよ」

 神崎は上機嫌に答えた

 彼の黒髪は、いつもよりもジェルでかっちりと固められていた。

 スーツやネクタイもいつもよりも仕立てがよく見える。


「神崎さん。今日はいつもよりも服装がキマってますね」


「わかりますか? 特別な取引先や特別なパーティに行くときのスーツですよ。この時計もいいでしょう?」


 彼が嬉々として時計を見せてくる。

 オレはそれを見て、ガチで高い奴だ――と思った。

 前回の世界線でちょっと勉強する機会があったからわかる。


 フロストミュラー『エレガンス シリーズ 1815』。

 18金ローズゴールドのケースと純白のエナメル文字盤で、優雅さを現している。

 細身の針とローマ数字のインデックスがクラシカルな美しさを際立たせ、裏蓋の透明なサファイアクリスタルからは精密なムーブメントの動きが伺える。

 深いブラウンのアリゲーターレザーストラップが、その豪華さを一層引き立てている。


 定価五百五十万。


 ネクタイスーツ、靴もそれに見合ったものだろう。


 もしかしたら、彼は配信に出るということをかなり楽しみにしていたのかもしれない。

 彼が送ってきた台本は、オレの株よりもむしろ彼の株をあげるような内容となっていた。


「素晴らしい時計ですね。それに、これで神崎さんもYouTudeデビューですね……。これから、有名人になっていっちゃうかもしれませんね」


 いうと神崎はフ、と嬉しさを隠せないように笑った。

 心拍数が上昇していることを、探索者としてのオレの能力がとらえる。

 相当楽しみにしているようだ。


「ええ。あまりこういう場に出たくはないんですけど、まぁハルカさん、いや、ハルカくんのためなら仕方ないですね」


 神崎はちょっと恩着せがましく言った。


 オレたちはそのまま、配信の打ち合わせをしていく。

 神崎はオレが台本を記憶しているか、かなり念を押してきた。


 大丈夫だよ。全部覚える。


 ほんのちょっとアドリブをいれたりするかもしれないけどね。

 でもほら、サプライズってみんな好きだし、喜んでくれるといいな。




「では、そろそろ配信の時間ですよ。神崎さん」




「ええ。失敗しないでくださいよ。ハルカくん」


「では、行きますよ」

 オレはカウントダウンをして開始する合図をした。


「みなさん、こんにちは。ハルカです」


 オレは頭を下げる。


【死ね! 金の亡者!】などという罵倒コメントがくる。オレは気にせず、台本を読み上げた。


「今日は大切なお知らせと、新しいスタートを皆さんにお伝えする配信を行います。最近の騒動については、本当に申し訳ありませんでした。今日はそのすべてにピリオドを打つため、リゾート開発会社の優秀な社員、神崎さんをお招きしています」


「神崎誠と申します。現在こちらのハルカさんについて、ネット上で様々な憶測が飛んでおります。ですがそれらの憶測は事実ではありません」


「はい。事実ではないんです。その証拠に、あの土地に、私ハルカが執着していないという証明のために、エデン・パラダイス・リゾート社の神崎さんに現在その権利を譲り渡そうと考えております」


【えっ……ハルカほんまに手放すんか?】

【どうせ嘘だろ】

【ハルきゅんが悪いことするはずないのに……なんで手放すの? ハルきゅん……】


「はい。今日はハルカさんから素晴らしい土地を譲り受けることになりました。この土地は本当に素晴らしいポテンシャルを秘めていて、私たちリゾート開発会社が最大限に活用させていただく所存です。ハルカさんの理念に共感し、このプロジェクトに参加できることを誇りに思います」


「神崎さん、ありがとうございます。この土地を活かして、地元の皆さんと一緒に素晴らしいリゾートを作り上げていただけると信じています。私はこれからも地域社会の一員として、皆さんと協力していきたいと思っています」


「素晴らしいお考えですね。高校生とは思えないほど立派ですね」



 オレはそこで台本から外れるセリフを言った。



「そして、私ハルカに対して飛んでいる憶測――。それらが事実ではないという釈明をさせてください」


 神崎が慌てた様子を見せる。小声で耳打ちをしてくる。


「は、ハルカくん……っ」


「神崎さん。お願いします。どうしても、あれが本当だと思われることは我慢できないんです。だから、お願いします……」


 オレは真摯に頭を下げる。


「……少しだけですよ」

 小さく神崎が言った。


「ありがとうございます! では神崎さんの承認を得たということで、こちらの動画をドン!」


 オレが端末を操作すると、後ろのプロジェクターに薄暗い映像が流れ始めた。


『ハハハ! それにしてもチョロい仕事だよなー!』

『これからリゾート系の案件ガポガポ来るんだろ? 俺ら大成功じゃん』

『いえーい! 乾杯ッ! オラ! 真面目に働いてるゴミカスどもぶち抜いていくの、気持ちイイ~!!』


 などと、薄暗い店の中で、酒を飲んでいる最近よく見ることになった顔の人物たち。


【あれ……? これ、あのダンジョン発見したとかいう高校生探索者たちじゃ……?】

 そうなのだ。

【え。ここキャバクラじゃね……?】

 彼らは高校生だというのに、キャバクラで酒を飲みながら、両手に露出度の高い恰好の女性の肩を抱き、豪遊していた。


「わかりますか? 彼らの信頼性が。しかも彼らの居住地は四国です。四国の高校生です。そんな方々がどうやって、栃木のダンジョンを私より早く発見したというのでしょうか!?」


【あー……。真面目そうな高校生だと思ったのに……】


 横で神崎は口をパクパクさせていた。

 言葉にならない声とはこのことか。

 青い顔でオレを見ている。




────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価・応援コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

★が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!


もちぱん太郎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る