第76話 初めてのコラボ配信の約束。サプライズの準備

「風見さん、大変でしたね。私はあなたを信じていますよ。少しお話をしませんか? よかったらお力になれるかもしれません」


 同情しているような表情で、リゾート会社の社員である神崎は言った。


 ジェルで固めた短髪の黒髪と細い目をした男だ。

 身長は180を超える長身であり、高級そうなスーツで身を包んでいる。


 オレは慌てた様子を作って返す。

「ちょ、ちょっと待ってください。あの、家の中が、アレでして……」


 オレは扉を閉めて部屋を片づける――と見せかけて、室内にカメラを設置した。


 そして再び玄関の扉を開けて神崎に言う。


「すみません。お待たせして……。神崎さんを部屋に入れる準備ができていなくて。もう大丈夫です。どうぞ」


「ああ、ありがとうございます。ハルカさん、どうやら困っているみたいですね」


「……ええ」


「今日はビジネスではなく、困っているあなたの相談に乗ろうと思って来たんです」

 神崎は冷たそうな顔つきに、柔らかな笑顔を乗せて言った。


「実は……」

 とオレは話し始める。

 見ての通り、扉にも落書きをされてしまったことを話すと、彼は「それはお辛いでしょう」と言った。


 それから神崎は「そんな卑怯なことをする人間は許せませんね。負けないでください、ハルカさん」と励ましてくる。


 もし神崎と落書き犯が談笑している絵を、璃音が用意することができたら、この励ましシーンの前に入れたら面白くなりそうだな――とオレは考えていた。


 リゾート反対デモの連中と、神崎が一緒にいる写真はすでに抑えている。

 璃音が拾ってきた情報によれば神崎と彼らはそれなりに長い付き合いのようだった。

 もちろん、『地元民によるリゾート建設反対』の連中は、地元の人間などではなかった。

 本籍は県外にあり、それらもすでに、いつでもばらまけるようになっていた。

 個人情報の暴露は犯罪にもなりかねないため、慎重な対応が必要ではあるが、それはどうとでもなる。


 いや、やはりここに字幕を入れて『しかしこの励ましている男、実は仕掛け人なのだが、逆にドッキリを仕掛けられていることをまだ知らない……』などとエンタメ風にしたほうがいいだろうか。


 神崎は落ち着いた声のトーン、親しみやすい表情でいう。

「大丈夫ですよ。風見さん。あなたはやってないんですよね。わかりますよ。私にはあなたがそういうことをする人間には見えません」


 これ、炎上によって心が折れてたら、欲しい言葉なんだろうなあ……とオレは冷めた顔で見ていた。


 神崎は真剣な顔つきになった。

「ですが、風見さんが無罪というものが真実だとして、みなさんが納得してくれるとは限りません」


「え……」


「真実がいつも通るとは限らない。いえ、通らないことのほうが多いでしょう。残念ながら、この世界はそうできています」

 眉を八の字にし、オレに寄り添うように言ってくる。


「……はい」


「もしよろしければ、私がそのバッシングを肩代わりしましょうか?」


「そ、そんなことができるんですか?」


「一時的に名義を変えるのはいかがですか? 私を信じていただけるのなら、バッシングが収まったら土地を返しましょう」


 吹き出しそうになってしまった。


 ざ、雑すぎる……。


 しかし、メンタルが弱っている人間はその程度で騙せてしまうのかもしれない。

 神崎は自信満々の様子だ。

 どこかで、何回か成功体験を積んでいるような印象を受けた。


「大丈夫です……。自分だけで、頑張ってみます」


 神崎がオレの肩に手をのせて、目をまっすぐに見つめた。


「風見さん。人間一人では耐えれないことはあります。そんなとき、誰かを頼ることは決して悪いことではないんですよ。私でなくてもいい」

 心底心配するような様子で神崎が言う。


 これ、『私じゃなくてもいい』は絶対思ってないだろうなぁ。


「あ、そうですよね……。じゃあ、頼ろうかな……」


 神崎が笑みを深める。

「はい。お任せください」


「ええ。ありがとうございます。ちょっと叔父を頼ってみます」


 いうと神崎は一瞬だけすごい形相になった。

 おもろ。


「お、叔父ですか?」

 多分オレの家庭環境の調査とかもしてるんだろうな。

 叔父なんていないはず、って言いたいんだろう?

 でも言えないよな。

 オレの叔父の有無なんて知ってたら変だもんな?


「はい。最近ずっと連絡がなかったけど、最近連絡がとれるようになった叔父がおりまして」


 まぁそんな人間いないけど。


「最近、ですか。それは風見さんが配信者として成功してからですか?」


「はい」


「そうであれば気を付けたほうがよろしいかと。成功したときに現れる親戚の話などはよく聞きます。本当にその方は本当に信頼できるんですか? 確実に、金に目がくらむ恐れはないのですか?」


 神崎はその存在しない叔父を、言外に貶める話の流れにもっていった。


 その後も、オレは架空の人間を頼ろうとしてみた。

 すると神崎は、その人間の疑惑を深めようとしてくる。

 オレはそうやって神崎を慌てさせつつ、いくつかの情報を聞き出していく。

 例の高校生配信者グループやリゾート反対デモ活動の人間たち――神崎はいうには『彼らと会ったことはおろか連絡をとりあったこともない』など。


 でも残念。

 一緒にいる監視カメラの映像は入手済みなんだよな。


 あとプライベートで飲み会をしている写真なんかも持っている。

 璃音――恐ろしい子。


 オレは動画用の素材を神崎から撮り終わった後ににっこりと笑顔を作って言う。


「でもやっぱり、自分一人で頑張ろうと思います!」


「えっ……」


「よく考えたら炎上も、別に燃えても死にはしないし大丈夫でした」

 わはは。と笑って見せる。


 ここで一つオレは迷っていた。


 神崎に対し、お前が裏にいることを知っていると伝えるか否かである。

 伝えた場合のデメリットは対策されてしまう事。

 メリットは、神崎が実力行使などを選んでくれればそれも動画素材になっておいしいということだ。

 退路をふさがれた神崎が破れかぶれになって悪徳探索者に依頼して暗殺なんかを試みてくれたら、もう最高である。

 

 うーん……。


「風見さん。考え直したほうがいいですよ。あなたへのバッシングは相当なものです」


 どうしようかな。

 どっちでもなんとかなりそうだし、どっちでもいいか?


「その矛先は、あなただけでなく、あなたの周りへ及ぶ可能性もあります。本当によろしいのですか?」


 などという、ほぼ脅迫にしか聞こえないセリフまで神崎は言ってきた。

 オレの意識が急速に冷えていく。

 オレは神崎に『お前を破滅させるネタを持っている』ということを伝えることをやめた。


 逃げ道をすべて消してしまえば、彼の矛先が真白さんや鉄浄さんなどや璃音、小早川沙月さんなどに向かう可能性がある。

 少なくとも現在神崎はその方向性で考えているように見える。


「……たしかに、そうですよね。別にオレ以外に矛先は向いても大丈夫ですし、どうでもいいんですけど。これ以上オレが攻撃されたら困っちゃうな。評判落ちたら困るし……」

 などとゴミくず発言をしてみる。


 ここでオレが周囲をかばう様子などを見せてはいけない。


 オレに周りの人間を攻撃されたくない気持ちがあることが露見すれば、そこを突かれるからだ。


 オレはあまり認めたくないが、関わった人たちをそれなりに大切には思っているようなのだ。

 前回の世界線ではそういった感情がオレを狂わせたし、不平等な契約を結ばれる原因ともなった。

 持たないほうがいい感情だな、とは思う。


 だがいくら頭でそう考えたところで、その気持ちは消えなかった。


 できれば――。

 オレが幸せになる邪魔にならないのなら、周りのみんなだってハッピーでいてほしいのだ。



「……わかりました。では、正直にオレの気持ちをお話しします。神崎さん。オレはあの土地が欲しい。あそこが産む利益が欲しい。ですが、さすがに自分の人生を棒に振ってまで守る気はありません」


「ああ。それはそうでしょう」

 神崎は納得するようにうなずいた。

 おそらく彼にとって理解しやすい考え方だからだ。


「でもオレも配信者です。人気が欲しい。ですから、ダンジョンリゾートを譲渡して、美談という形に持っていきたい。勿体ない気はしますが、今のネットの状態を見ているとオレが所持しているのはリスクにしかならない。わかりますか?」


「ええ。ええ。わかりますよ。風見さん」


「オレのチャンネルであなたと一緒に配信させてもらうことは可能でしょうか? あと譲渡という形をとりますが、金銭でのバックは別にお願いします」


「ええ。もちろん。いいでしょう」


「筋書きは神崎さんが書いてください。――オレの好感度が最大限上がる台本を」


「もちろんです。こういってはなんですが、風見さんもご理解されたでしょう。人というのは賢くない。レベルの高い筋書きさえあれば、間違いなく上手くいきますよ」

 神崎が邪悪な笑みを浮かべた。


「では素晴らしい台本を作っておきますよ。風見さん。あなたも賢い方だったんですね」


「ええ。なるべく早くお願いします。正直、このバッシングされている現状には耐えれそうにない。明日、一緒に配信できますか?」


「さすがに明日は厳しいですね。一週間ほどいただけませんか?」


「神崎さん。では二日後でお願いしますよ。多少粗があっても構いませんから」

 どうせその台本使わないから。なんなら白紙でいいまである。


「……わかりました。最速で作らせましょう」


 オレは神崎と二人で邪悪な笑みを作り、握手をした。

 神崎が帰ったら彼との生配信中に流す動画を作らなきゃ……。


 高校生配信者たちや、リゾート反対派用のやつも作らなきゃならないな。


────────────────────────

あとがき



皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価よろしくお願いいたします!!


お兄さんと仲良くコラボ生配信をする約束をしたよ!

楽しい配信になるといいなあ。


やっぱり初めての人とのコラボは緊張するね。

だからちゃんと楽しくなるように準備していかなきゃ……。


お兄さんも喜んでくれるといいなあ。

あとお兄さんのお友達たちも、忘れたら可哀相だよね。

ちゃんとみんなで仲良く、盛り上がろうね!


大きな花火を打ち上げて、爪痕残していこうよ!!


もちぱん太郎

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