第75話 釈明配信(ただし釈明する気はない)

 オレは謝罪用のダークカラーのスーツを着ていた。

 ネクタイは、ピンク色のやつだ。

 本当に釈明したいと思っているんですか? という印象になるかもしれない。


 さらに自分でもちょっとどうかと思うのだが――オレは化粧をすることができる。

 前回の世界線では、女性配信者のトップランカーのゴースト配信者ももちろんしていた。

 その際に身に着けることになった技術である。


 その化粧技術によって、目の下にクマを作ったりなど、多少やつれている様子を演出した。

 ネクタイもよれをつくり、炎上が『効いている』感を出している。

 ボロアパートの一室なので、照明が悪いこともあり、この調子の悪さが『作ったものである』とはバレはしないだろう。


 オレは配信を始める。


「この度は世間の皆様をお騒がせしてしまって、申し訳ありません」

 オレは頭を下げずにカメラを見続けながら話す。


「今回のダンジョンリゾートの件について、僕の口からお話しさせていただこうと思います」


 オレはそう口火を切った。


「最近、ネット上で僕がダンジョンをリゾート化しようとしている件について、色々な噂や誤解が広がっています。それで、僕が、こんなふうに叩かれてしまうなんて、思わなかったです。とても、つらいです……」


 秘技――お気持ち表明!

 普通に考えればめちゃくちゃ悪手だ。

 被害者ぶって言い訳しているように見えてしまう人が、かなりの数生まれてしまうだろう。


「でも僕は、何も悪いことはしてません……。本当なんです。信じてください……。みんなが、僕以外のみんなが嘘を言ってるんです」


 加えて、自分は悪くないが、自分以外のすべてが悪い! というお気持ち表明。

 実際に『オレは悪くなく、オレを叩いているやつ全員が悪い』ということは事実なのだが、こんな言い方をされたら、こいつのほうが嘘つきなんじゃないの? という気持ちが生まれるはずである。


「でも僕は、誓って、嘘をいってません……! あの高校生三人も、地元のリゾート反対デモの人たちも、あっちが嘘をついてるんです……!」


 信じてください。と頭を下げる。


「僕は、間違ってません……! 間違ってないから、リゾート開発は進めます……! 正規の手段で手に入れた山だから、僕は絶対に手放しません……! 皆さんもいつかはわかってくれると、信じています……!」


 それプラス、現状握っている権利は絶対手放さないよ――という主張をする。

 できるだけ哀れっぽく、大人の入れ知恵のない普通の高校生を演じて、そのあとも話しを続けた。


 そんな調子でオレは10分程度の配信を終えた。


 ネットの人たちが大事にしているのは印象だ。

 真実を大事にするのではなく、自分が真実だと思ったほうの味方をする。

 であれば、今回の配信がめちゃくちゃ嘘っぽいオレは叩かれるだろう。


 そして、エデン・パラダイス・リゾート社の神崎たちであるが、彼らも焦るはずだ。

 こんなにボコボコになっても土地を手放しませんという主張をオレは一貫しているのだから。

 オレを叩き潰しただけでは、彼らの目的は達成されない。




 この配信の後いくつかのことが起こった。

 まずオレがキャンプ動画のために集めた配信者たちだ。

 彼らの反応はおおよそ三つに分かれた。


 まず一つ目は、オレに対して非難をする人たち。

 二つ目は、オレに『信じている』と言ってくる人たち。

 三つ目は、オレに真偽を問おうとしたり、『すみません。騒動の間は距離を置かせてもらいます』と言った中立派の人たち。


 それから、真白さんと小早川沙月さん、鉄浄さんは、オレを深く心配する連絡をしてきた。

 自分にできることはないか? 何でも手伝うとまで言ってくれた。


 ちなみに璃音は「遥さん、楽しそうですねえ」とだけ連絡してきた。

 別に楽しくはない。

 効果的だと思うからやっているだけだ。



 あとは高校でずっと友人をしていた、前回の世界線で不義理をしてしまった男、アキトも連絡をくれた。

『最近お前すげえ頑張ってるよな。なんか遠い世界に行っちゃったような気がするけど、俺はお前を信じてるよ。だから何かあったら言えよ。絶対力になってやる』と。


 ……こいつマジでいいやつなんだよなぁ……。

 なんで前のオレはこいつを信じなかったんだろう。愚かすぎる。



 そんな中立派や身内だけではなく、敵対勢力の動きもあった。

 高校生グループや、自称地元民のグループはその攻撃を一気に強めてきたのだ。


 高校生たちはオレと会ったこともないのに

「ハルカは偉そうだった」とか

「初めてあったときに『君たち数字(登録者)いくつ?』と聞いてきた。俺たちが答えたら『あ、そんなもんなんだ。オレと話せて嬉しいでしょ』と爆笑した」などという嘘エピソードが重ねられた。


 デモグループはネットニュースにも彼らの主張が乗るようになり、テレビなどのメディアでも多少取り上げられていた。

 ダンジョン前の座り込み運動なども行い始めた。

 さらに、元々の土地の所有者だか、所有者の縁者だかを抱き込み『半ば詐欺のような手段でだまし取られた』『売らないと殺す』と脅されたなどの主張をし始めている。



 あとはオレの住所がネット上が割れた。



 オレと同じ学校に通っているという人間が正義感(笑)から、ネットでオレの住所を公開したのだ。


 ちょうどいいし引っ越すか。


 ちなみに璃音が調べたところ、その書き込みをしたのはオレの学校の人間ではなかったらしい。

 神崎と互いに連絡先を持っている人間が書き込みをしていた。

 ただしこの情報は表に出しようがないため、使えない。


 とりあえず、そのことが分かった段階でオレは自分の家のドア前や、窓の外がわかるように隠しカメラを仕掛けた。監視カメラではなく、隠しカメラだ。


 なぜか?

 神崎の指示によって、オレの住所が公開された――ということは、つまり、オレの住所を誰もが知りえる状態にしたかったということだ。


 こんなの、オレの家に何かするって言ってるようなもんだろ……。



 案の定、窓に石が投げ込まれたり、ドアに『犯罪者』とか『出ていけ』などと書き込まれたりしはじめた。


 でも全部動画とれてます。

 さて、この人たちは誰なんだろうなぁ……。




 と、考えていると、玄関のチャイムがなった。




 そこにいたのは神崎誠だった。

 彼は神妙な、とても悲しそうな表情をしていた。


「風見遥さん、大変でしたね。私はあなたを信じていますよ。少しお話をしませんか? よかったらお力になれるかもしれません」







────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価よろしくお願いいたします!!


ハルカくんが困ってたら、優しいお兄さんがきてくれましたね。

頼れるかな……?

この後、全部任せちゃってもいいのかな……?


炎上して心が死んでるときに、信じられそで有能なお兄さんが来たら、全部任せちゃってもおかしくないよね?


もう何も考えたくないよね……わかるわかる。全部俺に任せていいよ。

土地も俺に任せてね。

絶対に君のためになるようにするからね。


やさC



次回――もう疲れたよパトラッシュ……。どうしたら、この辛さはなくなるんだい? 教えてお兄さん。教えてネットのモミの木よ。


お楽しみに!



もちぱん太郎

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