第68話 森のサトーさん

 オレはそのほとんどが沈んだ夕日が照らす、森の中を歩いていた。

 かなり離れた位置で、森には似合わない上等なスーツを着た男が歩いている。


 310サトーのえんためチャンネル管理人、佐藤誠一郎。

 サトーさんと呼ばれている彼は、バリバリのエリートから転身してYouTuderになり、そこでも成功している。

 そんなバリバリの有能人間だった。


 オレはひそひそ声ウィスパーボイスで、画面の向こうに語り掛ける。

「たぶん、あれですね。トイレの位置がわからなくなったんでしょうね。サトーさんが事件を起こすなんて、そんなまさか……。信じられませんよね」


 佐藤はどんどん人気のない方向へと向かっていく。


「でも皆さんご心配なく。佐藤さんがその辺でお尻を出した子一等賞をしたら、ちゃんとカメラを別の方向に向けますので!」


 佐藤は森の少し開けた位置まで来ると足を止めた。


 まず彼はスマホを確認した。

 その後でごそごそと鞄を漁りだす。


「ティッシュとかですかね……」


 しかし佐藤は紙とは程遠いものを取り出した。

 それは古びた石の灯籠である。

 表面には複雑な紋様が刻まれており、中心部には小さな青白い炎が揺らめいている。


「あー……。マジですか。佐藤さん。信じてたのに……」

 オレは心底裏切られた――という声を出した。


「あれは、湧きの石灯籠いしどうろうですね……」

 オレはアイテムの効果を説明する。


 湧きの石灯籠いしどうろう

 それはモンスターを呼び寄せる・・・・・道具である。

 設置すると、周辺の土地の魔力を消費し、モンスターを召喚・作成する。

 その効果は数時間続くという代物である。


 佐藤の周囲にモンスターが湧き始める。

 灯籠の火がまだ弱いため、ほぼ無害なモンスターだ。

 この青い炎が強くなればなるほどに、強力なモンスターが出るという仕組みだ。


「まさか佐藤さんがここで、モンスター召喚テロを起こすなんて……。いったいどうして……」

 オレはショックを受けた様子を見せながら、佐藤に近づいていく。


 そして、十数メートル近くまで行ってから声をかけた。



「佐藤さん。何をしているんですか?」


 佐藤はオレを見つけると一瞬だけ目を細めるが、普段の動画と変わらない平静な様子で声をかけてくる。


「ハルカさんこそ、なにをされているんですか? こんな森の奥で。僕はちょっと迷ってしまってね……」


「へえ……」


「キャンプ地に帰る道を教えてくれませんか? しかし、ハルカさん。僕はここにモンスターが湧かないと聞いてきたんですが、湧いていますよね。これは問題じゃないんですか?」


「あ、オレのせいにしちゃう? 佐藤さん」


「ハルカさんも気づかなかった、という可能性もありますね。ここはリゾート地として相応しくないかもしれません」


 そういって佐藤は肩をすくめた。

 明らかに自分が召喚したところを見られていると判っているはずなのに、すごい面の皮の厚さだ。

 今オレが動画をとっている、もしくは配信していることを警戒しているようだ。


 そして佐藤はスマホを触ってオレに言う。


「ここにモンスターが現れたということは、キャンプ地に戻ってみんなで話しましょうか」


 穏やかに微笑みながら彼は言う。


「それで誤魔化せたつもりか? 佐藤さん。――いや、佐藤」


「あ、暴力で脅す気ですか? それはよくないと手だと思いますよ。僕がここに入ったことは、ちゃんと伝えてから来ています。僕がここで消えたら、困るのはハルカさんですよね」


 佐藤は落ち着き払った様子で笑う。


「佐藤。お前、ここでモンスター召喚をしたよな?」


「なんのことか、わかりません」


「お前の後ろの石灯籠さ、モンスターを召喚するアイテムなんだよ」


「そうなんですか? 知りませんでした。そんなものが初めから置いてあるなんて、やはりここはリゾートに相応しくない可能性がありますねえ」


「初めから? お前が置いたんじゃないのか?」


「僕がここにきたときからありましたよ。まさか、モンスターの召喚装置だなんて、思いもしませんでしたけど」


「語るに落ちたな……佐藤。この様子は最初から最後まで、配信させてもらっている……!」


 オレが言うと佐藤は肩をすくめた。

「君が配信していないことは確認していますよ。前にも似たようなケースがありましたから、最初にそれを確認するようにしています」


「あ、今はしてないけど。してるよ」


「……どういうことでしょうか?」


「遅延配信――って知ってるか?」


 オレが言うと佐藤は微笑んだ表情のまま固まった。


「証拠を見せてやる」

 オレはスマホをいじり、遅延配信の時間設定をいじる。

 今すぐ配信がはじまるようにと。


「さ、見てくれ」

 佐藤はわずかに焦った様子で、自分のスマホをいじる。

 すると……声がわずかに聞こえた。


『はい。こんばんはー。ハルカちゃんねる、ハルカです』


『実はですね。このリゾートダンジョンに、不法侵入者が現れました。不法侵入者はすでに捕らえたのでご心配なく』


『どうやら不法侵入者の方は協力者がいるらしく、その協力者が事件を起こすというのです。その協力者の名前を聞いたとき、オレは信じられませんでした……』


『その配信者の名前は310のえんためチャンネル、佐藤誠一郎さんです。オレは今でも信じられていません……。佐藤さんは、そんな人じゃないからです。彼は、いつも視聴者を楽しませるために頑張っています。その佐藤さんがそんなことをするわけ、ないですよね』


 佐藤はその配信を見て、眉根を寄せた。


「はい。ということでですね。佐藤さん! ばっちり全部とってます! あなたが石灯籠を置いたところも、言い訳するところも! もうすぐ流れますね!」


 佐藤は頭を押さえ、険しい顔になって深い息を吐いた。


「やられたよ。ハルカくん。まさか、僕が罠にかかるなんてね。プランが全部つぶされてしまったよ」


「さて。どうしてこんなことをしたのか、聞かせてもらいましょうか」


 オレが尋ねると、遅延配信に対してこんなコメントが流れてきた。

 時間にズレがあるから、まだ佐藤が犯行をする前についたコメントである。


『あの佐藤さんがそんなことするわけないじゃんwww ハルカス、被害妄想すぎwww マジで頭わりーみてえだなあwww 二度と表に出てくんなカスw 佐藤さんはすげー誠実なの、みりゃわかるっしょwww』


 オレはこのコメントの主が、あとで何て言うのか少し楽しみになった。






────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

佐藤がモンスターを呼びましたね!

来週は佐藤問い詰め回です!


楽しめたよー、次も読むよーって方は、フォローと★をよろしくお願いいたします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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